49話 俺が異世界を配信すると現実がファンタジー化するとか聞いてない!


●ニャフーニュース掲示板●

【衝撃】人気YouTuberマポトが行方不明?【速報】


1:またやらかしたんか?

2:前回は飲酒時に女性暴行で逮捕だったっけか

3:マポトもそうだけど最近YouTuberが死んだり失踪したりって事件多くないか?

4:そういえばシバイターも活動休止なんだっけ?

5:ツブヤイッターで活動休止宣言してるな


6:なあ……マポトとシバイターといえば、最近とあるゲーム配信者がやってる妙にリアルなゲームに、敵キャラとして出てきたばっかりだよな


7:補足するならその配信者の配信で『ハラハラ三銃士』の三美女も死んでる

8:【おっさんと妹】ってチャンネルか

9:配信はアーカイブに残さない主義か。見たいな

10:俺、見てたけど、あれはマジでやばいぞ


11:あれって本当にゲームなん?

12:おっさんの配信が現実に影響してるって噂もあるよな

13:異世界を配信してるって説も聞く


14:異世界YouTuber?


15:都市伝説を信じる奴とか馬鹿だろww


16:信じるか、信じないかは————

17:配信、次第ってか


18:ちょっと気になるから見てくるわ

19:俺も。面白そうだしチャンネル登録しとくかな

20:普通に妹の芽瑠ちゃんも可愛いから癒されるぞ

21:普通に宣伝してて草

22:でも見に行かれるんでしょおおお? 気になっちゃんでしょおお?

23:うっせ! 見に行くわ!


 こうして【おっさんと妹】のチャンネル登録者は10万人を突破した。

 後日、白銀の盾が届いた記念配信をする兄妹がはしゃぎにはしゃぎ、機材トラブルにより妹のご尊顔が誤配信されてしまう事件が起きる。


 リスナーたちはその美少女っぷりに衝撃を受け————

 1日で銭チャットが総額100万円を超えたのは、また別の話である。






「ゆーまはちゃんと約束を二つとも守ってくれましたね」


「二つ?」


 ロザリアへ俺が問いかけようとするも、その場で放置をくらっていた恋子こいこが割り込んでくる。


「ちょっと! さっきから何なの? 意味わからないんだけど!」


「————人気になった途端にすり寄ってくる『生ゴミ』は黙ってなさいよ」


 しかし、今度は恋子がさえぎられる方になってしまう。

 圧倒的な美貌をふりまく金髪ツインテールの有名人が颯爽登場。


「は? 誰よ!? って、ヒカリン!? え、じゃあヒカリンとユウマが友達って噂は本当だったの……?」


 またもやチャンネル登録者1500万人を超える女子高校生Youtuberヒカリンがうちの学校に来ていた。というか、気さくに俺とロザリアに手を振っていた。


「あら、れい。やっとそのかぶってた・・・・・やつ脱いだのね」


 ヒカリンはロザリアの黒髪ウィッグに視線を向けてそう指摘する。そういえば、ヒカリンはカラオケで会った時も『どうして変なのかぶってるの?』とか言ってたけど……。

 あれはパーカーのフードを指してると思っていたけど、今ならウィッグのことだったとわかる。


「えっ、あの! いつもヒカリンさんの動画見てます! じゃなくて、いくら有名人でも人の話に途中で割り込むのはちょっと————」


「だーかーら、『生ゴミ』に私の貴重な時間寿命は割きたくないっての」


 恋子が異議申し立てをしようとするも、ヒカリンは無言で掌に紫電をまとい黙らせてしまう。

 次の瞬間、恋子はあっけなく痙攣してその場でドッと倒れてしまった。


 ええ。

 いくら何でもやりすぎじゃ……。

 というかなぜヒカリンがまたここにいるんだ?


「ほら、2人共。さっさと教室に行くわよ」

「はいです」

「え、えっ……?」


 2人は俺の意識なんか置いてけぼりで、さっさと教室へと向かい始める。前方をヒカリン、後方をロザリアといったポジションで挟まれ、半ば強引に連行される形だ。

 ヒカリンとロザリア。

 絶対的に人目を引く美少女2人にサンドイッチな状況は、やはり周囲の注目を集める。


「や、えっ? あれ? なに、これ?」


「バカンナギはさっきから何キョドってんのよ。堂々としてなさい! それとも何? 言いたいことがあるなら言いなさいよ。私、そういうの嫌いって言ったわよね?」


「いや、どうして音踏おとふみがウチの学校を我が物で歩いているのかな————とか?」


「はあー? バカンナギはこれを見てわからないの?」


 ヒカリンはその場の誰もが見惚れるほどの綺麗なターンをかます。

 スカートの裾がふわりと舞い、その眩しいおみあしがコンニチハ! してくれる。


 おおう、眼福すぎる。



「どこ見てるのよ! あたしの恰好を見なさいって言ってるの」


「え?」


 おおう。

 ヒカリンの輝きが強すぎて、着ている服をすっかり見落としていた。

 なぜかヒカリンは俺の高校と同じ制服に身を包んでいたのだ。

 ロザリアもそうだけど、何のツッコミも思い浮かばないほどの完璧な着こなし、そしてどこかのアイドルかと見間違えるほど似合い過ぎている。



「え、えーっと……え!? 音踏おとふみも転校してきたの!?」


「状況察知能力がこんなに低いんじゃ、この先【過去に眠る地角クロノ・アーセ】で生き残るのは大変ね」


 廊下の中腹でビシッと人差し指を立てるヒカリン。


「まっ、心配ないわ。このあたしが少しぐらい世話してあげるわよ」

「ゆーまの面倒は私が一生をかけてみます。ヒカリンの手助けなんて————」


「なに? 零? あたしの力なしでバカンナギを独占できると思ってるの?」


「————ヒカリンとの協定は必要です」


 ロザリアがさっき恋子に言い放った一方的な拒否も、ヒカリンに対しては圧倒的な掌返しで許容していた。


「やっぱり音踏は俺の権能スキル目当てってやつですかね?」

「ぷんぷん! それだけじゃないわ!」


 ヒカリンはスタスタと教室に入り、俺もロザリアに背後から押される形で後をついてゆく。


「あたし、思ったのよ」


 突然の有名人の入室に、朝早くから来ていた数人のクラスメイトは目を丸くしている。もちろんヒカリンはそんな視線は微塵も意に介さず、改めて教室を見回しなぜか深呼吸した。


「どうせバカンナギを監視したり、お世話するなら、あたしの願望を叶えちゃえって」

「それはどういう願望だったり?」


 俺の問いに日本一のYouTuberはキラッキラの笑みを咲かす。


「少しぐらい普通の高校生活を送ってみたいってね」


 彼女の口から出た言葉は重みのあるものだった。

 日本一のYouTuberとなればプライベートな時間を捻出できないほど多忙なのだろう。それこそ学校に通う暇さえないぐらいに。

 それに【過去に眠る地角クロノ・アーセ】で生き残るためには1分1秒を無駄にしたくない、チャンネル登録者を伸ばすために尽力したいと豪語していた彼女だ。


 そんな彼女が今更どうして?

 そんな疑問が俺の顔に現れていたのだろう。



「あんたたちと一緒ならできるかなって、そう思っただけよ」


「ゆーまの権能スキルは話題性、広告力が抜群です。ヒカリンが【過去に眠る地角クロノ・アーセ】でコラボすれば、ヒカリンのメリットも大きいです」


「そ。だから、今よりチャンネル登録者を増やすために時間を費やす必要がなくなるってわけ」


「……ええ」


「なによ? その見返りとしてこのあたしが! あんたを支援してあげるって言ってるのよ?」


「それって実質、音踏ヒカリン率いる中立派閥への囲いじゃ……」


「ゆーまはこのままじゃ狙われるです」


 そうか。

 マポトさんに現実で襲撃を受けたばかりなのに失念していた。

 一時的にでもヒカリンの庇護下に入るのは得策だ。今までもそうだったけど、今回からは特に内外共に積極的にアピールした方が安全は保証されると。しかも、中立派閥といった立場が余計に手出ししづらいものとなる。

 なにせどちらの味方にもなりえるのが中立派閥の強みである。まじめ派閥やアンチ派閥も、俺が潜在的な味方となりうるなら、様子見を優先するはず。



「別にバカンナギはうちの派閥になんて入らずに自由にしてればいいわよ」


「何だかんだ理由をつけるですが、ヒカリンは友達になりたいって言ってるです」


「ばかっ! 別にそういうんじゃなくて!」


「あははっ。なるほど。そういうことならお世話になるよ」


「ま、まあいいわ」


 それからヒカリンは教室からベランダへと出る。

 そのままの流れで、俺たちも外にでれば眩しい朝日と気持ちのいい晴天が迎えてくれる。


「だから作るわよ!」


「作る? 何を……?」


「決まってるじゃない! 学生と言えば部活よ!」


「えー……俺は帰宅部でいいかなあ……バイトもあるし、芽瑠との時間が減るのも嫌だし」



「部活、部活を作るわよー! 異世界配信部!」


「異世界配信部、それ、いいです」


 意見はしっかり述べろとおっしゃるヒカリンだが、ロザリアと2人で全無視である。


「バカンナギにしか、あたしたちにしかできないことよ! 異世界を配信して、【未来ある地球クロノ・アース】のみんなに判断してもらうのよ」


「これからどうすればいいか、何を望むのか、問いかけるです」


「どうしてそんな必要があるの?」


 するとヒカリンは大きなため息をついた後に、とある方向を指す。



「バカンナギ! 見なさいよ、あれ!」


「ゆーまの目はフシ穴です。不死フシだけに」


 2人が示すその先には————

 巨大な、とてつもなく巨大な————

 山と同等かと錯覚するほど標高の高い剣が、街の中央付近に突き刺ささっていた。



「あれって……まさか、【剣の盤城アキレリス】……?」


「ほら、話題になってるってレベルじゃないわよ」


 ヒカリンがスマホを見せてくる。

 画面には【驚愕】唐突に現れた剣の上に住む人々【混乱】といった見出しで、国家と認めるべきか、国交を開くべきかどうかが激しく議論されていた。

 中には異世界人が転移してきたといった説まで浮上しており、世間は大騒ぎになっている。



「ゆーまがしてくれた二つ目の約束、『アキレリア人を守る』です。しっかり今も生きてるです」


「あんたが、あんたたちが守り抜いた人々よ。少しは胸張りなさいよ」


 にこっと小さく微笑むロザリアと、やたら興奮した面持ちで口角を上げるヒカリン。

 うん、まあ2人としては亡き『ハラハラ三銃士』の願いを達成できて満足なのだろう。


 でも……これってけっこうやばくない?

 というか、【過去に眠る地角クロノ・アーセ】で死んだら現実でも死ぬってのは聞いてたけど————ああ、少し考えればわかることだったのに!


 過去を変えれば未来いまが変わる! アキレリア人の全滅を防げば、当然滅ぶはずだったアキレリア人たちも現代いまに出現するわけで————

 嬉しいよ!? 嬉しいけどさ!?


 ああ。

 だから異世界を配信して、事前にリスナーの意見を聞き入れるべきだってことか?


 そうじゃないと今回みたいに大騒ぎになるから?

 でも、どのみち波乱の幕開けだよな?



「————俺が配信すると現実がファンタジー化するとか聞いてない!」



 俺の——

 俺たちの、異世界配信部が始まる。





◇◇◇

あとがき


これにて第一章は終了です。

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