42話 イケメンYouTuberの闇



 動物ってのはいい。

 しつけさえしてれば従順だ。

 

「やめっ、やめてえええ!」


 ほおら、腹部を蹴り飛ばしてやれば無様に泣き叫び、すぐに俺の言う事を聞くようになる。



「うるせえ性奴隷が!」


「ゲホッ!」


 だが女はいけない。

 こいつもそうだ。

 アダマンタイト製の鎖で拘束して、何度腹を蹴ってやっても所詮は裏切る。

 俺の元から逃げるだろう。ならいっその事、ここで殺してしまうのもありだな。


「どっ……どうして、こんな事をッ……」


「てめえがクソみたいな女だからだよバァーカ」


 アキレリアの女は単純だ。

 脳筋で、打算的で、性欲旺盛。

 だから俺が【獣王の盟友】だと知ればホイホイついてくる。

 ちょっと顔がよくて、ちょっと社会的地位が高ければ下心丸出しで寄って来るメス豚。そんなのいくら殺しても構わない家畜と同じだ。


「さいっこうだな! 地球じゃ傷害や殺人で問われても、ここじゃ何の罪にもならない! ただただお前みたいなメス豚は俺のオモチャにされて壊されるんだよ! おらああ!」


「ゲホッ……」


 あーらら。

 動かなくなっちゃったわー。


「おい……マポト。あんまり遊びすぎるなよ」


 人が愉悦に浸ってるってのに、つまらないことを言い出したのは髭面の醜男ぶおとこだ。

 長髪を後ろでに縛り、プロレスラーのようなご立派な体躯を持つソイツは不本意ながら協力者なので無視はできない。



「マポト。お前のおかげで女を誘って拉致らちるのが簡単になったのは感謝してる。だが、遊びがすぎると足がつくぞ」


「男の血位者デウスを殺る時はすんなりやってるから。女を殺る時は少しぐらい遊ばせろ」


「……仮にも俺たちは、【剣の盤城アキレリス】を騒がす連続殺人犯として追われてる身だぞ」


 ガタイのわりに肝っ玉は小さいなあ。



「ここの人間は無能だから。どうせ犯人おれたちを見つけられないだろ」


「舐めてかかるなよ。ワールドクエストの報酬目当てでアキレリア人を殺しに首都まで来たのはよかったが、まさかこの都市ごと転移するとは夢にも思ってなかったろ。不測の事態に備えるなら、女だろうが男だろうが掴まえたなら即座に殺せ」


 醜男も俺と同じくYouTuberだから、少し前に啓示されたワールドクエストの内容を熟知している。その内容はアキレリア人の全滅。

 だから俺たちはどのYouTuberよりも早く首都に潜り込み、中枢を担うアキレリア人を単体で殺して回ろうとしていた。



「マポト……今殺った女は【第六十血位者シストデウス】だ」


「あんたは何が言いたいんだ?」


「第二十血位者からは俺でも手を焼くほどの強者だ。1人で突っ走ってくれるなよ」


「わかってるさ」


「予想外の事態と言えば、お前が気にしてた【新参者ニューチューバー】の様子はどうだ?」


「あーユウマねえ」

 

過去に眠る地角クロノ・アーセ】を配信できちゃうチート持ちのあいつに当初こそ警戒したが、そんなに驚異じゃない。

 ただ、面倒なのは俺が地角こっちで好き勝手にやったり、地角こっちで女をなぶり殺しにするのも地球あっちに暴露される可能性があるってわけだ。



「あいつはズブのド素人だよ」


 俺がユウマを認知した時、すぐ女性ファン共にオフ会をちらつかせてユウマの住所特定を依頼した。『おっさんと妹』チャンネルの中の人間はどんな人物か、やつの音声データを元に何人かの候補者をリストアップし、あとは電線を自由に移動できる【街灯を狩る白虎ヴォルト・ティガー】を放つ。しばらく監視すればユウマの身元は簡単に特定できた。

 熟練者ならその辺のセキリティはしっかりしてるが、あの様子じゃ本当に【過去に眠る地角クロノ・アーセ】の勢力争いなどには無縁の初心者だろう。



 だからこそ、面倒な能力持ちは先んじて殺してやろうと思い、可愛い可愛い【街灯を狩る白虎ヴォルト・ティガー】をけしかけてやったってのに……。


「【未来ある地球クロノ・アース】じゃ中立派の庇護下にいるらしい」


 あいつらは俺の愛猫、【街灯を狩る白虎ヴォルト・ティガー】を殺しやがった。

 絶対にこの落とし前はつけてやる。



「中立派……ヒカリンか。じゃあ余計な手出しはしないほうがいいぞ。その【新参者ニューチューバー】が、獣神マーラ様が言ってた吸血鬼とかではない限りな」


「だーかーらー、わかってるって」


 口うるさいおっさんだが一理ある。

 ヒカリンは登録者数1500万人超えなだけあって、戦力的にかなり驚異だ。敵に回すのは得策ではない。とはいえ、【過去に眠る地角クロノ・アーセ】ではユウマを害するチャンスはたくさんあるので、あんな隙だらけの新人は軽く捻れるだろう。


「しっかしよぉ、新しい世界の声ワールドクエストのせいで吸血鬼ってやつに注目が集まったのは面白くねえよなあ」


「獣神マーラさまからの信徒クエストとちょっとかぶってるしなー」



獣神の声マーラクエスト:『千血の人形姫ブラッティドール』、『千欲に堕ちた女帝ブラッティフォールン』、『千夜白夜の王ブラドロア』など『千』を冠する吸血鬼を殺し切る】

【期限:二年】

【報酬:対象を1匹でも殺せば『獣神マーラ』より権能スキル『千獣の王』を祝福ギフトされる。2匹目以降は任意のステータス+30される】



 俺は信徒クエストを確認し、やはりユウマが召喚する精霊の名と討伐対象が同じであると再認識する。最初は偶然の一致かと思ったが、もしかしたら……。

 その辺も含めておっさんと諸々の計画を見直す。


「【剣の盤城アキレリス】周辺の探索クエストに参加すれば、血位者デウスを殺すチャンスは増えるんじゃね?」


「探索クエストに参加する血位者デウスは……【第三十二血位サーティロデウス】、【第二十四血位ツインスデウス】、【第十七血位セブロス・デウス】か」


「首都から離れてくれるから、探索のどさくさに紛れて殺れるはずだ」


「……マポトは【第三十二血位サーティロデウス】と知己だったよな?」


「あいつは俺を信用しきってるからいつでも殺れる」


 絶滅対象の血位者デウスと飲み友達とか笑えるよなあ。



「まだ【第三十二血位サーティロデウス】は殺すな」


「わかってるって。酒飲み仲間に血位者デウスがいれば、情報を引き出せるしな」


「そういうことだ」


「んじゃまあ、今回の探索では【第二十四血位ツインスデウス】、【第十七血位セブロス・デウス】が狙い目かなあ」


「わかった。俺もバレないよう尾行する。特に【第十七血位セブロス・デウス】を狙う時は慎重にやるぞ」


「りょ」


「それと新参者が召喚する精霊だが、名称がどうにも怪しいな」


「不死性がもしあれば————」


 こうして俺たちの標的は決まったわけだが、探索クエストの途中から少々事情が変わった。

 それはユウマが召喚した精霊とやらの回復能力を目の当たりにしたのが発端だ。瀕死の傷を負いながら異次元レベルの治癒力について尋ねたところ、あの馬鹿は『不死性』と口にした。



「獣神マーラ様から啓示された信徒クエストの内容は、『千』を冠する吸血鬼を殺す……」


 たった1体の吸血鬼を殺すだけで強力な権能スキルをもらえるとか破格すぎる報酬だ。

 ユウマには俺の可愛いペット、【街灯を狩る白虎ヴォルト・ティガー】を3体も消されている。

 そんな復讐相手にまさかの吸血鬼疑惑が浮上し、しかも他のアキレリア人と離れた場所で討伐対象フローティアと2人きりでいる。

 さらに、ユウマが精霊と偽っている化け物じみたあの少女もいない。


 これほど待ち望んだシチュエーションはあっただろうか?

 いや、ない。

 

 獣神マーラがどのような思惑で、吸血鬼殺しを信徒クエストとして発行してるかは定かじゃない。というか興味はない。それでもあの神の庇護下で猛威を振るう獣王の在り方が、俺の理想とする世界に近しいふるまいだから、少しは尻尾を振っておかないとだな。



「俺も早く獣王みたいに、堂々と女共を奴隷の如く扱いたいものだ。これも夢のハーレム奴隷王国を築く一歩だよなあ」


 近くに潜む協力者おっさんに合図を送り、そっと【鋼と牙の猛虎スティール・ティガー】を召喚しておく。新人のわりにユウマは頑丈だが、鋼鉄製のこいつでぺしゃんこのズタズタにしてしまえば問題ない。

 それからおっさんと第十七血位フローティアをじっくり料理すればいいさ。


 そうなると、本命戦に備えてもう少し召喚しておくか。俺はさらに【浮遊する猫チャシャー】を2匹、【無重力を舐める黒虎グラビド・ティガー】を1匹侍らせ、奴らの足元にあたる階下へ【山砕く大虎マウンティガー】を潜ませる。

 それからユウマと第十七血位フローティアに気取られないよう、2人の死角から容赦ない一撃を【鋼と牙の猛虎スティール・ティガー】に命令する。



「ユウマ!」


「え!? わっ、ティアさん!?」


 おいおいおい、脳筋バカ女のくせに……いっちょ前に【鋼と牙の猛虎スティール・ティガー】の一撃をかわしただと?


 はー?

 何してくれちゃってんの、あの女。



「……っち、仕留めそこねたか。女のくせに生意気だな、姫さんは。女なんてのは無力のまま死んでればいいんだよ」


 女ごときが俺の思惑に反発するとか万死に値するんだけど?


「まったく……大人しく、従順に! あのまま【鋼と牙の猛虎スティール・ティガー】の爪の餌食になってればいいものを。つくづく女ってのは面倒な生物だ」


「えっと、マポトさん? 一体なにを……」


 女ごときに庇われたアホ面ユウマは未だに事態を飲み込めてないようだ。


「あー? ほんっとにユウマはグズで馬鹿だよなあ。俺、言っただろ?」


 脳筋バカ女の所業は苛立たしいことこの上なかったが、これはこれでじっくりとユウマを痛ぶる機会が巡ってきたと捉える方が建設的か。



「俺は自分の猫を殺されたりしたら、絶対にそいつを許さないタイプなんだって」


 さあ、復讐の時間だ。


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