4:中級ダンジョン探索初日 リザルト

※前回の『3:中級ダンジョン探索初日』に置いて、以下の改訂を行っております。


リリアによるスキルの封印、また、そのもののスキル→なし


どうかご理解の程よろしくお願いいたします。



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 放った牽制の一撃が奴の顔にヒットする頃には、俺は前に出て奴の足元までたどり着いていた。


『ォォォオオオオ…』


 野太いうめき声がして、奴が俺に注意をひかれる。顔にはばっちりと傷が付いており、片目がつぶれていた。


 風刃でも傷が付くということは、サイズがデカいだけでステータス自体は低いという事だ。分析しつつ、振り下ろされた拳が地面を大きく砕くのを跳んで避ける。


 凄まじい破壊力だ。少なくとも近接のステータスは中級クラス並。今まで出会ってきた中で同じ程の威力を出せる奴と言えばモーロックかアスモデウスくらいだろう。


 しかし動きは遅い。俺は腕に飛び乗り、思いっきり駆け上がった。腕に刀を振り下ろし、切り傷を付けながらだ。多数の切り傷から魔素を噴き出し、苦しそうに呻くジャイアントの顔目掛けて疾走する。


『ォオオオオ!』

「よっと」


 俺を振り落とそうと藻掻くジャイアントの身体に、要さんの魔法の罅が走った。罅が光り輝いて白く爆発し、俺が乗ってる方と逆の片腕がボロボロになって地面に落ちた。


 中級ダンジョンは初級ダンジョンと比べて魔素濃度が高い。高レベルで中級ダンジョンが主な活躍の場所だった要さんにとっては、まさに水を得た魚のような状態なのだろう。


 強化ファイアボールがジャイアントの顔にぶち当たる。そして、煙が晴れた頃には俺は肩の辺りまでいて、強化した刀を真横に一閃。首を半ばまで断ち切り、その場を離れた。


 魔素と煙を噴出して倒れていくジャイアント。倒れる頃には半透明になっており、まるで地面に溶けていくかのように消えてしまった。


「楽勝だな…」


 呟くのと同時、大分高い所まで登ってきて、空を自由落下している状態なのだが、遥か眼下で魔素が集中していくのが見えた。何度も見た光景だ。


 さて、どんなモンスターが出てくるのかな?


 …そう思っていると、出てきたのはとぐろを巻いた蛇だった。全長100mはありそうだ。


 ソイツはバネの要領で身体全体を使ってストレスをかけると、俺に向かって思いっきり突進してきやがった。


「うおっ!?」


 慌てて刀で牙を受け止めるものの、凄まじいスピードで身体を後方へと持って行かれる。ヤバい、孤立する…!と思う間もなく、光る刃が飛んできて蛇の首を一刀両断した。


 鬼月の新しい武器の力だ。《エンシェントソード》と呼ばれる畑ダンジョン産のレアドロップ武器。低レアの状態では鍛冶師の創る武器の方が性能を上回っている場合が多いが、鬼月の剣と、更に俺の持つ《灼熱の小太刀》に関しては例外。格上にも通じる火力を持っている。


 鬼月は相変わらず最高の支援速度だが、元が凄まじい速度だったので、俺は口を大きく開けた蛇の頭と一緒に木に激突、蛇の口に固定されその場に縫い付けられてしまった。


 ぎしっ、と音がして、何事かと思うと、首だけになった蛇が、樹の表面ごと俺をえぐり取ろうとしていた。慌てて刀を振るって蛇の首をさらに兜割りしてその場から脱出する。


 ふう、これで戦闘は終了かな?現在高度50m。樹の幹に沿うように落下中だ。眼下では陽菜を抱えた鬼月、そしてリリア、要さんが走ってこちらに来ている。


 …なんか、陽菜が詠唱してないか?杖の先端を光らせて魔力を送り込んでいるのが見えた。


 ファイアボールが発動し、飛んでいったのははるか上空だった。思わずファイアボールを目で追うと、俺は度肝を抜かれた。


 超巨大な苔むしたタコが俺達を見下ろしていたのだ。何本もの家程の太さの樹々に足を絡ませていた。


 確か名前は《ディープフォレストオクトパス》だったっけ?上層で出てくる一番デカいモンスターがアレだ。ええい、次から次へと!モンスターの出現率は他のダンジョンに比べて低いはずじゃなかったのか。


 気が付けばタコの足が幹を伝って俺のすぐそばまでやってきていたらしい。ファイアボールに怯んだのか、吸盤が浮いて樹の表面が抉られて、その音で初めて気が付いた。


 慌てて幹を蹴ってその場から退避すると、次の瞬間にはタコの足が樹の幹に食い込み、俺のいた場所ごと圧壊させていた。


 バキバキバキッ、と凄まじい音が鳴り響き、奴はそのまま半ばから折った巨大な樹を持ち上げる。そして、俺に向かって放り投げてきやがった。


 俺はさらに空中でジャンプして何とか体勢を整え、落下中の樹の幹に着地、上方向へと駆けだした。タコに近づいて、強化した風刃を使って全力で奴に向かって斬撃を飛ばす。


 タコは見た目に似合わない速度で蠢いて、直撃を避けやがった。何本か足を取ったので機動力は削いだと思うが、元々八本もあるから焼け石に水だ。


 残った足を使ってぬるぬると動いて樹の幹にしがみ付いたタコだったが、突如しがみ付いていた樹に白い罅が走って爆発、くっついていたタコをずたずたに引き裂いた。


 要さんの魔法が、樹の幹を伝って60mもの距離を駆け上がってタコに届いたのだ。


 さらに、足がバラバラになり落下していくタコを追撃したのはリリアだった。水のジャベリンを複数生成して一斉掃射。串刺しになったタコは落下しながら、魔石と、それから宝箱を残して消滅してしまった。


 落下していた樹の幹が凄まじい轟音を響かせ地面に衝突し、遅れて俺は地面に降り立った。


「…流石にびっくりしたな」

「びっくりしたな、じゃないわよ。危なっかしいわねえ」

「圭太君、大丈夫ですか?」

「あ、ああ、大丈夫」


 駆けよられて心配の声をかけられてしまった。一応傷は無い。


「ちょっと油断してたでしょ」

「…はい。すみませんでした」


 ジト目の要さんに返す言葉もなく、俺は素直に謝った。タコに関しては俺がいの一番に気付いてなきゃいけなかったのに、蛇で終わりと勘違いしてたしな。陽菜の魔法が無ければ普通に不意打ちを食らっていただろう。


 俺達はその後宝箱を回収し、戦闘を振り返る。


「意外と攻撃は通ったな。少なくともアスモデウス程の防御力は感じなかったし」

「アスモデウスは例外よ。ダンジョンボスの強化種なんだから、あれと比べたらこのダンジョンのモンスターは皆雑魚になっちゃうわよ?」

「あはは…やっぱりというか、連戦になっちゃいましたね」

『このダンジョンはモンスターとの遭遇率が低いと聞いていたガ』

「圭太のスキルでしょ?まあ、宝箱が確実に手に入るんだから安いもんよね」

『リリアも活躍できた!』

「そうだな。助かったよ、ありがとう」


 リリアが撫でてほしそうに近づいてきたので、頭を撫でておく。癒されるなあ。


「十分戦えるって分かったし、今日は上層を回ってここの環境に慣れることに専念しようか」


 という訳で、俺達は今日一日ずっと上層でモンスターを狩り続けた。


 と言っても遭遇率は畑ダンジョンの頃と比べるとやはり低く、大体1時間に一回戦闘があるかないかと言った感じ。


 ただし、ひとたび戦闘となると巨人や大蛇などが出てきて、更に必ずと言っていい程追加モンスターも出現する為一戦一戦に気を抜けない。


 特に要さん抜きで戦うと、痛手を食らうことはないが結構長引いてしまう。しかし向こう1カ月は要さんは中々参加できない為、高レベルの要さんのバックアップがある今のうちに要さんがいない状況での戦闘に慣れておかないと、後々痛い目に遭いそうだ。


 という訳で俺達はその日、7回ほど戦闘を繰り返し、レベル上げとお金稼ぎに精を出したのだった。




4:中級ダンジョン探索初日 リザルト





 探索を終え、家に帰ってきた俺は今日の戦果を纏めていた。更にノートにもどのような敵と戦ったか、日記みたいな感じで記録していた。


 ネットで初心者の内はこうした方がいいというアドバイスを見かけたのでやってみているが、確かに復習には丁度いいかも。


「…この調子だと、明日は中層に行ってもいいかもしれないな」


 今日一日無傷で乗り切る事が出来たため、恐らく問題はないだろう。


 手に入れたアイテムは《大蛇の鉈》、《苔むした大剣》、《ヒカリゴケの薬》、それから《大蛇の肉》と《深きタコの足》という食材アイテムを一つずつ。


 武器類はどれもレア度1。攻撃すると蛇の呪いを押し付けたり、切り傷から苔を生やして魔力を奪ったりと言った強力な効果を持っているが、流石に今の装備から外すほどではない。


 薬に関しては回復系のアイテムらしい。綾さんに鑑定してもらっていざという時の為に持っておく。


 食材アイテムに関しては、蛇の方は瞬発力アップ、タコの方は柔軟性がアップという効果だった。正直ゲテモノにしか思えないが、とはいえ味は確かなはず。婆ちゃんがちゃんと料理に変えてくれるだろうし、とにかく持って帰るとしよう。


 …しかし、こうして魔素濃度の高い中級難易度ダンジョンに潜り始めると、やっぱり要さんが強い。レベルがかけ離れているというのもあるが、判断力やダンジョンへの知識など、学ぶことも何かと多い。


 リリアもまた強力な魔法の使い手だ。


 ちなみに、二人のステータスはこのような感じとなっている。



――――――――――――――――――

朽木 要

Lv.12

近接:58

遠距離:21

魔法:79+4

技巧:65+1

敏捷:32+2

《スキル》

【杖魔法Lv6】

【杖術Lv5】

【自己結界】

【矢避けの加護】

――――――――――――――――――


【杖魔法Lv6】

・ホワイトブレイク

【起動条件:杖による殴打】(Lv1)

・杖への魔力伝導率上昇(Lv2)

・『オリジナル魔法:グライディング』

【起動条件:なし】(Lv3)

・魔法に補正(Lv4)

・杖で攻撃する際、思考能力上昇(Lv5)

・『オリジナル魔法:バーンストライク』

【起動条件:杖による殴打】(Lv6)


【杖術Lv5】

・杖による攻撃に対し若干の補正(Lv1)

・技巧に補正(Lv2)

・『杖術一の型:連打』(Lv3)

・杖を使った反動、移動に高補正(Lv4)

・杖を装備している間、敏捷に補正


【自己結界】

・無属性結界魔法

・自身を守る結界で周囲を包む


【矢避けの加護】

・風による加護

・飛び道具による攻撃を感知する

・10%の確率で飛び道具が風にあおられ届かなくなる




――――――――――――――――――

リリア

Lv.9

近接:24

遠距離:43

魔法:53+8

技巧:29

敏捷:21

《スキル》

【水魔法Lv9】

【アクアリング】

【転変:水】

【泉の加護】

【水の精】

【教導:流水の理】

【レベルダウン】

――――――――――――――――――


【水属性上級魔法Lv9】

・アクアジャベリン

【起動条件:なし】(Lv1)

・魔法に高補正(Lv2)

・『オリジナル魔法:リンクバースト』

【起動条件:詠唱(長) アクアリングを使用後発動可能。対象の数が多い程威力が上昇する。使用後、アクアリングは消滅する。敵の場合:水属性のダメージを与える。味方の場合:大幅に回復する】(Lv3)

・水属性の魔力放出を自在に可能(Lv4)

・====(Lv5)

・====(Lv6)

・====(Lv7)

・====(Lv8)

・====(Lv9)


【アクアリング】

・水属性付与魔法

・【起動条件:視界に捉える】

・視界に捉えた対象に水の輪を付与する。水の輪は複数の対象に付与が可能。

・水の輪は複数の効果を持つ。敵の場合:魔法に反応して0~2個の特殊な泡を生成し、魔法に込められた魔力を利用して爆発しダメージを与える。味方の場合:一定時間ごとに1~2個の特殊な泡を生成する。泡が弾けると傷を癒す。


【転変:水】

・身体を水に変化させ、様々なものへと変身する


【泉の加護】

・自身、もしくは眷属とみなす者に、強力な水の加護を授ける

・水属性魔法を強化する。水の中で呼吸を可能とする。泉クラスの面積までの水の上を歩くことができる


【水の精】

・水属性魔法に限り、無詠唱発動可能


【教導:流水の理】

・教導スキル

・流水の理を他者に教えることができる。効果は本人の知力に依存する。


【レベルダウン】

・この者は現在、レベルを著しくダウンさせている




 要さんは俺や陽菜の得意な項目をほぼ2倍の数値で所持しており、攻撃方法も多様で防御も出来るとオールラウンダーな性能を持っている。


 リリアもまた、レベルが大幅にダウンしている中でこのステータスはやはり流石は精霊、名持ちのイレギュラーと言ったところか。しかもスキルが大量で、本来ならどれくらいレベルがあったのかを察せられる。


 リリアに関して気になるところと言えば、ステータスを見抜く力と【教導:流水の理】というスキルだろうか。


 ステータスを見抜く力は、実はあれはスキルではなかった。『精霊眼』と呼ばれる一部の精霊が持つ魔眼の様なもので、リリアにとっては出来て当たり前の、身体能力の一つらしい。人間が他の動物よりも持久力に優れているように、生まれ持った能力ということだ。


 『精霊眼』は生き物限定で発動でき、ステータスを見抜くほかにも遠視や透視を行えるそう。


 で、スキルではないから何が変わるのかというと、魔素の無い場所でも動作が不安定にはなるが使えてしまうという所だろう。冒険者などの魔力を持つ相手に限られるが、覗き見ができるらしい。


 ただし、リリアは現在弱体化中なので、思いっきり目を凝らさないとみることはできないそうだ。格上の相手には通用しないとも言っていた。それでも十分恩恵の大きい能力なので、期待したい。


 教導スキルというものは極まれに入手できるスキルで、所持している人はもれなく重要な人物として国にマークされることになる。


 実際、外国の話だが【教導:魔導の理】を手に入れたルーキー冒険者が、数年後にはプロの冒険者相手に教鞭をとって国からも召し上げられ、億万長者になったというニュースもある。


 俺達も試しに教導してもらったら、微かに敵の攻撃を受け流す動作が滑らかになった。


 リリアはレベルを上げる事で知力が戻るかもしれないので、今後の成長…まあ、成長でいいか。成長に期待だ。


 という訳で、二人とも俺達初心者組とは大違いのステータスとなっている。だがリリアはそもそも幼児退行しているので中々うまく自分の力を使いこなせずにいるし、戦闘力に関しては俺と同じくらいだ。しかし伸びしろの塊ではある。


 要さんに限って言えば、何故俺達のパーティーに所属してくれているのか、はたから見ると分からないレベルだろう。俺達は事情を知ってるからいいが、知らない人からは俺達が寄生しているのかと思われてもおかしくない。


 まあ、他人から何を言われてもどうでもいい事ではあるが、陽菜や要さんに迷惑だけはかけないようにしたいものだ。


 閑話休題。上層のモンスターとはあらかた戦ったので、次は中層に挑むとしよう。要さんがいる間に少しでも奥を様子見しておきたいからな。


 休みの日に申し訳ないが、要さんの都合がつく日がしばらく来ないからな。付き合ってもらうとしよう。

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