【短編】ウェザーリポーター~空の気持ちを伝える少女と、変な雪だるまの話~

夜葉@佳作受賞

第1話 空の精霊

 雨は空が泣いているんだって誰かが言った。私も多分そうだって思った。だって、空も悲しいって思う事はある気がしたから────。




「ったく水不足はいつまで続くんだよ。これだけ水が足りないと、酒の方が安く飲めちまうんじゃねえか?」


「その前に俺ぁ今日で酒は辞めるよ。捧げ物が出せなきゃ、もっと酷い目にあうからな……」


「……水汲み要員にだけは回されたくないねぇ。あんなの、行って帰って来るだけで一日が終わっちまう。そんな暮らしの何が楽しいってんだ」


「全く、俺達がこれだけ捧げ物を出し続けてるってのに、空は何をやってんだよ。チクショウめ……」


 昼過ぎ、とある街の酒場にて。

 二人の男は英気を養うため、酒を流し込み愚痴を零し合う。


 そんな彼らから少し離れた席で、二人は食事を取っていた。


「あー! あいつ今空の事バカにしたっヒュル! オイラちょっと言って来るっフロー!」


「ストップだよフロロ。ご飯中に席を立つのは、ご飯に失礼って言ってるでしょ」


「フルーッ。食べ終わったら絶対文句を言いに行くっフロよ! それより、怒ったらオイラの純白まんまるボディが少し溶けたっヒュー……。アマギ、水のおかわりを頼んで欲しいヒュル!」


「空の精霊ってのは、こういう時大変だね」


 雪だるまのような風変わりな姿をした精霊、フロロは怒っていた。耳に入った悪口が精霊を興奮させ、真っ白な身体の一部を溶け落とす。


 そんな精霊の対面では、どこか抜けたところのある少女、アマギが黙々と食事を進めていた。アマギは怒りの矛先を自分へと向けられる前に、そっと手を上げ酒場の店主を呼びつける。


「マスターのおばちゃん、お水のおかわりを貰いたいんだ。あ、あとステーキももう一枚……やっぱり二枚、二枚お願い」


「え、水のおかわりかい? お嬢ちゃんごめんねぇ。水不足の今、水は一人一杯。おかわりは出してないんだよ」


「む、どうしても無理なの?」


「どうしてもって言うなら、かなりお金は貰う事になるけど……」


「かなりって、どれぐらい?」


「ステーキ二枚分と同じぐらい」


「……分かった」


 法外な値段を伝えられたアマギは小さく頷く。胸の内で小さな覚悟を決めると同時に、アマギは店主の顔を見上げ、注文を口にするのであった。



 ────────────────────



 食事後、街中を歩くアマギとフロロ。

 うだるような暑さの中、二人は言い争いをしていた。


「アマギ! 見損なったっフル!」


「水不足で困っているの。仕方ないよ」


「だからってオイラの前でステーキを食べないで欲しいっヒュー! しかも二枚もなんて、人の心は無いっフロ!?」


 一人満足な食事を終えたアマギに対し、水一杯も飲めなかったフロロは怒りに震えていた。


「お肉はそれほど高くなってないから、おかわりしても問題無いの。それに精霊に言われなくたって、私にも人の心はあるよ」


「な、どういう事っヒュ?」


「捧げ物を貰っても働かない精霊がいないのは、フロロも知ってるはず。だったらこの街の精霊は今何をしているのか、私達で解決するの。それが私達の役目、だよね」


 アマギの一言に疑問符を浮かべる、空の精霊フロロ。どうしてこの街が水不足に陥っているのか。その原因が精霊にあるとアマギは踏んでいた。


 そしてアマギの言う役目。それはフロロが彼女と行動を共にする理由でもあった。


「でも、なにか分かったフロか? オイラには水気が無くて今にも溶け出してしまいそうって事ぐらいヒュルー……」


 アマギの含みのある言い方を聞いて、フロロは考えが何なのか気になって仕方がなかった。会話を続けながら街を歩き続ける二人。活気のない街を前に、アマギは一つ一つを紐解きフロロに説明する。


「確かにこの街は乾いてる……。若者が、特に働き盛りの男の人が全然いない」


「水汲みに行ってるとか言ってなかったヒュル? 力持ちは多い方が良いフロ!」


「大変な水汲みに行くのは、捧げ物が出来なくなった人だって聞いたよ。じゃあ、最後まで水汲みに行かなくていい人は誰?」


「お金をいっぱい持っている人っフル」


「そう。という事で、ここに来てみたよ」


 フロロの横を歩いていたアマギが、ふと立ち止まった。同じくして立ち止まったフロロの目の前にあったのは、街の中でも随一の立派な豪邸であった。


「ここに捧げ物を集めて、毎週雨乞いの儀式をしてるんだって。でも、雨の精霊はずっとやって来ていない」


「そんな事は、ないはずっフル……」


 捧げ物を貰った空の精霊は、人のためにその力を行使する。それが、それこそが、本来与えられた精霊の使命なのだ。


 動揺するフロロに対し、アマギは揺らぎの無い目で応えた。



「だから調べてみよう。町長のお家を」



 異常気象を正し、異変に見舞われた空の精霊を救う。

 それが少女アマギと精霊フロロ、選ばれし者達の使命なのであった。

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