「世にも奇妙な短編集」
お布団
少女と老人
「あれ?ここは?」
「起きたか、ここはダンジョン近くの森の中じゃ」
「あなたは……」
「わしはルナじゃ。お主の名前は?」
「私は……あれ?名前がない!」
「そうなのか!それならわしがつけてやろう。お主の名前はレイラだ」
「えっ!そんな簡単に決めちゃっていいんですか?」
「大丈夫じゃよ。本名は別にあっても、この世界では名前の呼び方に決まりはない」
「そうなんですか……。ところで、私はどうしてここに?」
「ダンジョンで1人、お主が倒れているところをわしが偶然通りがかって、
ここまで運んだんじゃ。それで、お主はなぜあそこで倒れていたんじゃ?」
「それがよくわからないんですよね。私、気がついたら森の中にいたんです」
「そうなのか!?それじゃあ、お主は何も覚えていないのか?」
「はい・・・」
「なるほどなぁ。まぁとりあえずわしの家に行こう。そこでゆっくり話をするとしよう」
「わかりました」
レイラは不安そうな面持ちで ルナの後をついていく。
14歳くらいの少女のような顔だちをしたレイラは、ボロボロの布きれのような服装をしており、布の隙間から見える地肌には擦り傷のようなものが多数見える。
クリッとした大きな目、肩くらいまで伸びた黒髪、身長が140センチくらいの幼い少女と年老いた老人が並んで歩く姿は、祖父と孫といった感じだと捉えられても不思議ではない。
突如として、二人の頬を冷たい風が撫でた。
「寒い・・・」
レイラが呟く。
「もうすこしでわしの家につく。 それまでのしんぼうじゃ」
「はい・・・」
ルナの声にレイラは小さく頷いた。
「なんだか・・・血のにおいがする・・・」
レイラの言葉が耳に入ったのか、老人は 自分の右腕を羽織っていたマントで隠す。 老人の右腕には血がべったりとこびりついており、
老人はレイラにさとられないよう血のついた短剣をマントの内ポケットに隠した。
レイラはそのことに気がついていない様子で老人の後をついていく。
それからしばらく歩き、ルナが足を止めた。
「ここじゃ。、ここがわしの家じゃ」
「?」
レイラは言葉にならないとばかりに、口をぽかーんと開けた。
二人の目の前には家はおろか建物すらない。
空き地という表現がただしいだろうか。
ただ、草が生い茂った何もない場所、 レイラはそう思った。
「どうしたんじゃ?」
「あ・・・。いえ・・・あの・・」
「なにもない、そう思ったじゃろ?」
「は、はい。あの・・・ここがおじいさんの家・・・ですか?」
戸惑いを隠せないレイラとは対照的に年老いたルナは落ち着いた様子で答える。
「そうじゃよ」
ふと、レイラが視線を落とし、老人の足元を見た。
「!・・・これは」
老人の足元、そこには錆び付いた鉄のふたがあった。
頑丈で大きくずっしりと重そうなそのふたを見て、レイラが尋ねる。
「地下・・・地下に家があるんですか?」
「そうじゃ。身の安全のために地下に家を作ったんじゃよ」
「・・・・そうなんですね」
身の安全?おじいさんは誰かに命を狙われているのだろうか?
近くに危ない人がいいるから 私を助けてくれたのだろうか?
レイラは考えを巡らせ頭を抱える。
「大丈夫か?」 ルナがレイラの肩をぽんとたたいた。
「はっ・・・はい。大丈夫です」
レイラは心配をかけまいと気丈にふるまう。
「よし、じゃあ、家の中に入ろう。 温かいスープでも飲んで体を休めんとな」
「はい」
ルナは老人のような風貌しながらも、軽々と鉄の蓋を持ち上げてみせた。
「すっ、凄い・・・」
レイラが驚く。
「毎日、出入りしとるからのぉ、 これくらい朝飯まえじゃ」
老人の得意気な顔にレイラがふふふと笑った。
マンホールのような鉄のふたを開けた先は地下へとつながっており、
しっかりとした鉄のはしごがかけられている。
「先に下に降りてくれ。 ワシはここを閉めなきゃならん」
「わかりました。ではお先に・・・」
レイラは冷たい鉄のはしごにしがみつきながら、一歩、また一歩と 足を動かし、地下へと降りていく。
地下は思っていたよりも深く、 ここから落ちたら骨折してしまうのではないかとレイラは思った。
しかし、落ちたら死んでしまうほどの高さではなかった為か、レイラはいとも簡単にはしごを降りてみせた。
「おじいさん!ここで待っていればいいですか!?」
少し大きめな声でレイラがルナに尋ねた。
反響した声はすぐに老人の耳に入っていき、ルナがその呼びかけに答える。
「ああ!そこで待っていてくれ!」
レイラはその声に安堵するも 、不安を拭いきれない様子で辺りを見回す。
「・・・暗い・・・」
地下は薄暗く、ぎりぎり人が一人通れる道以外は何も見えない。
ルナの家はもう少し奥にあるのだと、レイラは思った。
ガコン!
重たい鉄のふたが閉められると同時に、外の光が遮断される。
「わっ!真っ暗・・・!」
レイラが思わず叫ぶ。
「おじいさん!どこですか? 真っ暗で何も見えない!」
レイラは右、左と視線を移しては、わずかな光を探し続ける。
自分がいまどこにいるのか、 ルナはどこなのか、 足を前へ進めていくうちに、
レイラは、はしごの場所さえわからなくなってしまっていた。
「おじいさん!!!」
レイラが大声で叫ぶ。
「・・・だめ、何も聞こえない・・・」
辺りはシーンと静まりかえっている。
地下の空気が薄いからなのだろう、 レイラの呼吸は荒く、
ドクドクドクと音をたてながら心拍数も上がっていく。
「・・・おじい・・さん」
レイラはとぎれとぎれの声で、老人に助けを求める。
しかし、その声は誰にも聞かれることなく、やがて深い森の中へと 消えていった。 重い鉄のふたを閉め終えた老人は 安堵の表情をうかべていた。
「すまんな・・・、わしはまだ死ぬわけにはいかんから、
そこでじっとしておいてくれ・・・」
片手で腰をさすりながら、ルナは数時間前の事を思い返す。
薄暗い森の中、ルナという名の老人は、血に飢えた一人の少女と戦っていた。
「うっ!!」
少女の鋭い短剣がルナの右腕に食い込み、傷口からじわじわと血が流れ出てくる。 ルナは歯を食い縛り、痛みにたえながら牙をむいた少女の首に一撃をあたえる。
その衝撃にたえきれなかったのか、少女は意識を失ってしまった。
バタン。
老人と少女、二人は向かい合うようにして、その場に倒れ込む。
しばらく経った後、 先に目を覚ましたのは老人であった。
「はっ!、はあ、はあ・・・ 、こやつが目を覚ます前に何とかしないと」
老人が息を切らしながら考えていたその時、少女が目を覚ます。
少女は辺りをみまわしながら、不安そうに老人の方を見ている。
少女の目には邪気がなく、老人と戦っていた人物とは 別人のようになっていた。
その様子を目の当たりにした老人は 開いた口がふさがらない。
もしかしたら、記憶が・・・。
自分の攻撃で少女は記憶喪失になっている。
事実がどうであれ、 老人はそうであるよう願った。
長い沈黙がながれた後、 先に口を開いたのは名前のない少女だった。
「あれ?ここは?」
______!! 老人が ハッと我に返った、その時。
がこん ずずず、ずずず、ずずず、、、、、。
不気味な音と共に 40キロ以上あるであろう鉄の蓋が下から持ち上げられ、
少しずつ横へとずれ動いていく。
老人が目を見開き驚く中、地下へと続く穴からゆっくりと少女が顔を出し笑った。
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