閑話2:日常

※『30:ダンジョン攻略 リザルト』において、以下の部分を改訂しております。


ダンジョンが機能を止める期間が1,2週間→2,3日程度


ご理解の程何卒よろしくお願いいたします。





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 俺達のパーティーは畑ダンジョンが動き出すまでの間、休みを取る事にした。先週から続いたダンジョン防衛で全員疲れていたからだ。特に陽菜には、自分のプライベートの時間まで潰して、畑ダンジョンの問題に付き合ってもらって、多少申し訳ない思いもあった。


 折角の夏休みだし、ここまで働いたんだ。毎日のように俺と顔を突き合わせることになってそろそろ飽きてきただろうし、休みを満喫しても誰も責めはしないだろう。


 という訳で、ついでに俺も今年になって初めてゆっくりと夏休みらしい生活を送ることにした。


 まず朝。休みという事で、目覚まし時計もかけないで欲望のまま眠る。惰眠を貪るのは休みの日の特権だ。俺は薄い意識の中で幸せの中に浸りながらゆったりと眠る。


「…の、…さ…い」


 すると、ふと誰かの手で優しく揺すられた。思わず顔をしかめる。


「…うーん…鬼月か…?悪いが今日はゆっくり過ごすことにしてるんだ…後1時間は寝かせてくれ…」


 そう言いながら揺すってきていた手を取ると、なんだか異様にすべすべしていて細っこい。違和感を感じてぱちりと目を開くと、そこには陽菜の顔があった。


「…お、おはようございます」

「…おはよう…」


 時が止まった。


 …これは夢か?


 陽菜はエプロン姿をしていた。男心をくすぐる恰好で大変眼福だが、問題はそこじゃないだろう。問題は、何故その姿で陽菜が俺の部屋に侵入し、起こしてくれているのかという一点のみだ。


「…あの、陽菜さん?何してるんですか?」

「えっと、実はその、いつも頑張ってる圭太君に朝ご飯を作ってあげようと思い立ちまして…出来たので起こしに来た次第だったのですが、そのぅ」


 いつも頑張ってるケイタクン?圭太君ってのは誰の事だ?…俺の事か。


 つまり俺の為に朝ご飯を作りに来てくれたってことか。まあ家近いし、来るのにそう負担はないだろうけど…早起きしたんだろうなあ。


 休みの日くらいもっとゆったり過ごしてほしかったんだけど…気持ちを無下には出来まい。


 っていうか俺、同い年の女子に朝ご飯を作ってもらえるのに見合う程頑張っては無いはずだがどうなっているのだろう。困難と祝福が釣り合ってない気がする。


「…ありがとう。ありがたくいただくよ。でも、朝早く起きるのは負担じゃなかった?せっかくの休みなんだし、もっと寝てても良かったのに」

「私、眠りは浅い方なんです。早起きするのも好きなので、負担なんて全くないですよ?」

「そうなんだ。俺は朝弱いから、早起きできるのは羨ましいな…しばらくしたら起きるから、先に行って待っててくれるか?」

「は、はい…でも、その…」


 正直、まだ頭が完全に起動しきってないレベルだ。俺はぼおっとする。


 …しかし、陽菜が動く様子がない。少し不思議に思って陽菜を見ると、顔が赤かった。


「…あ、あの…」

「…どうかしたのか?」

「その、そろそろ、手を…」


 手?そう言われて俺は初めて自分の手を見た。


 陽菜の手を握っていた。完全に目が覚める。俺は即座に手を離して、震える声で尋ねた。


「…俺、いつからこうしてた?」

「目を覚ました時から、です…」


 俺は起き上がって、土下座した。


「マジでごめん。無意識だった」

「えっ、いえ、土下座する程では」

「どうか、どうか示談で済ませてください」

「訴える気もないですよ!?」


 出会って二週間も経っていない女子相手に手を握るとか、気持ち悪すぎて笑えない。今後の関係にも響く愚行である。


 命を預け合うパーティーに置いて、信頼度の低下だけはどうにか避けなければ。


「俺は陽菜の事、大切な仲間だと思っている」

「へ!?は、はい…」

「だから手を握りたいだなんて不純な思いは一切抱いていないし、異性に対して一般的に男子が望むような願望も一切持っていない。今後抱くこともない!もはや信じられないとは思うが、どうか信じてくれ…頼む!」


 言い切って、俺はちらっと陽菜の顔を見た。すると、陽菜の顔が恐ろしい事になっていた。


「…ふーん、そうですか」

「…陽菜さん…?」

「さっさと来てくださいね。ご飯、冷めちゃいますから」


 陽菜は吐き捨てるようにそういうと、部屋を出ていってしまった。


 どうやら選択肢を間違えてしまったらしい。おかしいな、ダンジョンの中ではこの手の即断即決は大体いい方向に転がるんだけど…。


 女心って難しい…。





閑話2:日常





「じゃあ許してあげます」


 朝ご飯の味を褒めたり服を褒めたり約束を取り付けたりして、不機嫌になった陽菜を何とかなだめることに成功し、俺はほっと一息ついて橘のおじさんの家に帰る陽菜の後姿を見送った。


 よく分からないが、夏休みの間朝ご飯を作る権利とやらをもぎ取られたのだが…陽菜にとってどんなメリットがあるのだろう。


 いや、まあ、自意識過剰じゃなければそういう事なんだろうけど…え?そういう事、なんだよな?俺が間違ってる…のか?


 でもまだ出会って一カ月も経ってないのにそんな事あり得るか?


 ただの勘違いかもしれないし、そう深く考える必要はないだろうが…うん、間違ってたら恥ずかしいし、勘違いだと思うことにしておこう。


『ケイタ、遊ぼー?』

「ん、リリアか。朝ご飯は食べたか?」

『うん』


 考え事をしていると、リリアが手を握ってきた。見た目相応の笑顔で俺を見上げてくるリリアに、俺は微笑ましい気持ちになって頭を軽く撫でる。


「よし、遊ぶか。リリアは何したい?」

『えっとね、リリア街行きたい!』

「街か…黒永さんにもお礼言いに行きたいし、行くか、街!」

『やったー!えへへ、ケイタ大好き!』


 リリアに抱き着かれる。


 今、リリアは俺と契約をしている。こうすることでリリアにどんなメリットがあるかというと、一つは魔神とやらに感知されなくなる、という事。


 魔神はどういう訳か、ダンジョンの中にいるものを感知する力を有しているらしい。ダンジョンの中にいるモンスターは全てダンジョンに管理されており、魔力によって繋がれている状態だから、そこを通じて感知してくるのだそうだ。


 しかし契約をしてしまうと、魔力のラインはダンジョンではなく俺とつながる事になる。よって感知されないのだとリリアさんは言っていた。


 故にしばらくは相手からのアクションは無いだろうと言っていたが、果たしていつ、どういう手段でリリアを狙ってくるかは分からない。本当に厄介なものを抱え込んでしまったと我ながら思うが、だからと言って命の恩人を見捨てるという選択肢は俺を含む全員には無い。


 むしろ要さんは、リリアを狙ってきた魔神の手下を拷問して、逆に情報を抜いてやろうじゃない、とやる気満々だ。


 ちなみに要さんは今はいない。要さんは今、別のパーティーに加入しているそうだ。ここ数日はそのパーティーが休暇中で暇だったから依頼を受けてお金稼ぎをしていたらしい。


 今は戻ってしまったが、キリの良い所でパーティーを脱退して合流するつもりらしい。長くても一カ月くらいだと本人は言っていたので、それまでは要さん抜きでの活動だ。


 一カ月なんてダンジョンに潜ってればすぐだろう。


 閑話休題。俺はリリアに言われた通り、街にまでやってきていた。今日はバスではなく、爺ちゃんが車を出してくれた。


 小さめのバンで、いつもは野菜を持って行ったりするのに使っているのだが、今日は俺、鬼月、リリアの三人で乗せてもらった。


「へえー、ここが鍛冶工房か!めっちゃロマンあるじゃねえか!」


 駐車場に止めて、俺達は黒永さんの鍛冶工房までやってきていた。


「爺ちゃん、挨拶してくるだけだから待ってても良いんだぞ?」

「武器見る位なら冒険者免許無くても出来るんだろ?いいじゃねえか少しくらい」

『リリアも一緒に見る!』


 そう言って、爺ちゃんとリリアは工房の中に入ってすぐの所にある、小さめの売り場の方まで行ってしまった。


 全く、使う機会なんてないだろうに。俺と鬼月はそれを見送って、カウンターまでやってきた。


「すみませーん、誰かいませんか?」


 呼びかけてみるが、誰も来ない…と思っていると、ゆっくりと階段を下りてくる音がした。暫くして現れたのは、鈴野 涼さんだった。


「はーい、いらっしゃい、お客さん…って、神野君か。ネネなら今日は休みだけど?」

「えっ、そうなんですか?いい武器を作ってもらったから、お礼を言いに来たんですけど…」

「そうなの?アイツも成長したもんだ…よし、そういう事ならあげちゃっていいでしょ。ついておいで」


 そう言って、鈴野さんは階段の方へ行ってから俺達を手招きした。俺と鬼月もソレに付いて行く。


 二階はどうやら居住空間となっているらしい。入ってしまっていいのか戸惑う中、鈴野さんが扉をノックした。


「おーい、ネネ。アンタにお客さんだよ」


 そういうと、しばらくして扉がゆっくりと開いた。


「…師匠、今日はお休みなんだけど」

「そう言いなさんな。それに鍛冶以外でアンタがすることなんてどうせ寝る位でしょ?いいじゃない」

「師匠…私の事どう思ってるの…?とにかく、お客さんにはちょっと待ってもらうように伝えてくれない?…準備があるから…」


 そう言って出てきたのは、パジャマ姿の黒永さんだった。目と目が合う。


「…やあ、神野君、鬼月君。今日はとてもいい天気だね、あははは…」

「あ、はい…」


 沈黙が流れる。少しして俺は何とか言葉をひねり出した。


「…あー、俺達、時間を置いてから出直そうかな、なんて…」

『…そっ、そうだナ!それが良いと思うゾ!』


 鬼月さえ慌てた様子で頷いた。さっきまで『ありがとう、大切に使うって伝えるんダ!』と目を輝かせていたのに、今では見る影もない。


 そんな俺達を、黒永さんが慌てた様子で引き止めた。


「いや、待ってくれ。君たちは何も悪くないから。悪いのは師匠だけだから…!」

「あれ、私だけ悪者扱いなの?」

「どう見ても師匠が悪いだろ、このすっとこどっこい!」


 黒永さんの叫び声が工房中に響き渡ったのだった。


 客間に通されて、しばらくして黒永さんがやってきた。今度は普通の私服姿だ。顔が少し赤いが、そのまま向いの座布団に座った。


「…見苦しいものを見せてしまい申し訳ない。師匠には俺からきつく言っておいたからどうか許してほしい」

「いや、こちらも無遠慮が過ぎました。休みの日に来てしまった時点で失礼でしたから」

「や、やめてくれ!折角来ていただいたお客さんに、そんなことを言わせてしまったら罪悪感で潰れてしまう!悪いのはこちら側だ!気にしないでほしい!」

「…そこまで言うなら、分かりました。気にしません…」


 黒永さん、大変そうだな。


『…スズノ リョウが天然ちゃんだと言われていた理由が分かった気がしたゾ』

「お分かりいただけたようでうれしい。鍛冶している時以外は基本ポンコツなんだ、あの人」


 ため息を吐き出して、黒永さんは首をぶんぶんと振った。


「いけないいけない、ただでさえ君たちを待たせてしまっているのに、いつまでも暗いままではさらに迷惑をかけてしまう。えっと、今日は何をしに?装備に何か問題でも見つかったかな?」


 何とか調子を取り戻して尋ねてきた黒永さん。俺はほっとしつつ話を切り出した。


「いえ、その逆ですよ。本当に良い武器を作っていただきました。今日はそのお礼を言いに来たんです。あ、これつまらないものですが」

「おっと、これはご丁寧に…しかし、そうか!俺の作品達が役に立てたようで何よりだ!」

『僕からもありがとう!『青鬼シリーズ』も槍も盾も、とても気に入ったゾ!大切に使うんダ!』

「いやぁ、そっかそっか!へへっ、こちらこそ、嬉しい言葉をありがとう!」


 心の底から嬉しそうに笑顔を浮かべる黒永さん。真剣に仕事に打ち込んできたからこその喜びなのだろう。生粋の職人なんだな、と改めて感じる。


「黒永さんさえよければ、これからもどうぞよろしくお願いします」

「うん、こちらこそ!君みたいな腕の立つ冒険者に気に入られて、鍛冶師冥利に尽きるというものだ!」


 握手をして、俺達は改めて今後もよろしくと伝え合ったのだった。


 さて、客間から出て売り場に戻ると、爺ちゃんが鈴野さんに見守られながら刀を握っていた。


「ほ~、こりゃ良いな。手に馴染むようだ」

「でしょう?弟子の作品ですが、中々の腕なんですよ」

「これって、刀以外にも槍とかも作ってもらえるんですかね?あ、女性用で」

「ええ、もちろん可能です」

「なるほどなるほど」

「…何してんの、爺ちゃん?」


 俺が呆れて声をかけると、爺ちゃんは刀を鞘に納めて鈴野さんに返しながら手を上げた。


「おお、待っとったぞ!俺はほらアレだ、俺も冒険者になってみようかなと思っていてな」

「冗談なら婆ちゃんがいる所でしろよ。耳引っ張ってもらえるから」

「耳引っ張ってもらえるからってなんだよ!」

「あのねえ、ダメに決まってるだろ?爺ちゃんももう若くないんだから、冒険者なんて絶対無理に決まってる」

「言ったな?坊主」

「…なんだよ、その謎のノリは」


 爺ちゃんがにやりと笑った。


「先生、もう一度アレを用意してくれませんか?あ、二つね」

「二つですね、はいよ」


 鈴野さんが持ってきたのは、刀の試し切りに使う巻き藁だった。かなり太い。それを十分にスペースのある場所に、手慣れた様子で設置した。


「見てろよ、圭太」


 そう言って、爺ちゃんは刀を抜いて一気に振った。すると巻き藁が両断される。


「おお、五畳分の巻き藁をすんなりと。綺麗な太刀筋…えっと、あのご老人は?」

「俺の爺ちゃん。にしても、まさかここまでの腕があるとは…」

『凄いぞゲンゾウ!まだまだ若いナ!』

『じいじすごーい!』


 リリアが爺ちゃんに近寄ろうとするが、俺が止めた。刀持ってるからね。


 爺ちゃんが鞘に刀を戻して、俺に差し出してきた。


「ふっ…やってみろ」

「何この展開…」


 刀を渡される。


 しかし、ここまであからさまに他人から試されると、こっちとしても大人しく引き下がるという選択肢はないわけで。


 俺は刀を抜いて、構える。そしてステータスが発動している時の、あの感覚を思い出す。


 そして、どこを切るかをイメージし、そのイメージ通りに刃を振るった。


 ばすっ、と音がした。


「…ダメだったか」


 ギリギリの所で刃が止まっていた。その結果に俺は愕然とする。


「最後の所でカーブしとるから、刃筋がブレたんだろうな」

「くっ…悔しいな、これ」

「いや、むしろ俺に少し習っただけでこれだけ斬れるんだから大したもんだ。それくらいダンジョンでの戦闘が良い経験になってるんだろうけどな…まっ、それでも爺ちゃんにはまだ勝てんらしい!がはは!」


 爺ちゃんは呵々と笑った。俺は何も言えずに押し黙った。


「という訳で、俺も冒険者になるぞ!」

「それはダメ!」

「むう、ちょっとくらい良いだろ!?」

「ダメなものはダメだ、爺ちゃん。ダンジョンって危ないんだぜ」

「くー!実力差を見せつけたら勢いでごり押せると思ったが、ダメだったか」


 爺ちゃんはとりあえず引き下がる事にしたようで、悔しそうにそう言った。


 全く、急に何を言い出すかと思えば。食材アイテムのお陰で健康になったとはいえ、爺ちゃんは歴とした70代なのだ。あまり無理はしないでほしい。


「あ、これ巻き藁代…お釣りありますか?」

「はいよ」


 その後爺ちゃんが巻き藁代を払って、工房を後にする。…のだが、後ろから鈴野さんに話しかけられた。


「あ、神野君」

「はい?」

「今日は綾も休みだから、遊びに行くなら誘ってあげてよ。もしかしたらもう予定埋まってるかもしれないけど…」

「え?うーん、どうしようかな…」


 綾さんとは、出張買取の時くらいしか会った事がないから、遊びに誘えと言われると少しためらう所があった。


 しかし、確かにこの夏休み中かなり世話になったし、特にダンジョン防衛中はかなり無理をしてもらった。綾さんにも何かしらで返したいと思っていたが…丁度いい機会かもしれない。


 でも、女子を誘うのって勇気がいるんだよな。ダンジョンに潜ってからは割と勇気が付いたと思っていたが、それでも少しためらいがある。


「あと、ネネもつれていってやってくれない?カラオケでも連れて行ってやってよ。コイツ休日は寝るか趣味で武器作るかくらいしかしないから、QOLが低いんだよね」

「師匠…勝手な事言わないでほしいな。それに、俺は鍛冶師だ。鍛冶師が刀を打って何が悪い!」

「別に悪いとは言ってないけど、アンタそのままだと嫁の貰い手が無くなるよ?」

「なっ、そんな事師匠には関係ないだろ!?あと、ネネって呼ばないで!」


 憤慨する黒永さんを置いて、鈴野さんが俺にお金を渡してくる。


「これで綾とネネをお願いね」

「えっ!?も、もらえませんよ、お金なんて!」

「大丈夫。私にとってはこんなのはした金だから」

「…師匠、今のはそういう意味じゃないと思うよ」


 お金を押し付けられてしまい、鈴野さんは踵を返して工房に戻っていってしまった。残ったのは俺と黒永さんだけだ。


「…しょうがないなあ。それじゃ行きますか」

「えっと、良いんですか?せっかくの休日なのに、会って数回の男とカラオケとか」

「俺個人としても君とは仲良くしておきたいし、いい機会だ。鍛冶師と冒険者同士、仲良くしようぜ」


 肩を組まれた。


 本人がなぜ男勝りな口調と態度を取っているのかは知らないが、あの、当たってるんですが…俺は少しドギマギしながら、先に行った爺ちゃん達を追いかけたのだった。


 その後、綾さんを誘うと二つ返事でオーケーが帰ってきた。そして陽菜にも声をかけて、みんなでカラオケに行くことになった。


 爺ちゃんは先に帰った。後は若い者同士で、とか言ってたけど、意味絶対違うよねソレ?


 実際のカラオケでは、男が俺と鬼月だけで若干居心地の悪い空間になるのではと思ったが、皆同じ冒険をしたり、それを支えてもらったりした仲間同士。陽菜は暫定別として、他の人は異性だからって気を遣う仲でもあるまいし、とはっちゃけさせてもらった。


 リリアがダントツで歌が上手かった。最初は歌える曲が無くて悩んでいたが、一度聞いた曲は完璧に歌えることに気づいてからはリリアの独壇場だった。


 綾さんも非常に上手だった。なんというか、場慣れしている感じがした。


 黒永さんと陽菜は慣れていないのか結構緊張していたが、十分に楽しんでいたと思う。


 他だと鬼月も何気に上手かったのがびっくりした。殆ど童謡だったけど、可愛かった。


 俺は並程度である。まあ、味があるし、反応も悪くなかったから問題はなかっただろう…と、信じたい。


 そういう訳で、夏休みに入るまでにはなかった、新たに始まった俺の日常は、騒々しく過ぎていったのだった。


 願わくば、今いるメンバーとは出来るだけ長く付き合っていきたいものだ。

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