第14話 圧倒的差

 教室内、授業と授業の合間の十分休憩中。

 俺は、一人でデレっとした笑みを浮かべていた。

 朝、可愛らしい美少女、小塚さんから『ファンです』と言われて、気持ちが高鳴っているのである。


「どうしたの慶悟、そんな気持ち悪い笑み浮かべて」


 幼馴染である南央が、眉根を引きつらせながら尋ねてくる。


「き、気持ち悪いとは失礼な!」


 だが、今の俺には、微塵も落ち込む要素など無いのだ。

 俺は自慢げに腕を組みながら、高らかに言葉を紡ぐ。


「ふっ……聞いて驚け南央。実はな、俺の活躍をテレビで観てくれてた子がいてな、その子になんとファンですと豪語されたんだ!」

「おぉー! 凄いじゃん! よかったね!」

「だろ? だろ⁉」


 俺は、同意を求めるように南央へ詰め寄る。


「やっぱり、声掛けられるって嬉しいよね。私もしょっちゅう声掛けられるし、サインも求められるよ」

「……えっ、マジ?」


 そこで、俺の表情は素に戻ってしまう。

 南央は、そんな俺のことなどお構いなしに、話を続けた。


「うん、大会とか出ると、バスケファンとかメディアの人に声掛けられたりとか」

「な、なんだって!?」


 この時、俺は話す相手を間違えたと後悔していた。

 相手はウィンターカップを制覇して、将来の日本代表入りも期待されている将来を担うプリンセス。

 周りが放っておくわけがないのだ。


「ち、ちなみに……どれぐらい声掛けられたことあるの?」


 聞くのは憚られたが、どれぐらいの差があるのか知りたくて、つい尋ねてしまう。

 南央は顎に人差し指を当てながら、考えるように上を向いた。


「うーんどうだろう……100から先は数えてないなぁー」

「な、なんだって!?」


 つまり、南央はもう百回以上は声を掛けられたりサインを求められているということ。

 一回で浮かれている俺とは大違いだ。

 圧倒的差の前にして、浮かれていた自分が恥ずかしくなってしまう。

 絶望感から、俺は机に突っ伏してしまった。


 冷静に考えてみれば、あれだけ雑誌やテレビなどのメディアで取り上げられている南央が、街で声を掛けられないはずがない。

 そもそも、ファンの人数でマウントを取ろうとしたこと自体が間違っていたのだ。


「ははっ……はははははは……南央、俺を殺してくれ」

「急にどうしたの⁉ さっきからニヤニヤしたり落ち込んだり、情緒不安定すぎでしょ⁉」


 改めて、幼馴染がどれほどの存在であるか、しかと思い知らされた。

 だがしかし、ここで落ちこんでいる場合ではない。

 南央に勝つために、まず目指すべきはサスケ完全制覇。

 そのためには、毎日の鍛錬あるのみ。

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