4:ダンジョン探索二日目 リザルト

 大部屋は行き止まりとなっていて、家が建ちそうなほど広い。


 敵はゴブリンライダーが3体、武器持ちゴブリンが2体。


 さらに、中央にはイノシシもゴブリンも一回り大きい、明らかな強化種であるゴブリンライダーが鎮座していた。


 その中央のデカいゴブリン…ゴブリンリーダーは、ボロボロではあるが、金属製の槍を持っていて、それで地面を指して何やら他のゴブリンに指示をしているようだった。


(…勝てるか、こんなの!)


 俺は急いで回れ右してその場から立ち去った。音を出さないように細心の注意を払う。


「…はあ、あれはちょっと厳しいな」


 ソロの俺には荷が重い。特にあのゴブリンリーダーの存在だ。アイツだけなんかムキムキだし目にはちゃんと理性が備わってるしでぶっちゃけ勝てそうにない。


 しかし、ダンジョンを管理する為に冒険者になった手前、ダンジョンの入口に比較的近い場所であるここであんな脅威を見つけてしまっては放置する訳にもいかない。


 つまり、奴らは倒さなければならない。その為には。


(レベル上げ、だな。全く、ライトゲーマーの血が騒ぐぜ!)


 今後のとりあえずの目標は決まった。あのゴブリンリーダーの討伐だ。


 もと来た道を戻って、分かれ道までたどり着いた。


「左の道も見てみるか」


 一応左の道も見てみる。


 左の道を進むと、これまで通りに部屋があったが何やら趣が違う。一部に遺跡の破片の様なものが見えるし、出口も複数存在した。


 そして、その遺跡をごそごそと掘り返しているのは、武器持ちゴブリン。数は一体。だが今回はこれまでとは違い、金属の武器と鎧を身に着けていた。


 種族は変わらないものの、確実に下に進むほどに強くなっていっている。


 一体だけなら挑戦してみるかと思い、俺は剣を抜いてそっとソイツに近づいた。


 そして刀を振りあげて斬り下ろす。


『…ゲ!?』


 が、その寸前、俺に気付いた剣持ちゴブリンが剣を抜いて、俺の刀を受け止めていた。


 火花と共に一歩下がり、もう一度切り込む。しかし奴は当たり前のように斬撃を避けて、立ち上がって体勢を立て直してしまった。


『ギギギ…』


 剣を下段に構えて俺を睨みつけたゴブリンは、そのまま俺に切りかかってきた。斬撃は的確に俺の急所を狙って放たれた。俺はソレを身体を捻って避けたり、足を下げたりして避け、刃に刃を打ち合わせて反らす。


『ギハ…!』

「っ!?」


 火花が散る。次の瞬間、奴はフェイントを仕掛けてきた。上段と思わせて横払いに一閃。まんまと騙された俺は刀の峰で防いで何とか直撃を避けるものの、わき腹を浅くだが切られてしまった。


(いってええええ…!くそっ、やられた…!)


 涙目になりつつ、斬撃の波を躱し何とか距離を取る。初めての切り傷はこれまでにない痛みを俺に伝えてくる。


 冒険者はモンスターの攻撃を受けることも日常茶飯事だ。そんな事知ってるし、覚悟はしていたが実際に斬られるとなると痛みが想像以上だ。それに怯んでしまってもいる。初めてのダメージに身体が竦んでいるのだ。


 でも、そんなだと多分俺はこいつに殺されてしまう。咄嗟にそう判断して焦った俺は傷口を手のひらでパンッ!と叩いて思いっきり抑えた。激痛が走るも、その痛みが俺の意識を現実へと戻す。


(痛みがなんだ、こなくそ!)


 冒険者になると決めた時に、覚悟はしていたはずだ。研修ビデオでも何度も何度も見せられただろう。冒険者は怪我どころか死ぬこともある。常識だ。


『ギギャギャギャギャ!』

「ふーっ…」


 切りかかってくる。奴は俺よりも剣が上手い。だからこそ俺は不意打ちで一発逆転を狙う必要がある。


 俺は刀で攻撃を弾く。機会をうかがう。そして攻撃の隙間を縫って身体を捻り、思いっきり奴の顔面につま先をめり込ませた。


『グェ!?』


 完全に意識外からの攻撃だったのだろう。ゴブリンは口から魔素を吐き出しながらもんどりうって地面を転がった。


 俺はというと蹴った体勢から地面に降り立つと、思いっきり地面を蹴って跳躍、刀を振るってソイツの首を切り落とした。


 魔石を残して消えていく剣持ちゴブリン。俺はその場に座り込んだ。


「いてて…畜生、無傷歴も二日目にして終わりか…」


 俺はリュックから医療キットを取り出して、回復薬を傷口にかけた。そして適当に包帯を巻く。


 これらの医療キットは冒険者保険に加入していると毎月貰える。即効性の回復薬もついている為入っておいてよかったと今心底かみしめている所だ。


「にしても強かったな…あのフェイント、確か動きは…」


 頭の中で今の動きをトレースする。次はちゃんと防げるかどうか分からないし、自衛のためにも一度痛い目に遭ったものはちゃんと対策をしておかなければならない。


 そこで俺はふと考える。確かモンスターの再出現時間は平均して二時間に一回程度。


 ここに出てくるモンスターが剣持ちゴブリンがデフォなら、二時間に一回は今のゴブリンと再戦することができるという訳だ。


「よし、あの剣持ちゴブリンはこれから先生と呼ぶことにしよう」


 そして、これよりダンジョン式シャトルランを開催する!




4:ダンジョン探索二日目、リザルト




 結局、時計の針が15時を指すまでに計3回ダンジョンを周回し、宝箱を追加で四つ手に入れる事に成功した。


 俺はダンジョンの最初の部屋で一休みしつつ、今日の攻略結果をまとめていた。


 ちなみに宝箱は確定で手に入る訳ではなく、大体二分の一くらいの感覚で手に入るようだ。中身もピンキリで、魔石だけ入ってることもあれば、何やら謎なポーションが入っていたりと様々だ。


 リザルトで言うと、まず俺のステータスについて。



――――――――――――――――――

神野圭太

Lv.3

近接:18

遠距離:9

魔法:8

技巧:14

敏捷:10

《スキル》

【塞翁が馬】

【刀剣術Lv1】

――――――――――――――――――



 と、このようにレベルが一つ上がって、新たなスキル【刀剣術Lv1】も手に入れることができた。効果については以下の通り。


【刀剣術】

・刀による攻撃に対し若干の威力補正(Lv1)


 というもの。日本人に多く発現するスキルだ。現時点では効果は一つしかないが、レベルが上がる事で効果がどんどん増えていくタイプのスキルだ。育てれば必ず戦力になるだろう。


 ちなみに、遠距離が若干増えているのは、戦う際に牽制として小石を投げるようにして見たのだが、その所為だろう。


 それから、次は入手できたアイテムについてだ。気になるものだけピックアップする。


《蛮族の杖》

・レア度1

・魔法の媒体となる。

・微かに魔力がこもっている。魔法によるダメージに混乱を付与


《下級回復薬》×2

・レア度2

・傷をゆっくりと癒し、中程度の毒を中和する。


《中質の魔石鋼》×2

・レア度1

・武器素材となる


 上のものは、手に入れたアイテムの中で売値が高いアイテム達だ。普通こういったアイテムはこんなに沢山一度に手に入る事は無いはずなのだが、スキルの効果が凄まじい。普通のダンジョン攻略と比べて、どれだけの困難が降りかかっているのやら。比べようにも比較要素が俺にはまだないので実感が沸かない。


 ただ強化種が当たり前のように出てきたり、徒党を組んで襲ってきたり、宝箱に確実に即死トラップが仕込まれているのは異常だとは思う。


 また、《蛮族長のナイフ》がもう一本出てしまったのでこちらは売ろうと思う。儲けた儲けた。


 そして、更にもう一つ、最も気になるアイテムがある。それがこれ。


《スキルの宝玉》

・レア度5

・使用すると、スキルを入手する


 そう、使用するとスキルを手に入れるレアアイテムを手に入れる事ができたのだ。これには俺も驚きである。見た目はビー玉程の白い水晶玉で、調べてみるまでこんな貴重なアイテムだとは思っても見なかったのだから驚きだ。


 ちなみに売れば家を建てれるくらいの価値がある。ヤバすぎないか、何でこんなものがここで手に入るんだよ。


 まあ、《スキルの宝玉》は確率は1%を切るものの全てのダンジョンで出てくるため、ここで出てもおかしくはないのだが。


 売るかどうか迷ったが、今の俺にそんなにお金があっても使い道がない。爺ちゃんと婆ちゃんに渡しても逆に困るだろうし、武器や防具を買おうにも身の程に合わない装備は成長を阻害する気がする。


 スキルは一度手に入れば、その後ずっと俺にメリットを与えてくれるはずだ。なら使う以外の道はない。


 使い方は潰せばいいらしい。堅そうだが、潰れるのか?疑問に思いながら手に取って、指に力を入れると割と簡単にぱりっ、という音と共に砕け散ってしまった。


 そして通知音。無事スキルを覚える事に成功したらしい。



――――――――――――――――――

神野圭太

Lv.3

近接:18

遠距離:9

魔法:8

技巧:14

敏捷:10

《スキル》

【塞翁が馬】

【刀剣術Lv1】

【風刃】

――――――――――――――――――



 覚えたのは【風刃】というスキルだった。


【風刃】

・風属性攻撃魔法

・かまいたちを生み出し、瞬時に放つ

・武器に風の刃を付与する


 魔法スキルか。それも、攻撃魔法として使えるだけでなく武器に風属性を付与することもできるらしい。


 試しに使ってみる。まずはかまいたちの方だ。念じてみると風の刃が生成され、瞬時に狙った通りの所に不可視の斬撃を生んだ。岩の壁に使ってみると、びしっ、と浅いながらも真っすぐな切り傷を刻むことができた。威力は軽いものの、取り回しが効きやすい。そう感じた。


 次に刀に纏わせてみる。こっちは単純に切れ味が良くなるらしい。さらに、振ってみると風の刃を飛ばすことができた。が、こちらも便利だが、かまいたちの方と比べ消耗は激しいらしい。あっという間に魔力不足に陥ってしまった。身体がだるくなるのだ。


 常時付与しておくというよりも、要所要所で使う切り札的な使い方が良いのだろうか。少なくとも魔法適性が上がるまでは付与については取り回しに注意した方がいいだろう。


 さて、最後は食材アイテムだ。と言っても一種類だけで、《ゴブイノシシのジビエ》が複数枚手に入った。とりあえずこれは婆ちゃんに渡してあるので、今日の夕食に出てくるだろう。どんなものか楽しみだ。


「ふう、流石に今日はこれくらいにしておこう。身体中痛いしな…」


 さて、そういう訳で最後はお楽しみタイム。ちょっと休憩挟んで、街の方に行ってみようと思う。目的は当然、手に入れたアイテムをお金に換金する為だ。


 どれくらいになるのか、今から楽しみである。


 そういう訳で街のショッピングモールまでやってきた…のだが、鑑定所の中でもCMとかでよく見る有名どころは現在冒険者でごった返していた。今から並ぶのでは30分以上は待たなければならない。


 他に鑑定所は無いかと探して歩いて回っていると、小さなところに一つだけぽつんとあった。見た目で言うと自動ドアもあって小奇麗なのだが、いかんせん幅が小さい。小さめのコインランドリーレベルだ。


 名前は鈴野鑑定所だ。


 冒険者もあまり並んでおらず、待機時間は少なそう。俺はそこに行ってみることにした。


「いらっしゃいませ。鈴野鑑定所へようこそ。本日はお持ち込みでしょうか?」


 順番になって、カウンターに進むと狐のような細い目の店主がにこやかにそう聞いてきた。


「はい、買取をお願いしたいのですが」

「畏まりました。ではこちらの台に買取をしたいアイテムをお乗せください。こちらで確認いたしますので、その間こちらの機械に冒険者デバイスを読み込ませてお待ちください」

「分かりました」


 差し出された銀色のトレイに、今回売るアイテムを乗せた。ナイフに杖、それから回復薬を一つだけ、鉱石を二つ、それから魔石を全部。


 乗せたらコンビニでよく見るような電子マネー用の読み取り機に近いモノがあるので、それにデバイスを近づけて読み取らせる。


 鑑定は割とすぐに終わった。まあそれも当然で、今はAIがやってくれるし、AIが無くても鑑定所で働いている人は皆スキルの【鑑定】を持った人間ばかりだと聞く。一目でアイテムの詳細が分かるのだから、すぐに終わって当然だろう。


「こちら、《蛮族長のナイフ》、《蛮族の杖》、《下級回復薬》が一つ、《中質の魔石鋼》が二つ、それから、魔石が31個ですね。全部で12万5千円で買い取らせていただきますが、いかがでしょうか」

「は、はい、ソレでお願いします!」


 12万。一日で10万以上稼いじゃったよ…お小遣いどころの話じゃねえよもう。


 ちなみに魔石だけだと1万円ちょっとだった。宝箱から出てくる大きめの魔石も含めてのこの値段なので、安定して稼げるとは言えやはり冒険者にとって稼ぎになるのは宝箱で一発当てる事にあるのだろう。


 そして自戒になるが、ここで勘違いしてはいけないのは、俺はスキルがあるからここまで稼げるのだ。普通の冒険者は初心者だと月に10万稼げれば上等、みたいな世界なのだ。つまり俺のこれはかなりの例外だという事。


 だけど、やっぱりそれはそれとして嬉しい。顔が緩むのを止められない。


「お金は現金でお支払いしましょうか?それとも振込で?」

「ふ、振込でお願いします」

「畏まりました」


 店員が頷き、カウンターで操作し始めた。


 その間俺は店内を見まわしてみたのだが、カウンターの壁に貼られているポスターに目が行き、その内容に興味をひかれた。


「あの…この出張買取って、真宵手村の方まで来れたりしますか?」


 真宵手村とは、爺ちゃんと婆ちゃんの家がある村の事だ。


「ああ、出張買取ですね。ええ、真宵手村までならいけますが…その辺りにダンジョンは無かったような」

「家で保管してますので」

「なるほど。もちろん大丈夫ですよ。お電話を戴ければ土日平日いつでも対応可能です。それから、こちらのQRコードからアプリを入れて、登録していただければ、電話をせずともアプリで予約することも可能ですが、いかがいたしますか?」

「あ、じゃあ入れてみます」

「ありがとうございます。これからも鈴野鑑定所をどうぞよろしくお願いいたします」


 その後、つつがなく取引は終わり、俺は鑑定所を出た。


(それにしても10万円か…ちょっとした小遣い稼ぎになればいい程度に思ってたのに、これは楽しくなってきたな)


 何に使おうか。そう思った時、一番最初に脳裏によぎったのは装備についてだ。


(もう少し貯めればもっといい武器も防具も手に入るよな)


 装備のランクはそのまま冒険者の生死に直結する為、出来るなら早く更新していきたい。


 だが今だけは婆ちゃんの作る夕飯の方が大事か。イノシシの肉なんて初めて食べるから、ぶっちゃけかなり楽しみなのだ。


 俺はバスに乗り、家路を急いだのだった。


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