【10000PV感謝!】いじめられひきこもりになった男の娘、vtuberになる

燕の子安貝

第1話:プロローグ

カタカタカタ、カタッカタカタ...


午前7時

無機質なタイピング音が薄暗い部屋に響き渡る。

部屋の中で光源となっているものは朝日などではなく、三面鏡のように並べられた

3つのモニターであった。

突如そのタイピング音はなくなり、代わりに少女の...

否少女のような少年の声が聞こえた。


「ふぅ...これでやっと10連勝...か」


少年――篝 紫苑かがり しおんは今ネットで話題になっており、

ときにはバラエティ番組でもとりあげられるほどとなった

大人気ゲーム《サバイバーズギルト》をプレイしていた。

サバイバーズギルトは100人で行われるバトルロイヤルゲームで

銃などはもちろん、近接格闘や魔法など幅広い武器や技があり、

バトロワゲーと言ったらコレとなっている作品だった。


「...もう疲れたし、寝よ...」


彼は高校生二年生...だが、学校へは行かない。

小学校四年生の後半から今まで自宅から一歩も

家から出たことがない。彼は容姿や声、

それに名前も相まって思春期の子供達からの

いじめの対象となっていたのだ。

故に紫苑は家族以外に対して心を閉ざした。

紫苑にとってはこれが自衛の手段だったのだ。


コンコンコン


部屋の扉から、ノック音が聞こえてきた。

紫苑の姉、篝 沙結《かがり さゆ》だ。


「ねぇ、話があるんだけど。」


「学校には行かない...いや、行けないよ。」


紫苑がなぜ高校受験を合格することができたか。

紫苑は元々頭が良く、

中学校で習う範囲は自習で補っていたからである。

高校の授業もまた然り。

だが、沙結は学校へ行かないと学べないこと、

手に入らないものがあると知っていた。

なので紫苑に学校へ行くことを促していたのである。

事実、紫苑はコミュ障、人見知りで、これといった友人もいない。


「学校のことじゃないよ、とりあえずリビングに来て?」


「...わかった、少し待ってて。」


「うん。」


足音を確認すると、紫苑はベッドから起き上がり、

ちょうど充電が完了したであろうスマホを

手に持って、部屋を出て、階段を下りる。

リビングの扉に手をかけて紫苑は思っていたことを口にする。


「沙結姉ぇの話ってなんだろう?」


扉を開けテーブルの方を見ると、ソファー座っている沙結がいた。

紫苑はその反対側にある椅子に座る。ちなみに、両親は仕事でいない。


「それで、話って何?」


「...やっぱり紫苑っていい声してるよねー」


「...?どういうこと?」


「紫苑はvtuberって知ってる?」


沙結にそう聞かれると、紫苑は考える素振りを見せてから、

言葉を口にする。


「確か、自分の動きや声をイラストに反映させてまるでそのキャラクターが

 喋っているかのように見せてる人たちのことだよね?」


「まあ合ってるけど言い方がさぁ...」


「それで?そのvtuberが何なの?」


紫苑が首を傾げると沙結は自分のスマホを紫苑に見せる。

そこには、銀色の長い髪と青い目が特徴的な美少女の姿があった。


「銀鏡 夢月しろみ むつき...だっけ?最近vtuberで初めてMyTubeの登録者が

 500万人超えたっていう。」


「そうそう、実はそれ私なんだよね。」


「え?」


紫苑は驚いた表情を見せる。当然だろう、

実は姉が大人気vtuberだったのだから。

驚くのも無理はない。


「ごめん、ちょっと耳が腐ってたみたいだから取り替えたよ。

 もう一回言ってくれる?」


紫苑 は 現実逃避 を した


「銀鏡 夢月って私なんだー」


しかし 効果 は なかった

宇宙の 法則が 乱れる!


「聞き間違いじゃなかった...それで、沙結姉ぇは何が言いたいの?」


「おお、流石紫苑話がはやい。それで、話っていうのは...

 紫苑に私の所属しているvtuber事務所クロノスタシスで

 vtuberやって欲しいんだ。」




「僕がvtuberを?無理だよ、無理無理。こんなコミュ障陰キャには

 到底できないよ。」


そう紫苑が言うと、沙結は何言ってんだこいつといったような顔をして


「私が知ってる中で一番、良い声で歌も上手いのは紫苑だよ。」


実際、紫苑は歌が上手い。カラオケのゲームをプレイすれば

平均95点という高い点数を叩き出し、ボカロ曲にいたっては

98点よりも低い点数を取ったことがない。

だがそれでも、紫苑には自信がなかった。

それを誇示することはなかった。

なんなら誰でもこれくらいの点数が取れるゲームだと思っていた。


「でも...」


「いいからいいから、とりあえず面接受けてみよ?」


こうなった沙結はもう融通が利かないことを知っていた。

紫苑は諦めたように嘆息して


「わかった。受けるだけ受けるよ。受からなくても責任取らないからね?」


「大丈夫、紫苑なら絶対受かるから。」


そういうと沙結はニヤリと口角を上げた。そのまま、

満足そうな顔をしながら、沙結はリビングを後にした。

そしてその日の夜、紫苑は面接のために必要な自己紹介動画と歌を

クロノスタシスに送った。

1週間後、クロノスタシスから面接の結果が送られてきた。


合格――と。


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