第3話 カカシ女
席を見回すと、テーブルの皆の前には、美しい陶磁器が置かれていることに気づいた。蓋つきで、薔薇の花が描かれている。王妃殿下がにっこりと笑い、説明を始めた。
「皆さんの前に置かれているあの容器にも、同じ茶葉が入っているのよ。あなたにも是非、同じものを差し上げたくて」
どうやら外側が違うだけで、中身は同じらしい。薄汚れた袋と、美しい陶器の入れものでは、だいぶ受ける印象が異なるが。
テーブルを囲う婦人たちが、『なんてお優しい』『よかったわね、パトリシアさん』と口々に声をかけてくる。
パトリシアは言葉を発さずに礼をとり、その場をやり過ごした。
早く下がりたくて仕方なかった。しかし身分が上の王妃殿下から呼び出された身で、こちらから『じゃあこれで』と別れを告げることはできない。許しが出るまでここに留まらねばならなかった。
王妃殿下はにこにこと微笑んでいるばかりで、何も言ってくれない。そのうちに王妃殿下の右側にいたロンバード夫人が微かに眉根を寄せ、パトリシアに問うてきた。
「あなたまだご用があるのかしら?」
パトリシアは困惑したものの、
「いいえ」
と言葉を押し出した。ロンバード夫人のふくよかな顔に、小馬鹿にしたような笑みが浮かぶ。
「じゃあ、ほら――そこにカカシのように立ち尽くされていると、皆が困ってしまうのではないかしら?」
すると王妃殿下が身を乗り出し、ロンバード夫人の手の甲をそっと撫でた。
「ロンバード夫人、お手柔らかに。ね? パトリシアさんも悪気はないのよ。寂しかっただけだと思うわ。仲間に加えてあげたいけれど、席が足りなくて……彼女も分かっているはずだと思うのよ?」
パトリシアに注がれる、いくつもの非難の視線。パトリシアは顔を俯け、辞去の礼をとった。
「それでは失礼いたします」
その場から去る途中でも、席で交わされる会話が耳に飛び込んで来る。従妹のロザリーが、王妃殿下に媚びる声。
「王妃殿下、お化粧水は何をお使いですの? 美しい肌で、うらやましくて」
「まぁお上手ね。ロザリーさんはお若いから、何もお手入れしなくても、十分じゃないの」
「そんなことはありません! いつも王妃殿下のお手入れを見習おうと、私――」
立ち去るパトリシアはきゅっと瞳を閉じ、胸の痛みをやりすごした。
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