41話 登録者100万人のステータス


「さて……47ポイントと2ポイント分、どうステータスを振り分けるか……念のため、臨機応変に対応できるよう2ポイントは残しておくべきか?」


「ゆーまはHPを増やすです。せっかくの不死が活かせてないです」


「そうだな」


 ロザリア分体が指摘する通り、【『朽ちぬ肉体』Lv5】は60ダメージ以下の攻撃を自動で修復するといった代物に進化しているものの、そもそも俺のHPが20しかないので回復する間もなく一撃で殺される場合がある。


「じゃあステータスから振っていくとして……」


【ユウマ】

【HP20 → 35 MP10 → 20 力27 → 37  色力いりょく24 防御18 → 20 素早さ18 → 21】

【割り振り可能なポイント2/6 = 信者数or登録者数65271人】

【権能/ステータスポイント:7】

【総合戦闘力:登録者数127万人と同等】


「よし。これで大幅にパワーアップできたぞ。あとは権能スキルLvにポイントを振って……」


権能スキル『おっさん』Lv6 → Lv10】

【Lv7 おじさん形態時、全ステータスが1.5倍に上昇する】

【Lv8 おじさん形態時、『顔面凶器』を発動できる】

【Lv9 おじさん形態時、全ステータスが2倍に上昇する】

【Lv10おじさん形態時、頭皮の毛根を全て犠牲にして発動できる『狂鬼乱舞:禿げ散り桜』を習得】



「攻撃手段を習得する唯一の権能だから、重点的にポイントを振ったけど……禿げ散り桜?」


 絶対に使いたくない技だ。

 なんとも危険な匂いのする権能スキルの有無はひとまずスルーして、1番汎用性の高い権能スキルもLvアップさせておく。



権能スキル『アンチ殺し』Lv4→Lv5】

【Lv5自分に敵対心を抱く対象の心を折った場合、対象に『無限牢獄』を発動できる】



「ふむふむ……倒した敵を悠久の時の中に封じる【無限牢獄】……うわ、エグいスキルだけど強力だな」


 この調子で俺は次々と自己強化を図ってゆく。


【権能『背信者』Lv5 → Lv6】

【『時を巡る助言者クロノス・コメンター』を3秒に増やす】


「ふむふむ。1秒間を30倍にスローモーション化する『時を巡る助言者クロノス・コメンター』を3秒まで引き伸ばせるわけだ。つまり体感時間3秒を90秒にできるのか」


 さて、仕上げはやはりこれだろう。


【権能『高貴なる美少年』Lv3 → Lv4】

【Lv4……容姿がカリスマになる】


「しゃああああああああああああああああああ! これで完全イケメン無双!」


 しかし、この時の俺はまだ大きな罠に気付いていなかった。

 そう、どんなに『高貴なる美少年』で容姿を磨こうとも、『おじさん』の権能で戦うとなれば円形脱毛症の中年に変身する事実に。

 だがそんな残酷な現実と向き合う前に、チクリと異世界へと誘う感覚が俺を呼ぶ。

 急いでグラスに水を注ぎ、優雅にその杯を傾ける。まろやかな舌触りと清々しい清涼感を味わい尽くす。それから虚空に水をこぼせば、異世界へのヒビが割れる。


「あ……そういえばフローティアさんとの婚約の件について考えてなかっ————」





「さっきのが……例のタイムイェーガーの習性か。間近ではっきり見るのはわらわも初めてだ」


「あ、ただいまです」


過去に眠る地角クロノ・アーセ】に戻ると、やはりフローティアさんが一人で俺を待っていた。ロケーションも朽ちたビルの頂上のままで、そこはかとなく気まずい。

 なにせ婚約話を持ち出されて逃げるように【未来ある地球クロノ・アース】に行ってしまったのだから。

 それでも彼女は気を遣ってくれたのか、おずおずと話しかけてきてくれる。

自分が不甲斐ない。


「ユウマは……また筋肉を鍛えたのだな」


「あ、はい。強くならないとって思って」


 フローティアさんは俺がステータスアップしたのを肌で感じたらしい。一瞬で変化を見抜くあたり、さすがは筋肉について語らせたら右に出る者はいないアキレリア人のお姫様だ。



「あのわずかな時間で……こうまで強靭な筋肉を編み込むとは……」


「あ、【未来ある地球あっち】だとまるまる1日ぐらいありましたよ?」


「たった1日で……? どれほど苦痛を伴う努力をしたのだ? 尋常でない筋トレだったのではないか?」


「あはははは」


 言われてみれば、確かに尋常じゃない筋トレ方法である。

 主にアンチたちの心を折るまで夢の中で痛ぶる行為は、こちらの精神もゴリゴリと削られたし。だいぶ苦痛だったのは間違いない。



わらわも無力のままではいられない、な。話をぶり返す事になるが、どうかわらわの祖父に会ってはくれまいか?」


「そのお話なのですが……」


 出てしまった。例の婚約話。

 だが、ここで中途半端にずるずる引きずるのもよくないので、ここはハッキリお断りの意思表示をしなければ。

 そう理性が訴えてくるも本当にそれでいいのかと躊躇してしまう。なにせ今も真剣に俺を見つめる彼女の青い瞳は、どこまでも澄んでいて綺麗だ。ほんのり薔薇色が差す唇はやわらかそうで、肌の色だって雪のようにきめ細かく白い。


 筋肉筋肉と常日頃から言ってるだけあって、彼女のプロポーションはしなやかに鍛え上げられており抜群だ。腰回りのくびれはもちろん、形の整った脚回り、どれをとっても魅惑的である。しかも出るところはキッチリと出ていて、柔そうな二つの丘がこれでもかと言わんばかりに主張している。


 これほどまの美少女と婚約を結ぶのは、俺の人生において千載一遇のチャンスなのでは?


 好ましいのは何も見た目だけの話じゃない。彼女は常にアキレリア人のことを想い、心優しくも誇り高い生き方を自分に課す立派な人格者だ。

 同世代でありながらその生き様に感銘を受け、尊敬すらしている。


 そんな魅力的すぎる彼女が俺を好いてるだなんて……。


 うおおおおおおお!

 俺はどうすればあああああああ!?



「ユウマ!」


「え!? わっ、ティアさん!?」


 唐突に俺はフローティアさんにハグされ、物凄い勢いで押し倒された。

 続いて何かが爆散し、轟音が鳴り響く。



「……っち、仕留めそこねたか。女のくせに生意気だな、姫さんは。女なんてのは無力のまま死んでればいいんだよ」



 ん?

 マポトさんの声?


 フローティアさんに押し倒された状態のまま、どうにか首を捻って声の方を見ればマポトさんがいつの間にか立っていた。

 彼は見たこともないようなニヤケ面でこっちを睥睨している。


「まったく……大人しく、従順に! あのまま【鋼と牙の猛虎スティール・ティガー】の爪の餌食になってればいいものを。つくづく女ってのは面倒な生物だ」


 マポトさんの発言通り、さっきまで俺たちのいた場所は大きく抉れ、強力な一撃で粉砕されていた。


『グルルルルルルル……』


 一連の破壊現象を起こしたであろう巨大なメタルタイガーが威嚇の喉を鳴らし、俺とフローティアさんを睨む。


「えっと、マポトさん? 一体なにを……」


「あー? ほんっとにユウマはグズで馬鹿だよなあ。俺、言っただろ?」


 ニヘラっと笑い、マポトさんは俺に憎悪の視線を向ける。



「俺は自分の猫を殺されたりしたら、絶対にそいつを許さないタイプなんだって」



 俺がいつマポトさんの猫を殺したのだろうか?

 最近で猫っぽい存在と敵対したのは、現実の方でアルバイト帰りに襲ってきた【街灯を狩る白虎ヴォルト・ティガー】ぐらいだし……。


 もう俺には何が何やらわからなかった。

 けれど突如として現れたマポトさんが、本気で俺たちの命を取りに来てることだけは理解できた。


 危険を覚えた俺は、直感的に配信を始める。

 マポトさんとは戦いたくない。だから————



【DM:やばい。なんか知らないけどマポトさんと戦う流れになってる】

『配信きたー!』

『マポトと戦うって修羅場で草』

『フローティアちゃんと協力して倒すってイベント?』


【DM:視聴者リスナーのみんな、俺を助けてくれ】


 俺はいつも通りの台詞をDMで飛ばしたのだった。






【ユウマ】

【HP35 MP25 力37  色力いりょく24 防御20 素早さ21】

【割り振り可能なポイント2/6 = 信者数or登録者数68552人】

【総合戦闘力:登録者数127万人と同等】


【『おっさん』Lv10】

【『背信者はいしんしゃ』Lv6】

【『朽ちぬ肉体』Lv5】【『アンチ殺し』Lv5】

【『高貴なる美少年』Lv4】

【『崖っぷちランナー』Lv1】


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