33話 登録者数5万人のザコが無双する


「総員、油断はするなよ」

「「「筋肉こそ黒き輝き!」」」


 時間獣バラシオンの神秘に当てられた俺たちは、観察もそこそこに黒い森の探索を始めた。

 遠目で見たときはわからなかったけれど、この森の木々は黒く透き通った水晶みたいなものでできており、草花も同じ黒水晶だ。

 さらに柔らかい緑や紫、黄色に光る粒子が地面から湧きたつように浮遊しており、まるで蛍の群れが生息しているかのような幻想的な光景だった。


「この森は【永遠の星園ほしぞの】です」


「なるほど……昼も夜も、いつでも森の中に星空が広がってるみたい、だから【永遠の星園】ってわけだ」


「ゆーま、賢いです」


「あははは……」


 森の中で咲き誇る星園に見惚れていると、不意にフローティアさんが静止の合図を出した。



「あれは……【地を這う悪魔レッサーデーモン】」


 フローティアさんは前方を睨みながら、木々の隙間からうごめく何かに警戒態勢のフォーメーションを指示していく。

 みんなが緊張を高めてゆくなか、一人だけ泰然とした様子の少女がいた。

 無論、俺の隣にいる無表情が平常運転なロザリアだ。


「ここにも忌まわしき神々の排泄物が蔓延ってるです、か……【時間獣バラシオン】の時間停止だけじゃ処理しきれてない、です」


「神々の排泄物? え、処理?」


 ロザリアの発言を拾おうとするも、話をしている場合ではなくなった。

 なぜなら、警戒対象の数が一体や二体だけではなく、続々と姿を現していたからだ。

 それは異様に手足が長く、四つん這いの異形。大きさは車と同等といった巨体でありながら、漆黒の昆虫Gのごとき素早い動きが妙に吐き気を催す。


 醜い顔に二本の角を生やし、長い舌をチロチロとのぞかせる様は気味悪さにおいて右に出る者はいないと思えてしまう。



「キシャアアアアアア!」


「叫ぶなら、殺してしまえ、上腕二頭筋!」


「「「筋肉こそ我らが信念!」」」


 漆黒結晶の森にて、【地を這う悪魔レッサーデーモン】と俺を含むアキレリア人の激闘が始まった。





「みな、なるべく魔力は温存せよ! まだまだ先は長い!」


 フローティアさんの指令が飛べば、アキレリア人が前面に出て【地を這う悪魔レッサーデーモン】と拳を交えた。


 肉と肉がぶつかり合う激しい轟音が響き、グシャリと骨が砕ける音も聞こえる。

 基本的に【地を這う悪魔レッサーデーモン】1体に対し3人のフォーメーションで迎え撃つ。体格で勝る敵を翻弄しながら確実にヒット&アウェイを敢行していくアキレリア人。

 そして俺はといえば——


バモス行こうぜ! バモス! バモス! バモスううううう!」


地を這う悪魔レッサーデーモン】を殴り飛ばしまくっていた。

 すでに俺の筋力は血位者デウス以外のアキレリア人を大きく凌駕しているため、一人で【地を這う悪魔レッサーデーモン】をちぎっては投げ、ちぎっては殴りを繰り返せるぐらいにはなっていた。



『VIP:おっさん! 左後ろからも来てるぞ』

『VIP:右前方、上空から飛び掛かってくるのである』

『VIP:◆真後ろの人達が危険です! 援護に!◆』


 しかもリスナーたちが【神の視点】を介して的確な状況把握をしてくれるので、一対多数の乱戦でも難なく立ち回れている。


バァモス行こうぜ!」


「おお!? ユウマ、助かったぜ!」


地を這う悪魔レッサーデーモン】の頭部を殴り飛ばし、一撃で頭蓋を粉砕する俺に苦戦していたアキレリア人がニカっと笑いかけてくる。

 そこに俺は無言で拳を合わせ、次なる敵を屠る。


「ゆ、ユウマって……まだチャンネル登録者5万人だよな……?」


 6 体目の【地を這う悪魔レッサーデーモン】を倒しきったところで、マポトさんが唖然とした表情で俺を見ていた。



「ちょっとマポトさん!? あなたは召喚魔法メインでしょう!? 魔力は温存ですから、俺の後ろに下がっててください!」


「ユウマ……、お前、本当にチャンネル登録者5万人なのか!?」


「ですです! バモォォォス!」


 あれ? そう言えば俺ってマポトさんに自分のチャンネル登録者数を教えたことあったっけ?


「いやいや……どうみても40万人以上の筋力ステータスだろソレ……」


 マポトさんの最後の呟きは【地を這う悪魔レッサーデーモン】の雄叫びで掻き消えてしまったけど、どうやら素直に下がってもらえたので助かった。

 きっとマポトさんは俺を心配して助太刀しようとしてたんだ。


 でも、こんなところでマポトさんの魔力を消費させるわけにはいかない。ビル群に到達するまえにこれほどのモンスターたちが現れるのなら、あのビル群には間違いなく強敵が待ち構えている。その時に最強であるマポトさんの魔力が尽きていたら苦戦は必至だろうから、ここは俺が盾になってでもマポトさんの魔力を温存させるんだ。


「バモスバモスバァァァモス!」


 こうして18体目の【地を這う悪魔レッサーデーモン】を倒し終わる頃になると、襲ってきた敵は全滅していた。

 敵対生物アンチを屠ったからだいぶ権能スキルポイントを稼げたので、リスナーとあれこれ相談しながらステータスを割り振っていく。


『VIP:やっぱ力は必須だよな』

『VIP:HPと防御を上げれば生存率が無限大である』

『VIP:◆素早さも忘れちゃダメですよ◆』


権能スキル『アンチ殺し』……『悪魔の心』を折ったので権能スキルポイント18取得】

【ユウマ】

【HP17 → 20 MP10 力21 → 27 色力いりょく24 防御16 → 18 素早さ14 → 18】

【割り振り可能なポイント0/4 = 信者数or登録者数47271人】


 さらに3つだけ残しておいたポイントの使い道もリスナーと相談。


『VIP:ここは【背信者】を極めようぜ。俺等とのコミュニケーションツール? の幅が広がりそうだし』

『VIP:何かと頼れる【アンチ殺し】が良いのである』

『VIP:◆私は【高貴なる美少年】推しです!◆』


 なるほどなるほど。

 ならば1ポイントずつ振ってみるか。


【『背信者はいしんしゃ』Lv4 → Lv5】

【Lv5……MPを2消費すると『時を巡る助言者クロノス・コメンター』を発動できる。体感速度を1秒の間、30倍に遅くして視聴者と相談ができる(スローモーション)】


 おおおお!

 これぞ戦闘中に、時をゆっくりにする必殺技か!

 実際は意識のスピードを1秒から30秒に大幅にスピードアップできるってわけだ。相手の動きがスローモーションに見えるのは相当なアドバンテージだし、リスナーに相談できるのも強い!

 しかも消費MP2とかコスパが良すぎる。


【『アンチ殺し』Lv3 → Lv4】

【Lv4『拷問王の悪夢』をMP5消費して使用できる。自分よりステータス色力いりょくが低い相手に限り、触れれば痛覚の伴う夢を見せられる。また夢の中で負わせた傷を任意のレベルで、現実に反映させられる】


 えっ、こわ!

 超強力な幻術みたいな権能スキルだな。

 でも、うん……実際に戦う前に相手を夢の中に引きずりこんで戦えば、手の内を知れる。模擬戦、的に活用するならとても重宝できる。さらに夢の中でこっちは傷を負っても現実に戻ればノーダメージで、あっちは夢から覚めても傷を負ってるわけだから強敵を目の前にしたら絶対に使うべき権能スキルだな。

 唯一の問題は敵に触れてないといけないって点かな……。



【『高貴なる美少年』Lv2 → Lv3】

【Lv3……容姿が美形になる】


 ふぉーん。

 まあ無駄ではないかな、うん。

 そんなに嬉しいってわけじゃいけど、うん。

 イケメンになれるのならなっておきたいし? うん。


 実はこの権能スキルって、Lv2の『やや美形になる』の時に感じてはいたけど、自分の元の顔からかけ離れないぐらいのレベルで整うのだ。なんというか小学生の頃は普通だったけど、成長したら超美形になってた! みたいに元の顔の面影が色濃く受け継がれている。その上で美形になるから割と自然な感じになる。


 ほんの少しだけ、ものすごくわずかだけど鏡を見るのが楽しみだな、うん。


 そんな風にちょっとウキウキしてしまった瞬間、世界がひび割れ始めた。

 どうやら、【未来ある地球クロノ・アース】に戻る時が来たようだ。



「さすがに疲れたから……ちょうどいいかもしれない」


「おっ、そろそろか。ユウマもまたな」


 マポトさんと軽い挨拶を交わし、次にリスナーたちに今日の配信は終わると告げれば、俺の視界は自室のベッドに切り替わった。





【ユウマ】

【HP20 MP10 力27 色力いりょく24 防御18 素早さ18】

【割り振り可能なポイント0/4 = 信者数or登録者数49971人】

【総合戦闘力:登録者数90万人と同等】



権能スキル

【『おっさん』Lv6】

【『背信者はいしんしゃ』Lv5】【『朽ちぬ肉体』Lv5】

【『アンチ殺し』Lv4】

【『高貴なる美少年』Lv3】

【『崖っぷちランナー』Lv1】


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