30:ダンジョン攻略 リザルト

 アスモデウスがいなくなったことで、ダンジョンの空気が一気に変わった。具体的に言うならば魔素払いの結晶を設置した時のような空間になったのだ。


 ボスモンスターを倒したことで、ダンジョンは一時的に機能を止めたのである。またダンジョンボスが再出現するまでの1,2日間、このダンジョンは完全に沈黙する。


 そして、当然ボスモンスターを倒したのだから報酬が現れた。ダンジョンの機能が停止したため追加ボスは現れなかったが、今はありがたい。この状態で連戦は流石にキツイからな。


「はあ、はあ…」


 魔力不足で全身に脱力感を感じつつ、俺は周囲を見渡した。仲間たちの顔が見える。


 要さんは頭から血を流しているが、得意げに微笑んでいた。鬼月はボロボロではあるが、陽菜を無傷で守り通した。


 俺もボロボロだ。片腕が血塗れだし、頭から血を流している。


 完勝とは言い辛いが、ともかく俺達は目的としていたダンジョンボスの討伐に成功し、ダンジョン攻略を成した。まずはその事を喜ばなければ。


「ほら、勝鬨をあげてやりなさいよ」


 要さんがそう言って俺に回復薬を渡してきた。俺はソレを飲み干して、そして刀を持ち上げて声を張り上げた。


「俺達の…勝ちだああああ!」

「…い、いやったああああああ!」

『やった!やったゾー!』


 陽菜が杖を放りだして聞いたことのない様な声をあげ、鬼月も盾を掲げて俺達にノった。


「全く、レベル5でこれって、数年後どうなってんだか。末恐ろしいわね…って、ちょっと!」


 そんな声が聞こえた気がしたが、俺はすぐに忘れて、要さんの手を引っ張って陽菜と鬼月の元へ駆け寄ったのだった。




30:ダンジョン攻略 リザルト




 さて、その後傷が回復するまで休憩しつつ、結果をまとめた。


 まず、俺のレベルが上がった。



――――――――――――――――――

神野圭太

Lv.6

近接:36

遠距離:20

魔法:24

技巧:29+1

敏捷:28

《スキル》

【塞翁が馬】

【刀剣術Lv3】

【風刃】

【強化】

【契約:鬼月Lv5】

――――――――――――――――――



 レベル5からのレベルアップは長い期間が空くため、ステータスの伸びは1レベル上がるごとに多くなるのが普通だ。


 今回の場合、近接がかなり伸びてくれた。魔法も、陽菜ほどではないが伸びてくれたし、技巧も大きく成長した。


 また、刀剣術スキルにも変化があった。


【刀剣術Lv3】

・刀による攻撃に対し若干の威力補正(Lv1)

・技巧に補正(Lv2)

・『第一剣技:一閃』(Lv3)


 と、このように、設定できる剣技の欄が【一閃】で埋まったのだ。


 あの土壇場で、アスモデウスを倒す為だけに生み出してしまった剣技なので汎用性などが気になるところではあるが、威力は折り紙付き。心強い力を新たに得た事を素直に喜ぶとしよう。


 また、あの時初めて使い方を覚えた、【風刃】を強化する技も普通に使えるようになった。本来なら魔法は他の魔法を弾いてしまうのだが、それを混ぜ合わせて別の魔法に仕立てたり、魔法の威力を強化するという高難易度テクニックがある。どうやら俺はソレを使えるようになったらしい。


 威力不足が課題だった風刃の強化ができるようになったのは大きな前進だと思う。今後も練習を続けて完璧にマスターしてみよう。


 さて、ステータスの成長については以上だ。


 次に宝箱の中身について。


 罠は機能しなかった。いや、罠自体はあったのだが、機能を停止し魔素の排出を辞めたこの空間ではうまく機能しなかったようだ。魔方陣が一瞬展開されたが、すぐに消えてしまった。


 中身は当たり前だがこれまでの宝箱の中でも一番豪華だった。


 まず、山のような金銀財宝と魔石、魔石鋼。


 次にデバイスでは鑑定不能の小太刀、それから指輪型が二つ、腕輪型と首輪型のマジックアイテム一つずつ。


 更に、《スキルの宝玉》を二つ手に入れた。以上が宝箱の中身だった。


「わー、凄ーい!もう突っ込む気にもなれなーい!」


 要さんは手に入る確率が1%もないはずの《スキルの宝玉》が二つ出た事で、訳の分からないノリになっていた。


 話し合いの結果、未鑑定のものは鑑定が出てから決めることになり、スキルの宝玉は陽菜と、ダンジョンボスを討った俺が貰えることになった。


 意外だったのは、要さんが辞退したことだ。というか、冒険者としての後進…俺はついでで、主に陽菜に譲ったようにも見える。


「私でいいんですか!?だって、要さんの方がずっと活躍したのに…」

「何言ってんのよ。後輩の初ダンジョン攻略で出たレアドロを、かすめ取れる訳ないでしょ?まあ、売るってんならありがたく買わせてもらうけど。今回の依頼で私も結構稼いだし」

「う、売る…のは…うーん」

「ならとっとと使いなさいな。そっちのがあと腐れないわよ」

「…鬼月君も良いんですか?」

『僕は前回貰ったからネ。順番で言うと次は陽菜の番だヨ』

「…前…回…?」


 要さんの背後に宇宙が見えた気がした。


 俺も若干心苦しさがあったが、今の流れを見た後でうだうだ言っても二番煎じにしかならないだろう。


 という訳で、俺と陽菜は新しくスキルを得た。


 まず俺は【予知】というスキルを得た。


【予知】

・時属性魔法

・第六感を大きく強化し、数秒先の未来を予知する


 …予知?未来予知だって?お、おいおい、マジかよ。


 俺はどうやら未来を予知できるようになったらしい。


 試しに使ってみると、1秒後の未来を見るのに、俺の持っている魔力の半分をごりっと消費した。


 …これ、今は使えないな。今後の俺の魔法の成長に期待。


 陽菜は【マジックオーブ】というスキルを覚えた。


【マジックオーブ】

・無属性特殊魔法

・詠唱を行う際に任意で発動でき、一定間隔でマジックオーブを生成する。マジックオーブは魔法発動時に消費され、その魔法の威力を消費した数分だけ上昇させ、更に敵へと自動追尾し追加攻撃を与える。マジックオーブは一回目に確実に生成され、それ以降は大幅に生成確率が減っていく。


 陽菜に関しては、魔法の威力がさらに底上げされた形だ。恐らく一つ上のレベル帯でも、陽菜程の高火力魔法の持ち主はそうはいないだろう。


 最終的にウェーブが発生してからこっち、発生したウェーブの回数は38回。稼いだお金は現在判明している時点で大体4000万円である。前回の鑑定からこっちの分も合わせると恐らく4300万は越える。


 そして、要さんがいなかった前半の分を抜いて、要さんに支払われる報酬は2500万の半分、つまり1250万+α、ということになりそうだ。


「んふふふふ、諭吉が一枚、二枚、三枚…」


 と、これには要さんもトリップ状態である。さっきまで宇宙猫してたのに。


 さて、という訳でこれでダンジョン攻略は終わった。しかし、完全に終わったという訳ではない。


 というのも、このダンジョンにはまだ謎が二つ残っているのだ。まず中層にある閉ざされた部屋。そして下層にある塔に封印されている謎の存在の事である。


 ちなみに、戦闘中に謎の声に話しかけられたことはパーティー全員にはすでに伝えていた。


「ふーん…塔の中に言葉を喋る何かがねえ。不気味な話じゃない」

「え?でも、弱点を教えてくれたんですよね?いい人なんじゃないんですか?」

『中にいる存在にとって、アスモデウスは排除したい敵だっただろウ。その時点で僕らと謎の存在の利害は一致していたのだから、支援をしてくる理屈は通ってル。でも、アスモデウスが倒れた後もずっと協力的でいるという確信は持てないナ』

「それこそ実際に会ってみないと分からないってことよね」


 要さんはそう言って、俺を見てきた。


「突入するなら付き合うわよ。ただでさえ相場以上のお金貰ってるんだもの。後1,2回ボス戦したっていいわ」

「わ、私も、魔力は十分回復したので大丈夫です!」

『もちろん僕もダ』

「…うーん」


 三人はそう言ってくれるが、流石にボス戦後で連戦は精神的にきついだろう。


「そもそも、封印されてるんだから、突入できるかどうかも…」


 俺は塔に近づいて、扉に手を付けた。すると、扉を覆っていた強大な魔力の壁が、一瞬で消え去ったのが分かった。


 つまり封印が解けたのだ。


(…明らかに誘われてるな)


 俺は頭の中で、謎の声について思い返した。あの時はノイズが酷くて、正直男か女かも分からなかったが…。


『少年が命を懸けて戦っているというのに、私だけ命を懸けないという訳にはいきませんね』


 セリフを思い出す限り、悪い奴という訳ではなさそうなんだよな。


「…中の様子だけでも見てみるとするか」


 という訳で、塔の中の探索を始めることにしたのだった。

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