第8話:ひきこもり、社長と活動方針を決める。

午後5時半

篝家 紫苑の私室


プルルルル、プルルルル


ベッドに寝転がり、ゴロゴロしていた紫苑に一本の着信が入ってきた。

涼葉からである。


「ん、社長...?」


紫苑はスマホを手に取り電話に出る。


「もしもし、社長。どうかしましたか?」


「おぉ...前の通話からは考えられない程普通だね。紫苑君。」


「まぁ...はい。一度話した相手だし同期の皆さんと会話する練習をしたので。」


紫苑は初めて会うまたは会話をする人は警戒対象であり、コミュ障が発動して

ろくに話せなくなってしまう。しかし、一度話して無害だった相手に関しては

敬語限定でさらに警戒心強めだが、普通に話すことができる。

逆に少しでも危険を感じたらその人と話すことはもうないだろう。


「そうかそうか。君たちの仲が良くて良かったよ。それで今日電話した理由だが。」


「な...なんですか?」


「特に意味はない☆」


「切っていいですか?」


「まぁまぁ待て待て、今のは冗談だ。ちゃんと理由がある。」


「それで?なんですか?」


「君がこれからどう活動するかだ。」


「普通にvtuberをやるってことじゃだめなんですか?」


紫苑はスマホ越しに首を傾げた。


「それでは君の才能が存分に発揮されないんだよ。」


「どういうことですか?」


「君にはvtuber兼イラストレーターとして活動してほしいんだ。」


「天音としてってことですか?」


「いいや、渚としてだ。」


紫苑は意味が分からなかった。なぜなら天音の方が知名度もあり、

人気もあるからだ。


「なぜか、聞かせてもらってもいいですか?」


「単純な話、今の君は渚で天音じゃないだろう?」


「......あ...」


「たしかに昔は天音だった。だけど今は違う。銀鏡 渚だ、そうじゃないか?」


「それは...そうです...」


「それにそっちの方がvtuberとしてネタにできるしね...」


「それが本音ですよね!?」


「君に後輩ができたら一人は君にママになってもらうからね?」


「え、立ち絵提供しないといけないんですか?」


「ちゃんとお金は払うよ?」


「そういう事じゃないんですよぉ...」


「まぁいいじゃないか、それともう一つ、これは君にとって

 とてもつらいことなんだが...」


「なんですか...?」


「これに関しては時間がかかってもいい...」


「だからなんですか?」



「......え?」


紫苑は、硬直した。それはそうだろう。普通の人なら当たり前にできる外に出る

という行為。だがそれは、紫苑にとってあまりにも困難なことである。

紫苑は外に出ようとするとトラウマが蘇り、どうしても足がすくんでしまう。

震えが止まらなくなり、吐き気がする。

それほど紫苑にとって外へ出るということは過酷だった。


「...それは...無理、ですよ...」


「どうしてかな?」


「外に出ようとするとトラウマがフラッシュバックするんです...吐き気がして、

 眩暈で視界が不安定になるんです...」


「それは病気ではなく、心の問題なんだろう?」


「そ、そうです...」


「心の支えを見つけてごらん?」


「心の支え...ですか?」


「そうだ、家族とは違う人に、例えば同期とかだね。

 この人といれば安らぐことできる。この人がいれば怖くない。

 そんな人を見つけてほしいんだ。それが、私の思う心の支え。」


「わかり...ました。でも、どうすれば?」


「クロノスタシスのメンバーならコラボをしたり、裏で話したり、

 君の家でオフコラボをしたり、とにかく人と接することだ。

 作るものじゃない、いつのまにかあるんだよ。」


「なる...ほど。わかりました。そういう人見つけます。」


「あぁ、その人がいればきっと外にだって出ることができるはずだ。」


「手始めに、何をすればいいですかね?」


「うーん、やっぱりまずは同期とのコラボじゃないかな?」


「ぐ...確かに。まだ、人と話すの少し怖いけど...頑張ります...」


「ほぅ...私のことも怖いのかい?」


「正直ちょっと怖いです。」


「えぇ!?」


「ははっ冗談ですよ!ありがとうございます。」


「ああ、こちらとしてもよろしく頼むよ。君の成長によって、

 事務所の方針が決まるのだから。」


「本当に、ありがとうございます。」


「...じゃあ、そろそろ切るよ。またね。」


「...はい、それでは、また。」


そこで、通話は切れた。


「心の支え...か。見つけるためにも、vtuber頑張らないとな...」


紫苑はそのままベッドにダイブ...せず、椅子に座った。


「善は急げ...だよね。配信のサムネ作らないと...

 早速イラスト配信でもしようかな...」


そのまま、イラストアプリを立ち上げ

実はそれも紫苑の才能なのだが、紫苑がそれを知る由もなかった。


「あ、そうだ告知しないと。」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

銀鏡 渚.Shiromi nagisa


今日の21時からイラストアプリ《お絵描きの里》を使って、

イラスト配信します!ぜひ見に来てね!


#鏡花水月

#クロノスタシス

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「よし、配信頑張ろう!」


そう決意を決め、紫苑は自分の世界に入っていった。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。


最後までご覧いただきありがとうございました。

誤字脱字、日本語のおかしなところがあれば、

ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします。

ブックマークや評価をつけてくださると嬉しいです!

それではまた次の話でお会いしましょう。



 

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