15:顛末

 その後、俺は即座に鴻支部長に連絡を取り、魔神教徒に襲われたことを報告した。


 ドグとその他3人の確保を急ぐようにお願いをして、陽菜達と合流。お祝いムードで浮かれまくっている爺ちゃん達に用事があるからと告げ、すぐに家に帰ってくることを約束して冒険者協会へと向かうことになった。


 リリアと鬼月の二人についてきてもらい、陽菜と要さんには一応爺ちゃん達と一緒に帰ってもらうことになった。


 一応それとなく襲われたことは伝えて警戒するように伝えたが、詳しいことは伝えていない。家に帰ってから改めて説明するつもりだ。


 本当は車で向かいたかったが、爺ちゃん達を危険にさらすわけにはいかず公共交通機関での移動となる。


 正直、また何かあるんじゃないかと気構えていたのだが、予想に反して特に何事も無く協会支部へとたどり着くことができ、カースドアイテムと思しきロザリオを受け渡すことに成功した。


 その後、諸々を報告するために支部長室へと足を運ぶ流れとなったのだった。


「早期の報告感謝する。ドグとその他3人は発見直後通報され、その後救急車に乗せられたようだが、何とか協会付属の病院へと回してもらうことができた。。うち二人は死亡が確認されているが、ドグともう一人に関しては命に別状はないようだ」


 俺の話を聞き、電話をしたり協会中を移動しまくり関係各所に連絡を取っていた鴻支部長。


 1時間かかったが、一旦休止を挟むことにしたのだろう。俺達の所にやってきてソファに座り、そこまで言って言葉を途切れさせた。そして緊張したのを解きほぐすように呼吸を一回挟んで口を開いた。


「まずは圭太君。本当に、よくぞ無事で帰ってきてくれた……」


 支部長の言葉に鬼月とリリアも反応する。


『本当だゾ。まさか大会が終わった直後に襲われていたなんて……その場にいられなかった自分が恨めしい思いダ』

『ケータ、ほんとに大丈夫……?』

「鬼月もリリアも、心配してくれてありがとな。俺は本当に大丈夫だから気にするな」


 傷と言っても目立ったものはなく、ロケランで土ぼこりを被った時にいくらか切り傷が付いたくらいだ。全て協会で貰った回復薬で治療済みだ。


 支部長は頭痛がしたのか、眉間を指で強く押し揉んだ。


「本当にすまなかった。何か仕掛けてくるとは思っていたが、まさか大会が終わった直後に、ここまで強硬手段を取ってくるとは、流石に予想していなかった。

その上、ユーゴを含めた上級冒険者でも気づけない謎の技術による人払いに、魔素やステータスに頼らない謎の身体強化。そして銃火器の使用か。ツッコミどころが満載過ぎてもはやどこから手を付けていいか分からない程だ。

……銃火器など、ゴーレム化していたらもっと厄介な事態になっていただろうに」

「そうですね。魔素が薄かったので問題は起きませんでしたが、ステータスが機能するレベルだとヤバかったと思います」


 謎技術の人払いの結界よりも、実際はそちらの方が厄介だっただろう。


 銃火器や電子機器は、ダンジョンに持ち込んだら魔素と反応してゴーレム化したり、レイスなどの特定の魔物に取りつかれて『リビングウェポン』というモンスターになってしまうことがある。


 そうなると、魔法で無限化し、その上魔力が込められた、冒険者をも殺すことができる弾丸が雨のように飛んでくることになる。


 ダンジョン発生黎明期の頃の自衛隊はこれの所為で相当な数の犠牲者を生んでしまった。これは、小学校の教科書にも載っている有名な事件の一つだ。


 特例で支援デバイスなど、特殊な加工を施すことでゴーレム化を防いでいるものもあるにはあるが、それも色々制約があったり、加工そのもののコストが馬鹿にならなかったりと問題がある。


「メンタルは大丈夫かい?人を殺すのなんて、慣れないものだろう……」

「……彼らのことは、モンスターと認識するようにしています。ゴブリンも一部喋るのがいますし、似たようなものだと」

「……そうか。無理はしないようにな、圭太君」


 報告を聞いているだけでも肝が冷える思いだっただろう。支部長はそれでも首を振って気持ちを切り替え、次の話題を出した。


「さて、もう十分に頭が痛い問題が目白押しだが……今、実は他の問題にも対応していた所だったんだ。話を聞くに、襲撃事件と恐らく無関係ではないだろう」

「他の問題?」

「ああ。実は少し前から、腕に痣を付けた冒険者たちが多数、続々と病院に運び込まれているようなんだ。今の所命に別状はないが、いずれも酷い衰弱状態らしい」

「痣、ですか」

「ああ。検査を急いでもらい、さしあたり重要だと思われる情報をまとめて持ってこさせたのだが……これだ」


 渡されたレジュメには、症状を発症させた冒険者と、痣の形がプリントしてあった。


「痣の形は全員画一的でほぼ同じであることが確認された。多少の違いも、体型の違いなどで生まれるような誤差レベルのものだ。そして肝心なのは、圭太君の痣とは全く違う形だということだ。恐らく効果によって形が変わるのだろう。そこは魔法陣と同じだな」

「効果はどういったものだったんでしょう?」

「分からない。分からないが、状態を見るに、レイスなどの特定のモンスターが使用する【エナジードレイン】を使われた状態とよく似ている。生気を吸い取られたのだと思う」


 生気を吸い取られた。つまり、吸い取った本体がいるという事だ。その本体が一体どこにいるのかなど、少し想像すれば容易に結びつけることができた。


「君ももう気づいているかもしれないが、恐らく吸い取られた生気はドグに集まっていたのだろう。それがどういう理屈で可能となっているのかは全く分からないが……ドグの謎原理による身体強化にも説明がつく」


 大量の冒険者からエネルギーを吸い取って、自身を強化していたという事か。


 なんだそれ、滅茶苦茶だ。そもそもダンジョンの外でどうやってエネルギーをドグへと届けるんだ。


 魔力は魔素のある空間でしか行き来できない。例えばダンジョンAにいる鬼月を、別の場所にあるダンジョンBで召喚することはできない。ダンジョンAとBの間は、魔素が無い空間……つまり、ダンジョンの外の空間で隔てられているからだ。


 だからこそ崩壊ダンジョンや人払いの結界の中で、鬼月やリリアを呼べなかった。


「ちなみにだが、君が怪しんでいた田淵君とやらだが、彼も痣を付けた状態で病院に運ばれてきたらしい。ここ数日色々調べてみたが、あくどいこともいくつかやっていたそうだ」


 田淵があくどいことを?


 まあやってそうではあるが、彼は小心者に見えた。そこまで酷いことはしてない……と思いたいが。


「具体的には?」

「うむ。まず判明しているのは、特定人物への誹謗中傷などの名誉棄損、そしてプライバシーの侵害を理由に開示請求申請が行われ、それが通っている。通告が送られたが、それも無視したまま大会に出場していたようだな」

「……えっと」


 聞き覚えのある内容に、俺は言葉を失った。


 まさかだよな、まさかそんな事、流石にするわけが。


 ……無いとは言い切れないんだよなぁ。バレバレな狐面の振りをするような奴だ。綾さんのこともあるし、思い返してみればあいつが犯人である可能性は十分にある。


 まあ、まだ確固とした証拠が出たわけでもない。時期的にもうすぐ結果は分かると思うが……これに関しては、その時になって考えよう。


「はあ……」

「……何やら疲れたような顔をしているが、これはほんの氷山の一角に過ぎない。次にマジックアイテムの違法売買についてだな。崩壊ダンジョン発生の際に手に入れていたアイテムを売るために、どうやら違法業者と秘密裏に交渉したらしい」

「がっつり犯罪じゃないですか」

「ああ。今はSNSで取引が可能だからな……いくらつぶしても湧いて出てくるから頭が痛い」


 クラスメートに犯罪者がいたことに、俺はなんだかやるせない気持ちを抱いた。ヤバい奴だったとはいえ、まさかそこまで堕ちていたとは。


 同い年のクラスメートが犯罪に手を出したという事実に、気が滅入ってしまう。


「だが、問題はまだまだある。違法売買を追っていた協会のエージェントが、田淵君の違法売買の現場を確認し、違法業者を追ったのを最後に消息不明、後に死亡が確認されている。おかしいのは、死亡した時間と発見された時間に24時間ほどの差がある事だ。人目につきやすいとは言えないが、発見が容易であった場所で24時間も放置されていたなどあまりにも不自然だ」


 鬼月がそれを聞いて口を開いた。


『……それは、話に出てきた人払いの結界があれば可能なのではないカ?』

「推測の域を出ないが可能だろう。というか、十中八九そうだろうと私は睨んでいる。……実は、田淵はここで、怪しげな注射を密売人から渡されたようだ。恐らくそれが件の痣に関係するマジックアイテムなのだろう。ちなみに既にもう、痣で倒れた冒険者達の家に回収に向かわせている。時期結果が届くはずだ」


 誹謗中傷にプライバシーの侵害、その上違法売買に違法マジックアイテムの使用による自滅か……田淵本人はともかく、家族は悲惨な思いだろう。


「魔神教はどうやら本格的に人間社会で動き出したようだな……今まではダンジョン内での殺人だけにとどまっていたが、今後は一般人にも被害が出るようなことも起こりえるだろう。こちらも対応を考えねば」


 そう言う支部長の目は決意にみなぎっていた。


「後はそうだな……渋谷ダンジョンについてだ。この情報に関しては、信ぴょう性は薄いがもし本当だったら重大な情報だ。そちらもできる限り急いで上級冒険者で探らせよう」


 支部長はそこまで言って立ち上がった。


「……さて、大会直後にこんなことに付き合わされて大変だっただろう。依頼はこれにて完了、完璧に達成してくれたことに感謝し、色を付けて報酬を用意させてもらおう。本当にご苦労様だった、圭太君」

「いえ、完遂できてよかったです。後は結果が良いものになることを期待するだけです」

「うむ。まあ、リリア様が協力したのだ、恐らくあれがカースドアイテムで間違いないのだろう。ですよね、リリア様」

『うーん……うん! 多分……?』

「リリア様?」

「まあ、鑑定次第だな、うん」


 不安そうにするリリアに若干感化される俺と支部長だが、すぐに明るい声で打ち消しにかかった。


「それから、大会の準優勝おめでとう! 当然、ロザリオに変わる品を後ほど報酬と一緒に用意させてもらうよ」


 その言葉に、俺はやっと笑顔を浮かべた。


 優勝できなかったことはやはり悔しいが、準優勝でも立派な結果だろう。別ではあるが同じく大会に出て優勝した鬼月や陽菜には若干顔向けできない気もするが……次の頑張りでどうにか挽回したいところだ。


「ありがとうございます。これもユーゴさん達と、ユーゴさん達を紹介してくれた支部長のお陰ですよ」

「何を言う。君の努力の結果だ、余すところなく誇りなさい。君は偉大な結果を叩きだしたのだ」


 肩を叩かれ、活を入れられる。俺はそれにただ黙ってうなずいた。


「しばらくはしっかり休養を取るといい。ただ、魔神教が怖いからな。暫くはユーゴ率いる上級冒険者が何度か様子を見に来ると思う。これは君を狙う魔神教を確実に確保する為であると同時に、君とその周囲を守る為でもある。君を失うのは、私個人としても、協会から見ても大きな痛手だからね」

「様子を見に、ですか」

「君の家の近くにはダンジョンがあるのだろう。魔神教はダンジョンからダンジョンへの転移を可能とする。念には念を入れた方がいい」

「それは……そうかもしれません」


 どうやらまだまだユーゴさん達に世話になってしまうようだ。


 申し訳ないが、爺ちゃん達のことを考えると四の五の言ってられないか。当然俺もより強くなれるよう努力するつもりだが、その間の守りの事を考えるとこれは渡りに船だと言えた。


「それでは、車を出すので家まで送らせよう。今回は本当に助けられたよ」


 支部長は話をそう締めたのだった。




15:顛末




「圭太君!」

「陽菜、帰ったぞ……どわっ!?」


 家に帰ってくると、敷地内に入った瞬間に陽菜が泣きながら突撃してきた。


「ひ、陽菜……」

「ひっく……また、襲われたんですよね?まだ、よく分かってませんけど……もう、大丈夫なんですか……?」

「おう、怪我の一つもしてないくらい余裕だ。だから、そう泣くなって」


 俺は一瞬戸惑ったが、陽菜の頭を撫でた。陽菜はすんすん泣いていたが、時期に落ち着いて俺から顔を離す。


「全く、お熱いわねぇ」


 要さんが後ろからひょこっと顔を出した。


「ま、陽菜の気持ちも分からなくないけどね。何があったのか、説明してくれるんでしょうね、圭太?」

「分かってるって、要さん」


 帰ってきた。思えば会場で泊まり込みだったから、随分と久しぶりに感じる。


 とりあえずその日は俺を気遣ってくれて、大々的な祝勝会ではなく、盛大ではあるが普通の夕ご飯が用意された。


 祝勝会は後日やるらしい。ありがたくその日一日は休息に回させてもらった。


 食事の後は軽く情報共有だ。


「……そう、そんな事があったの」


 要さんはそう言ったっきり、無言で考え込んでしまった。


「圭太君、怪我はしてないんですよね?」

「ああ。怪我なんて一つもしてないから安心してくれ」

「良かった……」


 頷くと、陽菜は心底安堵したような顔を浮かべた。


「……心配かけてごめんな」

「いいえ、圭太君が悪いわけではありません。全部魔神教が悪いんですっ。やっぱり全員ぶっころします」

「……前に出るのは俺がやるから、陽菜は後ろで魔法撃つだけで満足してくれ」

「はいっ」


 とりあえずその日はこれで話し合いは終わり、解散となった。


 夜の自室で、ふと気になってスマートフォンを取り出してみると、大量の通知が来ていた。その中で坂本たちのグループのトーク画面を開く。


坂本:うおおおお、神野おおお!準優勝、おめでとう!

綾:圭太君、かっこよかったよ~!ほんとうにおめでとう!

犬:おめでとう、結婚しよ

新庄:結婚しよ。後犬はめっ

犬:くぅーん……


 ここはいつも通りだ。


神野:今帰ってきた。応援してくれてありがとな

坂本:やっと来やがった!遅いんだよ神野!

新庄:そうだそうだー

犬:夜遅くまでお疲れ~

綾:圭太君、お疲れ様。本当に頑張ったね。私泣いちゃったよ

神野:泣くな泣くな


 綾さん意外と涙もろいのか。


神野:明日祝勝会するらしいから、もしよかったら参加してくれ。友達枠ってことでどうだ?

新庄:行くに決まってる

犬:絶対行くね

坂本:俺もいいの?マジ?いくいく!

綾:私も勿論参加で!シフト都合してもらわないと!

神野:了解


 どうやら全員来るらしい。明日が休日なのを差し引いたってフットワーク軽すぎないか?


 明日が少し楽しみだな。


 その後、俺は自然と眠りについていたのだった。


 起きたらもう既に昼過ぎだった。何を言っているのか分からないと思うが、俺だって何を言っているのか分からない。ただ、夜ふと目を閉じて、そして目を開けたら既に十何時間も経過していたのである。


 結構疲れてたんだなぁ。疲労がどれだけ蓄積してるかなんて、意外と自分じゃ分からないもんだ。


 さて、家の中が静かだが、庭の方が騒がしい。


 サンダルを履いて外に出てみると、そこにはBBQ道具一式をそろえて肉を焼いている爺ちゃん達の姿が。


「主役の登場だ!圭太、もう始めてんぞ!」

「圭太君の準優勝を祝って、乾杯じゃああ!」


 見るからに高そうなブロック肉や巨大イセエビなどを焼いている二人のジジイを見て、思わず脱力する。


「圭太君、おはよ~!」

「お、ようやっとお目覚めか」

「神野、先に頂いてるよ」

「神野君、やっほ~」


 よく見るとクラスメート達も既に集まっている。俺は四人に手を挙げて挨拶をした。


「おはようございます、圭太」

「婆ちゃん、おはよう」

「ごめんなさいね、あの人達もう既に飲んだくれで……昨日からずっとあの調子なのよ。年を考えてほしいものです。はあ……お酒はまだ早いと何度言っても聞いてくれないんですから…」


 そう言いつつも、上機嫌に笑い皿を用意しにいく婆ちゃん。


 で、ツッコミどころはまだある。


「よぅ、圭太! 先に始めさせてもらってるぜ」

「このお肉美味しいわよ~」

「ユーゴさんにサルサさん、それからムラサメさんも……もうお酒飲んでるんですか?って言うか、ユーゴさん評価員でしたよね?1日経ったとはいえ、こんな所にいて大丈夫なんですか?」

「急いで抜けてきた。用事があるって言えば簡単に開放してくれたぜ。上級冒険者って肩書はこういう無茶ができるから便利だよな」


 それってそう言う風に使っていいのか?と疑問に思うも、まあなんだかんだ言って俺を祝うために無理を言って抜け出してきてくれたらしい。


 ……そう、だよな?決してBBQと酒を楽しみにやってきたわけじゃない、と信じたい。信じるには厳しい凄い食いっぷりと飲みっぷりだが。


 ため息を吐く俺だったが、不意に影が差した。


「圭太……私は、私は嬉しいぞ……!」


 ムラサメさんである。ムラサメさんはお酒臭い息を吐きながら俺に寄りかかるように抱き着いてきた。


「我が弟子よ!よくぞここまで頑張った!私は、私はもう……ずびびっ」

「ちょ、酒臭いですって……」


 泣き上戸なのだろうか。滂沱の涙を流すムラサメさんを、俺はどうにか押し退かした。


「むぅっ……おはようございます、圭太君」

「ひ、陽菜……おはよう……」


 いつの間にか後ろまで来ていた陽菜が俺の腕を引っ張って抱き着いてくるが、どうか許してほしい。酔っ払いの女性をうまく流せる程、俺は経験豊富じゃないんだ。


 それから、流石にユーゴさん達の前でこれは恥ずかしすぎるし、これからする話とギャップがあり過ぎるので一旦陽菜を優しく引きはがした。


「ふう……あの、ユーゴさん、サルサさん、……あとムラサメさんも一応。聞いてほしい話があるので、少しいいですか?」

「なんだ、物々しい言い方だな」


 俺は陽菜、鬼月、リリア、要さん、そしてユーゴさん達をつれて倉庫へ一回集まり、昨日よりも詳しく事の経緯を伝えた。


 どうせ鴻支部長からも連絡は行くだろうが、その後俺からも情報を聞いてくるはずだ。だったらとっとと話しておいた方が早い。


 ユーゴさん達は全員険しい表情を浮かべ、話を最後まで聞き終えてから口を開いた。


「そう、か。すまん、すぐそばにいながら気づけなかったとは」

「いえ、そんな」


 流石に酔いも引いたのか、深刻に受け止めてくれたようだ。


「それにしても、結界ねえ……大分相手の動きが変わったわね。今まではダンジョンの外にはあまり出てこなかったはずなのに」

「ああ……不穏だ」


 サルサさんの言葉に、ムラサメさんも同意してぽつりとつぶやく。


 確かに不穏だ。何一つ分かっておらず後手後手になってしまっているのもそう思わせる一つの要因だろう。


「……ま、今はそんな事いいじゃねえか。詳しいことは支部長にでも聞こう。それよりも、祝い時にいつまでも辛気臭い顔してたらもったいないぜ?ほら、とっととBBQに戻ろう!」


 ユーゴさんの言葉で、硬い空気が霧散した。


『その通りだナ。ケイタ、しばらくは羽を休ませよウ』

「……そうするか」


 鬼月にまでそう言われて、俺は完全に肩の力を抜いた。それが合図となり全員がBBQ会場まで戻り始めた。


「圭太、おはよ」


 俺も戻ろうとしていると、要さんがやってきた。


「やっぱりアンタといると事態がコロコロと転がっていくから楽でいいわ」

「俺の事、イベント進行の為の鍵か何かみたいに思ってるだろ、要さん」

「まあ、否定はしないわ。……ま、とはいっても、圭太?アンタここ最近働き過ぎよ。少し大規模な休みを取った方がいいんじゃない?時には休息も冒険者には必要よ」


 確かに、夏休みの畑ダンジョン出現から始まり、崩壊ダンジョン、大会と割と休みなくやってきた。


 俺だけじゃなく陽菜や鬼月もいるんだし、休みは必要か。


「要さんはそれでいいのか?」

「当然。長い事探ってるんだもの、少し休んでも変わらないわよ」


 そう言って背中を叩いた要さんは、先に行ってしまった。


 支部長にも同じような事言われたし、そろそろ本格的な休みを取ってみるか……とは言え、その間何をすればいいのかが全く思い浮かばない。以前までの俺だったら……ゴロゴロしたりゲームしたりか?


 でも、その時間もレベリングに当てたいというのが本音だ。レベルは上げれば上げた分だけ生存率が上がるのだ。生死に直結する要素に、休みを取り入れるという考え方が俺の中では結びつけるのが難しい。


 ……まあ、後々考えるか。今は肉に集中することにしよう。


『おーい、ケイタ!そろそろ焼けるゾ!』

『ケイタ、一緒に食べよー!』


 手を振って俺を呼ぶ鬼月とリリアに俺も手を振り返して、BBQ会場へと足を運んだのだった。

 



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お待たせして本当に申し訳ありません。とりあえず一話書いてみました。畑ダンジョンに関しては久しぶりに書くので書き方が変わってるかもしれませんが、何卒ご容赦ください。

前と同じペース、とまではいきませんが、少しずつ頑張っていこうと思います。よろしくお願いします。

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