ゴダード
アンチテーゼ
第1話 「宇宙を情熱の引力で引き合わせた研究者」
[ロシア]
ツィオルコフスキーは数学の教師として働いている傍ら、研究者としての側面もあった。
ツィオルコフスキー「分かったぞ…」
ツィオルコフスキーはついに、『ロケットによる宇宙空間の研究』という論文を発表するに至った。しかし、当時のロシアでこの卓越した発想に着いてこられる人間はほとんど存在しなかった。
[アメリカ]
ゴダード「なるほど、ツィオルコフスキーの論文によると固体燃料は話にならないのか。液体燃料、か。よし作るぞ!」
研究に本腰を入れようと言う時に、戦争が始まってしまう。
戦争の火花が散ったのは1914~1918年まで続いた第一次世界大戦である。快進撃を続けるドイツだったが、1917年のアメリカ参戦によって敗北の汚泥を舐めることとなる。
皮肉なことに戦争により科学は発展してしまう。
そこには打ち出されるロケット弾があった。
将校「見事ですねゴダードさん、これなら実践にも使えそうだ」
ロケット弾は遠方の的で爆破する。
ゴダード「ダメですよ。こんなのいくら試しても意味が無い」
将校「え?」
ゴダード「火薬燃料ではダメです。宇宙空間で火薬は使えないのです。そう、液体燃料でなくてはならない…」
ゴダードはマサチューセッツ州のオーバーンにやってきた。
助手「ここが新しい実験場ですか?」
ゴダード「あぁ…」
助手「こんなのただの荒れ地じゃないですか」
ゴダード「あぁ…」
助手「しかし戦争が終わったということは研究費も貰えないので、僕らもお手上げですね」
ゴダード「あぁ…」
話しかけてくる助手を鬱陶しく思いながらもゴダードは実験装置を組み立てていく。
助手「液体燃料はやはり酸素と水素を使うんですよね?」
ゴダード「確かにツィオルコフスキーの理論で言えばそれが理想だが、液体水素は取り扱いがとても難しいんだ」
助手「それじゃどうするんですか?」
ゴダード「その代わりガソリンやエーテルを試そうと思っている」
すると勢いよく炎が吹き出す。
助手「…100…120…140…150㎏を越えました!」
頷くゴダード。
ツィオルコフスキーが優れた理論化だとすると、ゴダードは優れた実験家であった。ゴダードは困難を乗り越えて、地道に1歩1歩、目的に近づいて行った。
そして遂にその時がやってきた…。
一面が雪原で覆われた1926年3月16日。小さなロケットが組み立てられる。
ゴダードと助手は最後の点検をしていた。
助手「いよいよ初打ち上げですね」
ゴダード「うん」
気持ちが昂る。ついにこの時が来た。
そこには数人の野次馬たちが現れる。
野次「ゴダードさんの論文、あぁ、『超高空に到着する方法』とか言うやつですよね?」
ゴダード「はい」
野次「あの論文によると、598.2㎏の重さを持つロケットを作れば、0.9㎏のものを月へ送ることができると書いてありましたが?」
ゴダード「はい、計算ではそうなります」
野次「あはははははは、えっ、マジで言ってんの?この小さなロケットがその598.2kgって例のやつなの?」
ゴダード「いや、あれは理論的にはという事でまだ研究段階と言いますか…」
助手「おい、いい加減にしろ!」
ゴダード「落ち着きなさい」
助手「し、しかし…」
ゴダード「これは宇宙への第一歩です。しかし、1歩がなければなんの飛躍もありませんから」
野次「ほう、その1歩とやらを拝見させてもらおうかね」
助手「点火します」
ゴダード「やってくれ」
緊張している。導火線を火が走る。見ている記者たち。点火!大きな音を立ててロケット、飛び上がる。見るゴダード。助手。
しかし、ロケットはすぐに落ちてしまう。
ゴダード「やった!」
助手「成功ですね!」
わずか2.5秒。距離56m。最高到達高度26m。しかしそれはまぎれもなく、人類の歴史上、記念すべき宇宙への第一歩であった。
しかし野次たちは笑い転げていた。
野次「ぎゃはははははははは、なんだよあれ、やっぱり宇宙開発なんて現実的じゃねぇんだよ」
その偉業に気づく者は誰もいなかった。この実験はスミソニアン研究所に報告されたが、印刷されて世に知れたのは、10年もあとのことであった。
野次「まぁ不可能なんですよ」
野次「大体宇宙ロケットなんて本気で考えてるのか…」
無遠慮な話し声を響かせる野次馬達、しかしゴダードは気にもせずまっすぐ前を見ていた。
しかし助手は心配そうにゴダードの顔を見る。
ゴダード「こんなの気にもならないね」
ゴダードは人類の進歩を見つめた。
ゴダード アンチテーゼ @k2g35
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