50話 推したちの学園生活
「私は
「僕は
見目麗しい転校生の挨拶にクラスの男性陣は大盛り上がりだ。
「ヒカリンさんって北欧系の血が流れてるのですか!?」
「おばあちゃんがイギリス人なんだよね!? 俺、動画で見たよ!」
「うわ、めっちゃ目が綺麗」
「式守さんも銀髪すげー! ロシアの方の生まれとか?」
「2人とも可愛いがすぎる……」
それもそのはず。
彼女たちの美少女っぷりはもはや無双だった。
そしてうかれる男子たちに比べ、クラスの女子陣はテンションがダダ下がりかと思えばそうでもない。
なにせ有名人とお近づきになるチャンスなのだ。
仲良くなったら有名人同士が集まるパーティーとかにお呼ばれしちゃうかも! なんて思惑が透けて見える女子たちもいる。
片やロザリアに日本語は喋れるのかと丁寧に尋ねていたりする人も見受けられたので、彼女たちが受け入れられるのは容易そうだ。
「ってかヒカリンさんってカツラギと知り合いなんですか?」
「最近はちょっとあかぬけたけど……あいつって元はハゲっていうか、え、今は坊主?」
「あいつも俺と同じく坊主の魅力に気付いたようだ。さすがだな同志、
最近、ヒカリンのスタンガン攻撃で髪の毛がチリチリに焦げてしまい、坊主にイメチェンした吉良くんが何やらボソボソ呟いている。
「式守ちゃんも神無戯くんとお友達だったりするの?」
「今朝も一緒に教室に入ってきてたよね?」
「3人とも共通の知り合いなの?」
歓待される2人に反して、俺に向けられた視線は少しだけ棘のあるものだった。
嫉妬、困惑、好奇、様々な感情が含まれるクラスメイトたちの注目。
そのくせ俺に直接質問してくる人がいないのは、俺がクラス内で如何に浮いてるかを物語っている。
「ほら、その辺は後にしておこーぜ。もう授業始まるし」
その場を収めたのは坊主になってもクラス内ヒエラルキー上位に属する吉良くんだった。
彼の発言を皮切りに2人への質問の嵐は一旦、静まった。
◇
終業のチャイムが鳴り響き、放課後が訪れる。
その頃になるとヒカリンたちの転校はSNS伝いで完全に拡散されていたようだ。
その証拠に窓から外へ目を向ければ、他校の制服を着た生徒が校門前に大挙している。
昼休みなどもヒカリンやロザリアを一目見ようと、他クラスや高学年の先輩方まで俺たちのクラスに顔を出す始末だったが、2人は上手にかわしていた。
なんとなくヒカリンは学校生活を純粋に楽しんでいるようで、片やロザリアの方は油断なく周囲を観察しているように見えた。
たった一日でクラスの中心、人気者へと上り詰めたのはさすが人気YouTuberである。
「そういえばヒカリンさんと式守ちゃんは部活とか興味あったりするの?」
放課後はみなが各々の時間を自由に過ごす。
当然、部活動に励むため移動を始める生徒たちも多い。
そんな中、誰かが発した質問に、その場の全員が一瞬にして静寂に支配された。
「……!」
それはまるで誰もが水面下で腹の底を探り合い、激しい勢力争いに興じる武将たちになったような覇気をまとっていた。我こそはと名乗りをあげるために牽制しあう、嵐の前の静けさに似ていた。
そんな沈黙を破ったのはヒカリンご本人だ。
「部活は入らないわ!」
「僕も既存の部活動には興味ないです」
「だっ、だよな~! YouTubo活動で忙しいんもんな」
「式守ちゃんもどこにも入らないのかー」
なぜか安堵し始めるクラスメイトたち。
これはあれか。
みんなのアイドルが誰のものにもならない、どこにも所属しないといった気持ちからくる弛緩のようなものなのだろうか?
しかし、そんな平和も次のヒカリンの言葉で木っ端みじんに破壊された。
「部活は入らないけど、作るわ! あたしとレイ、それとバカンナギでね!」
「ゆーまと部活動、楽しそうです」
この発言にはクラスメイトの顔が一斉にこっちに向いた。
首がギギギギッと鳴ったのかと錯覚するほど、奇怪な動きをした人も見受けられてちょっと怖かった。
「え! じゃあ俺も入る!」
「私も! 私も入りたい!」
美少女2人との楽しい部活動。俺も【
「入部条件はただ一つ! YouTuboのチャンネル登録者が30万人以上よ!」
「ふるってご参加しないでくださいです」
2人のその断り文句にその場の全員が押し黙る。
それからクラス内はざわつく。
「登録者30万人以上が条件? っていうとYouTubo関連の部活になるってこと?」
「ヒカリンは登録者1500万人だろ……?」
「一緒に部活動……コラボなんてしてもらったら一瞬で有名になれるよな」
「そうか。本気じゃない人間と共に活動したくないって、さすがプロだ」
「売名目的ですり寄ってくる人もいそうだもんね……」
「というかコラボ案件って、基本的に登録者数の差×3円じゃなかったっけ?」
「うっわ。仮に登録者が30万人いてもヒカリンとコラボするなら、1470万×3円=4410万円!?」
「それを部活動という名目でタダになる。超お得だな……」
「もはや女神やん」
「式守ちゃんも有名YouTuberっぽいよな。もしくはVの中の人とか?」
「そうなるとなんでカツラギが?」
その疑問に行きつくのは当然だった。
「えーっと、神無戯も30万人以上の登録者がいるのか?」
クラスを代表した吉良くんの質問に、ヒカリンは真っ向から言い放った。
「バカンナギは昨夜で30万人到達ね。しかもYouTuboを始めて3カ月で30万人なの。逸材ね」
「うそ、だろ……? 神無戯が、俺より5倍以上のチャンネル規模を持ってる……? やはり坊主パワーは侮れない……」
なぜかその場で膝から崩れ落ちる吉良くん。
「……やっぱ人を見下し
それから何事かを床に向かってブツブツ呟いて叫び出す吉良くん。
だ、大丈夫かな?
そんな吉良くんやクラスメイトのざわめきをやり過ごしたヒカリンは不意に俺の手を取る。
「ほら、高校生って言ったら放課後は部活動でしょ?」
「ヒカリンは少しスキンシップが多すぎです」
「なーに言ってんの! レイもまとめて来なさい!」
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆーまごと抱き着かないでください、です」
ヒカリンの強引な肩組みに俺たちはたたらを踏む。
それでもヒカリンが心底楽しそうな笑顔を散らすから、俺は文句を言い出せなかった。
ロザリアも心なしか頬が蒸気していたので、きっと楽しいのかもしれない。
そりゃあそうか。
あんな殺伐とした状況に身を置き続けていた2人からしたら、これはきっと大切な日常の1ページになるのかもしれない。
ちなみに俺へ
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