11:崩壊ダンジョン リザルト

「…ねえ、あれヤバくない?」


 河川敷付近の市街地で、モンスターと戦っていた加奈子は後ろで繰り広げられているボス戦を目にしてそう呟いた。


「普通に苦戦してるし…やっぱ、私達も手伝いに行った方がよくない?」

「えっ!?手伝いって…なに言ってるんすか?」

「だから、私たちの力が必要なんじゃないかってこと!」


 ナイフを両手に持った盗賊系の装備で身をまとめた少女が目を丸くして加奈子を見るが、加奈子は得意げな笑みを浮かべてそう宣った。


(私はもう独立したプロ冒険者…圭太なんか必要ないくらい立派になれたんだもの!仲間もいるし、今の私なら、何でもできる気がする…!)


 加奈子は自信満々だった。


「いいですね、行きましょっか~!」

「うちも、こんな雑魚ばかり相手にしてたら詰まんないし!」

「ちょ、な、なにいってんすか!団長の命令はどうするつもりなんすか!?」

「そんなもん、今まで通りに結果を出せば許してくれるって!」

「いやいやいや、流石にヤバいっすよそれは!わ、私は行かないっすからね…!」

「何言ってるの?私がリーダーなのよ!リーダーが行くって言ったら行くの!」

「ええええ…」


 仲間を連れてぞろぞろと行ってしまう加奈子に、盗賊風の少女は肩を落とした。


「…はあ…これのしりぬぐいも私がすることになるんだろうなぁ…」


 少し先の事を考えて憂鬱になる中、少女は独断専行し始めたパーティーメンバーをイヤイヤながらも追いかけたのだった。


 ところ変わって駅前。


「はあ…はあ…」


 ボロボロになった裕二。それを見下ろす狼に、裕二は本気で死を感じていた。


「…ここで、死ぬ…のか…?」


 そう呟いた次の瞬間だった。駅構内から、何かが光を反射したのを目にした。そちらに視線をやると、そこにはスマホのカメラを構えた男が潜んでいた。


「…誰かいるのか…?」


 裕二は笑みを浮かべた。


「僕を応援してくれているのか?そして、僕の雄姿をカメラに収めてくれようとしているのか…!?」


 裕二の剣に光が灯る。体全体に魔力が満ち満ちていき、筋肉が膨れ上がる。


「女の子じゃないから多少強化効率は下がるけど…ふっ。いぬっころ風情には充分だね…!」


 裕二は剣を振りかざし、狼に振るった。


「うおおおおお!僕は【白亜の冒険団】リーダーの篠藤裕二だああああ!そこをどけえええええ!」


 その後、裕二と狼との死闘は20分という長い時間続き、その際取られた動画は『期待の新星、逃げ回るも中級狼相手に大死闘を繰り広げる!』というタイトルでSNSを中心に拡散され、大いにその名を轟かせたのだった。


 夜が明けた。


「…マジか…」


 崩壊ダンジョンが攻略された。そんな快報がもたらされたのが昨日の夜。そして魔素が薄まり、初級ダンジョンクラスになったのが今日の朝の事。


 氾濫性、もしくは崩壊ダンジョンは本来のダンジョンと違って、攻略すれば即座に魔素が消える訳ではない。半日から一日かけて、ゆっくりと魔素が消えていき、魔素が残っている間はその濃度に合わせてモンスターを輩出し続けるという性質を持っていた。


 昨日は夜通しプロ冒険者たちがモンスターを狩り尽くした。


 朝になると初級冒険者たちも外に駆り出されることになった。と言っても、既に現れるモンスターは初級クラスで、更に数も減ってきているので戦闘は少ない。


 田淵たちは外に出て、魔素を少しでも散らす為に急速に弱まっていくモンスター達を討伐しに出掛けていた。


 そしてその光景を目の当たりにしてショックを受けていた。自分たちが暮らしていた街や、登下校中に眺めていた光景がボロボロに破壊されていたのだ。


 男、そして女子二人は言葉もなくあたりを見て回る。


 田淵たちは高校周辺から離れ、小学校周辺まで来ていた。高校周辺は冒険部の面々が仕切り出して狩場が無くなったので、離れた場所に移動することにした。


「あ、いつも使ってたコンビニがつぶれてる!」

「便利だったのにぃ…」

「…俺ん家、大丈夫かな…」

 

 思った以上の広範囲で破壊の爪痕が残されている。それも、巨大な爪の後や、上から押しつぶされてひしゃげた車や、燃やし尽くされた街路樹など、痕だけでも数時間前にここにいて暴れていた存在を想像させる。


 そして、とある通りに出た時だった。


「おおお!すげえぞ、おい、お前ら!早く来いって!」

「…なんだよ、田淵。悪いけど俺ら今そういうテンションじゃ…」

「バッカ、見て見ろって!すげえ宝箱の数だぞ!」

「はあ?」


 そこには、大量の宝箱が落ちていた。右を見ても左を見ても宝箱ばかりだ。地面に無造作に転がっており、その全てが未回収。


 田淵は駆け寄って、宝箱を開けた。中には初心者ダンジョンでは到底みられない程の量の魔石とマジックアイテム、ポーション類が詰まっている。


「すげええ…!これ全部取り放題かよ!」

「すっご!」

「やばーい!これ一個で何万円だろ!?」


 女子二人もつられて田淵の後ろから中身を覗き込み、喜色満面の笑みを浮かべた。


(うはははは!やべえぞこれ!全部は無理にしても、この辺一帯のを全部取り尽くせば少なくとも50万以上は儲かる!で、俺が最初の発見者だから4割くらい貰うとして…やべえ、50万の4割っていくらだ!?誰かは知らねえが、ありがてえ!足にキスしたいくらいだぜ!)


 田淵が頭の中で計算している中、男も興奮気味に宝箱の中を覗き込んだ。


「お、おおお…す、すげえ!…いやでも、これ勝手に取っていいんか?」

「バレなきゃいいんだよ!この辺は誰も見てねえし、取れる分だけ取ってとっとと逃げようぜ!」

「あ、ああ…そうだな。そうだよな…」


 金に目がくらみ、男も女子二人も宝箱を開けて中身を回収していく。ポケットや、脱いだ服を袋代わりにしたものに詰め込む。そうしていると、不意に後ろから声をかけられた。


「あの!すみません、冒険者協会の者ですが!」

「うわっ!」


 四人は宝箱に夢中で、人が来ることにすら気付けていなかった。見てみるとそこには見慣れた制服を着た男が一人立っていた。更に、奥から大量の制服を着た人々が、白い箱に宝箱を丸ごと入れて回収しているのが見える。


「もちろんご存じかとは思いますが、災害ダンジョンにて落ちた未回収のアイテム類は、我々協会が一度預かる事になっております。先ほどから見ていましたが、ずっとこの辺りの宝箱を回収しておりましたよね?お手伝いありがとうございます、こちらにお渡しください」

「え~!マジかぁ…これ全部持ってかれるのぉ…?」

「はい、規則ですので」

「はーい…」


 女子二人が残念そうにアイテム類を渡す。男もためらいながらも集めていた分を渡した。


「で、でも、俺達が最初に拾ったんだし…」

「そうは言っても、これらは本来街の破壊を食い止めるために戦ってくれた、プロの冒険者達の功績ですので。協会は本来その冒険者が得るべき報酬を責任をもって回収し、可能な限りこれを還元する義務があります」

「な、何言ってんのかわかんねえよ…」

「おい、田淵!良いから大人しく渡せって!」

「ぐっ…」


 田淵は服に詰め込んだ魔石を見下ろした。これだけで十数万円は得られる計算だ。


「安心してください。ドロップしたと認定される冒険者が現れなかった場合、回収された魔石分のお金は全冒険者に、活躍した分の金額で分配される予定となっております。また、マジックアイテムもオークションに出され、全冒険者に手に入れられる機会が与えられるようになっております。逆に、ここで無断でドロップ品を持っていって、それが判明した場合、窃盗扱いになってペナルティが課される事になります。このまま窃盗するよりも、大人しく渡した方が得をするかもしれませんよ?」

「ちっ…分かったよ、畜生!」


 田淵は服ごとそれを渡し、その場を離れた。


「まあ、惜しいのは分かるけどよ…今のは、街を守ってくれた冒険者の報酬を掠め取るような真似をした俺らが悪かったよな」

「…そうかも…」

「お金に目がくらんだわ~、やっぱ地道に労働しなきゃお金って貰えないんだなぁ~」


 後ろで三人が残念そうな空気を纏っている中、田淵は懐に忍ばせた、楕円形の小さなマジックアイテムを密かに指で転がした。


(…どうやって換金すっかな~…はあ、金欲しかったなぁ~…)

「なんか、今のウチらって惨めじゃね…?」

「それってぇ、冒険者として?人として?」

「いうなよ、マジで」


 田淵の後ろでそんなやり取りをした男と女子二人。田淵にはそんな三人の声は一切聞こえておらず、どう楽に金を稼ぐかだけに思考を回していたのだった。




11:崩壊ダンジョン リザルト




「…ここは…病院か?」


 ふと目を覚ますと、そこは清潔に保たれた室内だった。俺はベッドに寝かされていたようで、起き上がって周囲を見渡すと思わずぎょっとした。


 ここは立派な貸切部屋で、ソファがいくつかあるのだが、そこに鬼月、リリアが寝ていたのだ。


 更に、ベッドの横に椅子を持ってきて、座ったままベッドに顔を埋めて眠るのは陽菜だった。


「…これって、どういう?」


 陽菜の顔を見る。涙の痕があった。俺は思わず後頭部を掻いた。


「心配かけた、んだよな?…ごめんな、陽菜」

「…ん…」


 陽菜がむくりと起き上がって、俺を見た。


「…お、おはよう」

「…おはようごじゃいましゅ…」


 陽菜は目をぱちぱちさせて、次の瞬間大爆発した。


「ああああああ!起きた!圭太君起きたああああ!先生、先生~~~!」


 陽菜が立ち上がって部屋を飛び出してしまった。俺は思わず目を白黒させる。


『むっ、ケイタが起きたっテ!?』

『んぇ…ケイタ…?』


 鬼月がリリアと一緒にやってきた。


「鬼月、リリア…悪いな、心配かけた」

『うん、本当に心配したんだゾ。ケイタは三日も寝ていたんダ…』

「…マジで?」

『ケイタぁ~!良かったぁ、元気になっでよがっだ~…』

「…ごめんな、リリア…」


 抱き着かれたので、俺は思わずリリアを抱きしめ返した。出会ってまだ半月とちょっとだが、既にリリアは俺にとって妹のような存在になった。そんな子が号泣しているのを見て、申し訳なさと嬉しさが一挙に押し寄せてきた。


「よお、坊主、起きたって?」

「圭太、アンタ平気!?痛いところない!?」

「げいだぐんっ!いぎででよがっだ…!」


 っと、一気に来たな。


 扉を開け放って入ってきたのは、要さん、そしてユーゴさん、大号泣中の陽菜だった。


「うぇぇぇ…」

「ちょっ…陽菜…!?」


 陽菜はそのまま俺に抱き着いてきた。俺はリリアと同じようにするべきか、腕を宙に迷わせる。


「…はあ。安心させてやりなさい。陽菜にとってはトラウマ刺激される出来事だったんだし」

「…悪かったな、陽菜」


 俺は陽菜の背に手を置いた。陽菜は俺に抱き着いたまま何も言わなくなってしまった。


「…さて、モテモテな所悪いですが、そろそろ診察させていただいても?」

「うわっ。あ、お医者さん…?」


 三人と一緒に入ってきてたのか。気づかなかった。


「お、おい、陽菜、リリア。一回退いた方が…」

「ああ、そのままで結構ですよ」


 そう言って、目にライトを当てられたり、喉をのぞき込まれたり、魔素ボトルを使用してスキルで身体を解析されたりと粛々と診察は行われた。


「うん、怪我も呪いも完全に消えてますね。失った血液も、日常生活を送っていればすぐに元に戻るでしょう」

「そうですか…って、呪い?」

「ああ…落ち着いて聞いてください。実は、貴方は呪われていたんです」

「…マジで?」

「あの時はマジでビビったぜ。ダガーで刺されたところから、黒いもやもやみたいなのがお前の身体中に広がり始めてよ。慌てて肉抉り取ったり肌を剥いだりして、呪われたところを捨ててポーションぶっかけてやったんだが…何とかなって本当に良かった」


 目を丸くする俺に、ユーゴさんがそう説明してくれた。


 マジか。俺、肉抉られて肌剥かれたのか。全然覚えてないし、全く跡も残っていない。気にしたのがバレたのか、医者が笑顔で声をかけてきた。


「適切な処置だったと思いますよ。もし僕が呪い対策のアイテムもスキルも所持していない状態で現場にいたら、同じことをしてましたから」

「へへ、俺も少しは頼りになるだろ?」

「ユーゴさん…ありがとうございます。お陰で死なずに済みました」

「よせよ!お前がいなけりゃ俺もヤバかったかもしれねえ。それだけの格上を相手にしたんだ、お前は。本来なら生き残っただけでも勲章もんよ」


 頭を撫でられる。


「ま、とはいえお前の場合、それ以上の事をしでかしたんだけどな」


 そう言って、ユーゴさんが前に出てきた。


「という訳で今度は俺の番だ。まずは報酬の話な…うぉっほん」


 ユーゴさんはわざとらしく咳を一つ挟んだ。そして懐から何やら賞状のようなものを取り出す。


「神野圭太。多数の避難住民の護衛、支援。道中での多数の崩壊モンスターの討伐に加えて、唐突に出現した魔神教信徒相手に、一級冒険者と協力しつつもこれを撃退。奴らが使っていた装備の一部を破損させて、その破片を守り抜いた。破片は奴らの正体を解き明かす重大な資料で、それを奪い取ったのは紛れもなくお前の手柄だ。という訳で、これらの功績をたたえて冒険者協会から5000万の特別報酬が与えられることになった」

「…え?」

「さらに、俺の推薦と、打ち立てた功績を鑑みて、直ちに準二級冒険者へと昇級。加えて、二級冒険者昇級試験では試験の一部が免除となる。おめでとさん」

「え、えええええ…!?」


 あ、頭が追い付かねえ!5000万って、5000万ってことか!?どれくらいの桁なのか全く見当もつかないんだが!?


 それに、準二級って。更に昇級試験の一部免除って。マジか。一つも実感がわかねえ。


「それからドロップ品だが、リストを作成してるから必要そうな奴を見つけたらピックアップして連絡してくれ。俺も選ぶから早いもの勝ちだぜ?」

「あ、はい、ありがとうございます…」

「残ったのは魔石と一緒にオークションとかで売って、金にしてきっかり半々だ。妥当だろ?」

「ありがとうございます」


 これで今回の件については終わりか。…なんか、最後は気を失った所為で実感も湧かないまま終わってしまった気がする。


「…あの、すみません。私、まだ話したいことがあったのですが…」


 医者が手を上げて俺に近づいてきた。


「実は、神野さんの腕なのですが…呪いは完全に消えたのですが、呪いの際に発生した黒い模様が、まだ残っているようなのです」

「え?」


 俺は患者衣をはだけさせて、腕を出した。すると俺の二の腕当たりに、円と、そこからタコの足のようにもやもやが出ている、刺青のようなものがくっきりと残っていた。


 小さいが、普通に目立つ。それにこれは…どことなく、あの刺青男の刺青と似ている。


「…不穏すぎるだろ…これ」

「何度か肌を剥いで取り除こうとしたのですが、肌が再生すると同時にまた発生してしまいます。呪いの反応どころか魔力や魔素の反応もないし、魔力学的に言えば何の異常もない状態なのですが…痛みなどはありますか?」

「…全く。身体にも異常はありません」

「そうですか…一応、様子を見て今日一日は入院しましょう。それから、今後も定期診断に来ていただくことになると思います。魔神教の使う呪いは危険なものばかりですので、ご自身の安全の為にも是非ご協力を」

「分かりました」


 俺はユーゴさんを見た。


「ユーゴさんも、ダガーで結構刺されてましたけど…大丈夫なんですか?」

「俺は全く問題ないぜ。最後の一撃だけに呪いを込めてたんだろうな」

「なるほど…」


 厄介なことになった。それに普通に気色悪い。殺し合いになったアイツと似た刺青ってだけで生理的嫌悪がヤバい。


「あの、これ」

「はい?…これは?」


 医者から何かを渡された。それは店の名刺だった。


「私が世話になってるタトゥースタジオです。どうしても気になるようでしたら、いっそのこと上から他のタトゥーで上書きしてしまえばいいと思いますよ」

「…考えてみます。ありがとうございます」

「いえ。それでは私はこれで」


 そう言って出ていく医者を見送った。


 …眼鏡かけた大人しそうな人だったけど、人は見た目によらないな。


「…よし、じゃあ俺もそろそろお暇しようかね。そうだ、坊主と、それからその仲間たちも…後日、協会に呼び出し食らうかもしれないけど、その時は頼むわ。それじゃ」


 そう言ってユーゴさんも出て行ってしまった。


 という訳で、やっと身内だけになった。


 陽菜とリリアは動かないし、しばらく話し相手は鬼月か要さんの二人になりそうだな。


「…そう言えば、婆ちゃんたちは?」

「丁度皆の分の着替えを取りに家に戻っていったわね。ついでに橘家もお昼ご飯買いに行っていないわよ」

「なるほど…っていうか、要さんも来てくれたんだ」

「そりゃね。パーティーのリーダーが入院したんだから、来るに決まってるでしょ」

「…なんか、ありがとう」

「仲間でしょ?これくらい普通よ普通」


 要さんは恥ずかしがる様子もなくそう断言した。


「崩壊ダンジョンの顛末については聞いてなかったな。真宵手市は結構広範囲がダンジョン化してたみたいだけど…」

『真宵手市に出現した崩壊ダンジョンなら、その日の夜にダンジョンボスが討伐されたナ。18時間後に完全に消滅したゾ』

「真宵手市以外には被害は出なかったわよ。聖架もぶっちゃけ全然平和だったし…ただ、他の所がね…」

「…ちょっと待って。他の所って、どういう事?」

「実は、日本全国で四つ。同時刻に別々の場所で崩壊ダンジョンが出現してたのよ」


 …同時刻に、同時に四つ?


 俺はその時ふと、刺青男が最後に言い残した言葉を思い出した。


『だが、目的は果たした。さらばだ、痴れ者どもよ。次こそは必ず…殺す…』


 …そもそも、奴らの目的って何だったんだ?


 俺を含め、冒険者を殺す為に崩壊ダンジョンを出現させるというのは、あまりにも大げさすぎる。その上現れた魔神教徒の実力からいっても、あんな格上がわざわざ俺1人を狙って殺しに来るわけがない。明らかにオーバーキルだ。


 とすれば、ここで何か成したいことがあったから、崩壊ダンジョンを生み出したってことになる…よな?


 …うーん、分からん。情報が足りなさ過ぎて何も分からない。


「要さん的に、あいつらの目的はなんだったと思う?」

「…そうねえ。私の推察で良いんなら教えても良いけど、多分二度手間になるわよ?」

「…どういう事?」

「協会に呼び出されるってさっき言ってたじゃない。じゃあ、どうせ魔神教についても聞かされると思うし…その時聞いた方が、私の口から聞くよりも確実だと思うわよ」

「…冒険者協会は、魔神教について知ってるのか?」

「冒険者協会じゃなくて、この辺の地区を纏める冒険者支部長が色々ね。それに、魔神教じゃなくて、魔神そのものについて詳しいのよ。何せソイツ、多分リリアと同じ出身の人間だし」

「…マジ?」

「多分。私の予想だけどね」


 リリアと同じってことは、異世界出身ってことだ。そんな人がいて、その上冒険者協会の支部長って…マジでどうなってんだ?


 結局、俺が抱いた疑問はいくら頭をひねったって答えが出てこない類のものだと割り切り、俺はその日一日、思いっきり入院生活を楽しんだのだった。

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