クリスマス転生~俺のチートは〈リア充爆発〉でした~

ナザイ

イブ

 

 今日は恋人達の祭日クリスマスイブ。


 そう言う俺、健全なる高校生後冬ゴトウイタルも、彼女と幻想的なイルミネーションで包まれた港でデートし、日付けの変わる瞬間に熱いキスを交わし、勢いでホテルへ、そしてお互いの初めてを捧げ合う


 …………………………予定だった。


 現在、独り寂しくクリスマス一色の聖夜を傍観している。


 え? 彼女にフラれたのかって? 違いますよ! 初めから彼女なんて俺には居ませんよ!

 年齢=彼女居ない歴だ! 文句あるか! あるならお前の目の前で大泣きしてやる!!


 ……グスン。


 ん? 何故それなのにクリスマスの夜にデートスポットに居るかって? 彼女が見つかるかも知れないだろ! 俺と同じ想いの奴の一人や二人居る筈だ!


 …………グスン、ズズズッ。


 結果? 独りの女は居ました。そしてカップルになりました。


 ……イケメン野郎と……。


 俺の顔がイケないのか!! 顔が!! 悪くは無いだろ! 悪くは!

 誰彼構わずくっつきやがって、このビッチ共が! お前ら節操が無いから独りだったんだろ!


 俺も独りだって? 節操無いって?

 …………ごめんなさい。


 童貞が妄想してキモい?

 …………ゆるじでぐだざい。


 ……兎も角このままでは俺の精神が殺られる。

 もう撤退しよう。逃げるのでは無い。撤退だ。


「どいつもこいつもイチャイチャしやがって!! バーカ!! バーカ!! …………うわぁぁーーーん!!!!」


 …撤退だ…撤退…。


 俺はがむしゃらに走り出した。

 視界が歪んでいる。目から雨が流れる。

 今日はブルークリスマスだ! ザマァ!


 そう思ったその時、


 俺を強烈な衝撃が襲った。


 時がゆっくり流れる。

 衝撃の元を辿ると猛スピードの真っ赤なオープンカー。

 乗っているのはイチャイチャしたカップル。ディープなキスをしながら運転してやがる。


 意識が遠のくのが判る。


 俺、こんな事で死ぬのか。

 父さんが言ってたな。俺、クリスマスにイタシテ産まれたって……クリスマスに死ぬのか。

 なんだよチクショウ!!


 リア充、爆発しろ!!



 クリスマスイブからクリスマスに変わる時、俺、後冬ゴトウイタルは死んだ。




 気が付いたら俺は白雲の中、地球を眺めていた。


『やっと目覚めましたね。後冬ゴトウイタルさん』


 声がした方を見るとそこには超絶美人が立っていた。

 俺が今まで見たことがレベルの超絶美人。それなのに近寄りがたい雰囲気の無い、むしろ母親のような雰囲気を持つ不思議な存在だ。


 俺は瞬時に悟った。

 この超絶美人は人間では無いと。

 俺達よりも遥か高次元に居る、女神だと。


「俺は、死んだのか?」

 気が付いたら聞いていた。


『はい、あなたはお亡くなりになりました。享年16歳、とても残念です』

 女神は両手を組んで祈るように言った。


 やはり俺は死んだようだ。


 …………。


 聞きたい事が山ほどある。


「ラ・イン交換してください!」

 俺は勢いよく頭を下げる。

 まるで告白しているような気分だ。まあ本当に告白した事なんかまだ無いけど。


 対する女神様からのお返事は!?


『……へ? 無理です。ごめんなさい』

 一瞬間抜けな表情をした後に断られた。


 俺とはラ・インも交換したく無いのか。

 …………死にたい。

 あ、俺死んでるや。


『あの、そう言う意味では無くて、私はスマホを持っていないのです』


 俺の状態から察してくれたのか、女神様は俺に優しい言葉をかけてくれた。


 よがっだ。


 ここは一気に!


「一目惚れしました! 好きです! 付き合ってください!」


『ごめんなさい』

 なんの躊躇いもなく断られた。


 死にだい。


『だからあなたはもう死んでいます』

 早くもツッコんできた。

 女神様には俺の告白の余韻すら残らなかったようだ。


 あれ? もしかして女神様だから俺の心を読んだんじゃ?


『そうです。私にはあなたの心の声が丸聞こえです』

 女神様は優しく微笑む。


 これは不味い。変な事を考えたら全てバレてしまう。


 考えるな、ベッドの下に隠したエロ本棚。

 考えるな、表紙入れ換えた本棚なエロ本棚。

 考えるな、机の引き出しの底板で隠したエロ本。

 考えるな、学校のカバンに常備されているエロ本。

 考えるな、ロッカーの中のエロ本棚。


『…………』

 女神様の視線が冷たい。


 不味い、考えるな幼女。考えるな姉妹。考えるな寝とり。考えるな女王様。


『…………親族の方や学校関係者に、お告を下しておきますね。エロ本の在り処を』

 笑っていない微笑みでそう言い放った。


 全て聞こえていた…………。


「ままま、待ってください女王様!! 間違えた女神様!! 死人を辱しめる真似は止めてー!!」

 俺は女神様の足下に土下座しながら懇願する。


『お黙りなさい。節操無しのエロガキが』

 当の女王様からはとても冷たい視線を頂戴した。あ、また間違えた女神様だ。


「節操ぐらいありますよ! 初めては処女とって決めていたんです!」

 俺はついに叶わなかった願いを口にして反論する。


『童貞臭い処女信仰ですね』


 ただ墓穴を掘る羽目になってしまった。


 穴が在ったら入れたい。

 じゃなかった、入りたい。


『キモいです。彼女が出来なくて当然ですね。あなたが入れる穴は地獄ぐらいでしょう』

 女王様はどんどん俺を貶してくださる。


「ありがとうございます! ハアハア!」

 しまった! いつの間にか調教されていたようだ。思わず感謝の言葉を放ってしまった。


 け、決して俺の性癖が元からこうと言う、わ、訳ではないぞ!

 不可抗力だ不可抗力!

 あ、遺族の皆さん! お願いだから俺の部屋調べないで!


『そもそも気が付いていますか? あなた今、魂だけですから全裸ですよ。興奮しているの心を読まなくても丸わかりですから。どうせならさっきみたいに土下座して隠してください。その粗末なモノを』


 女王様に言われて恐る恐る下半身を見る。

 そこには元気いっぱいのムスコが……。


『フッ、良かったですね。童貞のままで。彼女に貶されずに済みましたから』

 女王様は俺のムスコを見てクスリと笑いながら止めを刺してきた。


 酷い、人並みの大きさは有るわ! きっと……。


『それにしてもとんだ変態ですね。罵られて大きくするとは、小さいですけど』


 もうこれ以上は止めて……。


 どこか悦んでいる俺がいるがこのままじゃ男が廃る。

 死人を馬鹿にして、童貞のまま死んだ俺の気持ちが解るのか! 少しでも言い返してやる。


「そもそも女王様は何でクリスマスの夜に独りで仕事しているんですか!?」


 女神様にクリスマスなんか関係無いと思うが腹いせに言ってやる。


『………………』

 あれ? 女王様が固まった。目に光が無い。


 不穏な静けさだ。

 死んでしまったが本能が言っている。触れてはイケないものに触れしまったと。


「あのー、そのー、なんかすいません」

 俺はそーと謝る。


『……らないでください』


「へ?」

 小さくて聞き取れなかった。


『だから謝らないでください!!』

 とんでもない眼力を伴って言われた。

「はいぃ!!」

 俺は必死で返事する。


『そうですともそうですとも!! 私は独り身ですよ彼氏居ませんよ!! だからってビッチ女神共は私に仕事押し付けて!! 何であなた達が遊ぶ時間を私が作らないとイケないのですか!! 私先輩ですよ上司ですよ!!』


 女王様、いや女神様は大爆発した。

 相当溜め込んでいたようだ。


『あなたもあなたです!! 何でこんな日に死ぬんですか!?』

 早くも俺に飛び火した。あまりにも理不尽な内容だ。

 しかし俺にはどうすることも出来ない。こういう場面で反論しては駄目だ。


「はい、すいません」


『そもそもですね――――』


 ………………



『それで――――』


 ………………



「そうだよな! 女神は神聖な存在なんだから処女じゃ無きゃ駄目だろう!」

『全くその通りです! 彼女達ときたら子供を作る訳でも無いのにイタスんですよ! ナニがしたいんですか!?』


 あれから女神様に付き合っている内に、いつの間にか意気投合していた。

 驚く程話が合う。

 俺達はイチャイチャカップル共への憎悪を語り尽くした。


 これは良い雰囲気だ。

 もしかしたら今ならイケるかも知れない!


「女神様! こうなれば俺達付き合っちゃいませんか? 本当の愛と言うものを見せてやりましょう!」


『ごめんなさい。タイプじゃないんです』


 ……グスン、なんとなく判ってたよ。


『あー、その、私達まだお互いに名乗ってもいませんし?』


 女神様が打ち解けたお陰か優しくなった。

 慰めてくれる。


 でも女神様、会ったときに俺の名前を言ってたよね。


「そう言えば本当に女神様の名前、聞いていませんでしたね。教えてもらっても良いですか?」

『あら、そうでしたね』

 ……気が付いていなかったんかい。


『ゴホン!』

 わざとらしい咳払いと共に女神様の雰囲気がガラリと変わった。


 女神様の寝不足のような蒼い瞳は慈悲を讃え、ボサボサだった新雪のような白い髪は流れ、どこかトゲトゲしかった後光は暖かな春の優しい光に変わる。


『私は女神セントニコラ、この地球を管理する女神の一柱です』

 如何にも女神らしく神秘的に微笑みながら女神様は言った。


『あ、もうどちらにするか決めましたか?』

 女神様は何かを思い出したように言う。


「どちらって、何がですか?」

『やだなー、本題ですよ本題。転生するかどうするか。元々その為に私達は話しているのですから』


「…………初耳なんですけど?」


『…………』

「…………」

 暫しの間、俺達の時間が止まった。


 女神様が突如清々しい程の笑顔になる。


後冬ゴトウイタルさん、あなたはお亡くなりになりました。そんなあなたには二つの選択肢があります。一つは生前の行ないにより、天国か地獄に行くという道。もう一つは別の世界に転生するという道です』


「あの――」

『この世界でもう一度生きたい場合は、天国か地獄に行くという選択肢を選んでください。天国へ行ける方はいつでも、地獄の方は刑期が終わったら生まれ変わる事が出来ます』


 女神様は俺に何も言わせてくれない。

 ツッコもうとするとその前に心を読まれて遮られる。

 女神様は何も間違っていないと言うスタンスで進めたいようだ。


 こんなんだから彼氏が出来ない―――ヒッ!!


 死人の俺にも通用する恐ろしい殺気が!!


 ごめんなさいごめんなさい!! 俺が間違っていました!! 誤魔化した件にはもう触れません!! 許してください許してください!!


『あら一生童貞だったエロガキさん、どうかなさいましたか?』

 全く笑っていない笑顔で言う。

 俺の扱いが酷いがここは何も言ってはイケない。


 無難にこの話しに乗っておこう。


「えーと、別の世界って言うのは?」

『あなたはライトノベルと言うものを読んだ事がありますか?』

「俺、本は読まない派で」

『なるほどエロ本しか読まないと、エロ漫画は読みますか?』


 女神様が酷い。


「エロ漫画なんてものがあるんですか?」

 俺のサーチ力が足りなかった。盲点だ。

『知らなかったのですか? ここにもありますよ。なんなら読みますか?』

「ぜひっ!!」


 女神様に渡され受け取った。

 何故ここにあるかなど野暮な事は聞かない。


 ふふふ、さてさて表紙は?

 裸の野郎と野郎が熱いキスを……。


「……お返しします」


 グスン。


 女神様が可哀想だ。

 まさかここまで彼氏が居ない事を拗らせていたなんて、恐らく男と男がくっついて自分に来る男が少ないと、そんな幻想を抱く為にこんなものを読んでいたのだろう。


 うう、可哀想に。


『………………』


 まさかただの趣味なんて事、無いよね?


『………………』


「女神様、俺ならいつでも付き合うからね」

『ごめんなさい』


 …………俺、そんな駄目?


『さて、なんの話しでしたっけ? ああ、異世界の話しでしたね』

 女神様はわざとらしく話しを変えた。いや戻した。

 優しさからだと思っておこう。


『ファンタジーと言う言葉は知っていますか?』

「それは知っていますよ。漫画みたいな世界ですよね?」

『あれ? エロ漫画は読まなかったんじゃ?』

「普通の漫画ですよ普通の漫画! それは読みます!」


 女神様の中の俺って一体?

 俺だって可愛いヒロインが出てくる漫画くらい読みますよ。


「と言うか俺、高校で漫画研究部でした。マン研マン研言うから間違って入部しちゃったんですよ」

 期待させるような略し方は止めて欲しいものだ。だが可愛いヒロインに沢山出会えたので後悔はしていない。


『…………何ですかその吹奏楽部を水槽の有る部活と間違えて入ったみたいな経歴は? つくづくとんでもない童貞エロガキですね』

 女神様はゴキブリに向けるような汚物を見る目で俺を見る。


『それで一生童貞エロガキさんが地獄を選らば無かった時に行く別の世界はファンタジーな世界、所謂剣と魔法の世界です』

 女神様の俺への扱いがさらに酷くなった。

「俺が天国に行くと言う選択肢は?」

『調べなくても判ります。在るわけ無いでしょう。唯一の善行は死んだ事ぐらいじゃないですか?』


 俺にだって善行の一つや二つぐらい有る。

 変質者が居ないか警備の一環として女子更衣室を探りに行ったり、変な男に引っ掛からないように如何わしい下着を没収しに行ったり、俺の話を聞いた女子の理不尽な暴力を何も言わずに受けたり、他にも似たような善行が沢山有る。


『で、地獄と異世界、どちらに行きますか?』

 思考を読まれていたようで女神の目つきがさらに鋭くなった。

「俺は悪い事していません!」

 俺は今までやって来た事を間違いとは思わない。イケメン野郎の優遇ぶりから考えたら当然の権利だ。


 そんな事を思い浮かべていると女神様の態度が変わってきた。

 ついに俺を解ってくれたか!?


『…何で…何でクリスマスに私はこんな男の相手を…』


 …………違った。

 女神様は死んだ目をしていた。そして顔を上に向けると静かに涙を流す。

 ……泣くほど俺って駄目か?

 あれ? 俺の目からも水が……。


『て、なんであなたが泣くんですか!? あなたのはどう考えても自業自得でしょう! もう早く地獄に堕ちるか異世界に転生するか決めてください! 私はこれから独りでお酒を飲み干して現実から逃げる予定なんですから! クリスマスの夜に独りで!!』

「悲しすぎません!? と言うか自業自得じゃありません! 不可抗力です!」

『どこに不可抗力の要素があるんですか!?』


 不可抗力だらけである。


「顔は生まれつきで変われないんですよ!?」

 イケメンと一般ピーポー、この差は絶望的に大きい。同じ言葉でも片や好意として受け止められ、片や変態と言うゴキブリに遭遇したように受け止められる。


 金? 地位? 名誉? 結局顔じゃ!!


 これが努力でどうなる?

 王子がモテるのは王子だからモテるのでは無い! 王子がイケメンだからモテるのだ! 白馬に乗っているのが不細工王子では誰も夢を抱かない。

 テレビでも見てみろ! 例え親の七光りを用いても、演技が幾ら上手くとも、一光を浴びただけのイケメンに全てを持ってかれる。


 顔とは生まれ以上の地位だ! 能力以上の才能だ! 究極の不平等、チート、ズル、イカサマである!


『いやあなたの場合、人格も相当ですからね!?』

「人格? 俺のどこに問題があるんですか!?」

『どこに問題が無いのか逆に聞きたい程度には問題ありますよ! あなたの脳内、殆どが子供にお見せできない性関連じゃないですか!?』


「それも不可抗力です! 生殖は人間の、いや生き物の絶対的本能なんですよ!? これが無いと人類は滅びるんですよ!? ただでさえ人は色々なものを守ろうと必死になって争ってるのに、生殖しなければその全部が消えてなくなるんですよ!? そんな強い人の核を抑えられる訳無いでしょう!!

 考えてもみてください、一生トイレに行かないなんて、一生食事をしないなんて、一生息をしないなんて出来ますか!? 出来ないでしょう!? それと同じですよ!

 俺はモテないから一生トイレを我慢させられ続けているような状況なんです!! これが不可抗力以外のなんですか!!」


『いや性欲は生き死に関わる生理現象と一緒に考えたら駄目ですよ!? それらは止めたらすぐに死に至る現象ですからね!? 性欲は次の世代になって初めて影響が出る、個人としては長寿でもない限りそんなに影響がない本能ですから!

 そもそも第一前提として今のあなた死人ですからね!? 何でまだ性欲の塊みたいな性格してるんですか!? まず普通死んだら混乱するか極度に落ち着くかするでしょう!? これを人格がおかしい以外になんと言えますか!?』


 そうだ。そう言えば俺、死んでいたんだった。

 ははは、……もうエロい事考えても仕方がないんだったな……。

 俺はもう死んだ。後は家族、友人知人達に感謝しながら静かに成仏してあの世で待つのが正しい姿………………………………んな訳あるかぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーぁぁぁッッッ!!!!


「いやいや女神様! 人格がおかしい!? 俺、童貞のまま死んだんですよ!? だからこそこんなに死んだ事がおまけになるほど未練が残ってるんでしょうが!! もうこの未練が晴れる事は永久にないんですよ!! 永遠に童貞なんですよ俺!! 異性と素肌が触れたのも幼稚園の時が最期だったのに!!

 こうなったら世界中の銭湯更衣室に化けて出てやる、うわぁぁぁーーーーーーーーーん!!」

 俺は心の底から世界を呪う。

 ついでに本当に化けて出てやると心に決めた。


『ちょっ!? 神域が歪んでるっ!? どんだけ未練があるんですか!?』

「女神様は良いですよね、整った顔で…そんな女神様には俺の気持ちが分かる筈がない! どうせ今日偶々彼氏が居ないだけで普段はオタノシミなんでしょ!?」

『……です……』


 あれ? 急に空気が変わった。

 怨嗟も途切れる程、泣く童貞も黙るほど静寂を押し付ける雰囲気だ。


『処女ですよ私は!!』

 とんでも無いことを叫ぶ女神様。

 えーっ!? 処女なのっ!?


『黙って聞いていれば好き勝手言って!』

「いや結構女神様も好き勝手……」

『五月蠅い!』

「はいっ! すいませんでしたっ!」


 咄嗟に直立の敬礼ポーズで前言撤回、謝罪する。


『死ぬまで童貞だったぁ? 白髪も生えて無いエロクソガキがぁ、たかが16年童貞だったぐらいでなんだ!? こっちは数億年ずっと彼氏の一柱も居やしねぇーんだよ!? そもそも同僚の数少ないし、居ても他の若い女神と結ばれるわで!

 なのに人類の発展を、営みを、増殖を初めから視せられ続けるし…………』


 女神様は急に怒鳴ったと思えば、急に声を詰まらせ泣いた。

 情緒不安定だ。

 まるで泥酔したかのような不安定さである。

 そしてそれも納得出来る背景だ。


 同情を禁じ得ない。


『……もういっそ、人類を滅ぼしてしまいましょうか……』


 死んだ目で女神様は地球を睥睨する。

 ヤバい、女神様は本気だ。

 寂しさを詰め込んだような悲しすぎる女神様だが、多分本当に人類を滅ぼせる。


 止めなければ!


 うん? 待てよ。


「そうですそうです! リア充共なんて一欠片も残さず殲滅してやってください! なぁに、巻き込まれる不幸な同胞達も諸手を挙げて殉職する筈! ドカンと一思いにヤっちゃってください!

 ふはははは!! リア充共よ!! クリスマスの楽園から地獄に落ちるがいい!!」


 幸せの絶頂から最期の絶望、普段幸せを見せつけてくるリア充共の地獄に落とされた顔、これほど嬉しい供養はない。

 思い浮かべただけで悦びが込み上げてくる。

 童貞のまま一生を終えた俺だが、これで未練を納める事が出来るだろう。


『…………もう本当にやだ……何でこんな男相手に働かなくちゃいけないの…………』


 あれ? 何故か女神様の方がヤル気を失った。

 情緒不安定から哀しみ一色だ。

 何? 俺のせい?


『お願いだからもう、さっさと地獄に堕ちるか、異世界に転生するか選んでください!』

「そんなこと言わずにリア充共を滅ぼしてヤリましょうよ? 永遠に報われない同士、これ以外に方法がないですよ? 俺じゃなくてリア充共を地獄に堕としてヤリましょう!」

『誰が永遠彼氏なし御一人様ですかっ!? あなたと一緒にしないでください!』


 おっ、少し女神様が元気になった。


『と言うか、そんなに未練が有るなら異世界に転生してやり直せばいいじゃないですか! さっさと行ってください!』


 そしてまさに天の言葉、天啓。

 そうだ、俺は童貞のまま死んだが、まだ童貞を捨てるチャンスが全て喪われた訳ではない!

 世界こそ変わるが、生き返る事が出来る!


「そうですそうですよ! 俺にはまだ、童貞棄てるチャンスが残っていたんですよ!」

『いや、あなたがあなたである限り、永遠にそんなチャンス訪れませんから……それで、異世界転生って事でいいですか?』


 感情的な様子から一転、冷徹な態度で酷い事を言われる。

 ……そんな一瞬で冷静になって冷えるほど、俺って駄目?

 まあ確かに、生き返ったところでかもだけど……。

 でも可能性はある、きっと……せめて顔、イケメンになんねぇかな?

 あ、意外といけるかも!


「女神様! 転生って顔変えられたりしますか!? ほら、神に選ばれし者の恩恵とか、聖夜のプレゼント的な特典で!」

 俺は哀しさから一転、希望で満たして女神様に願う。


『残念ながら、異世界転生と言う選択肢そのものが特典です。実はあなたの死はクリスマスによる聖気の高まり、世界の法則の乱れからくる、神の管理不足による予期せぬ事故でした。本来、あなたは今日死ぬ予定では無かったのです。

 ……たく……あのヤリちんビッチバカップル共がぁ……。

 ごほん、そのお詫びが今回の異世界転生と言う選択肢ですので、この異世界転生は本来の私たち神々の業務からは逸脱しています。今回初の試みで、多くの自由が効かないのです』


 …………。


 なんか凄い今更ながら、とんでもなく重要な真相を暴露された。

 ……はい? え、何? 俺、本来死ぬ筈じゃなかったの? クリスマスのウキウキ的なもののせい死んだの?


「てっ、それ、普通一番最初に謝罪するやつじゃないですか!? と言うか事故と言ってながらそのクソリア充共は一体何をした! そこんところ詳しく!」

『それが、真っ赤なオープンカーに乗ったカップルに、『まあ、あの子達も仲がいいわね』『愛の恋人神である僕たちがこうして見守っているからさ』『幸せのお裾分けね』『そうさ、僕たちの愛が溢れているのさ』『『ははははは、うふふふふ』』とか何とか言って、尋常じゃない神気を振り撒いたんですよ。うぶっ、思い出しただけで吐き気がする……ごほん、それで神気に当てられ下賤なる下等なクソ人類リア充共がはっちゃけて、周りを気にせずブッ飛ばしてゴミがフっ飛ばされたと言う訳です』


 ……酷い、色々と酷い。

 リア充共は言うまでもないが、女神様の憎悪嫌悪が留まることを知らない。世界を汚染しそうな程の感情だ。

 そして、そんな女神様の俺の扱いが酷い。ゴミって常識のようにぽろっと言われた……口が悪くなっているだけだと思いたい。

 俺、被害者なのに……。


「と言うか、そんな被害にあったのに俺を地獄に落とそうとしていたんですか!? お詫びならせめて天国に送るか、転生一択じゃないですかね!? 後、リア充共に天罰はないんですか!」

『と言われましても、私、加害者じゃないですし、むしろ普段からリア充共の被害に遭っている、現在もこうして独り仕事をしている被害者ですから。

 それに、罰ならもう下しました。ありとあらゆる災害を世界中に撒いてヤりましたよ。今頃、ウキウキなクリスマスからパニックなハロウィンに逆戻りしている頃でしょう』


 …………もう、世界を滅ぼすようなこと、実行してたんだ。


「それ、大丈夫なんですか? 人類終わるんじゃ?」

『流石にその辺は手加減しましたよ。死人が増えたら仕事が忙しくなるじゃないですか? 私、振り替え休み無いし、このまま正月入るのに死人が増えたらやってられませんよ』


 女神様は当たり前のように言った。

 ……理由、それなんだ。


『それに、想定よりも被害は少なかったので、人類の存亡には全く影響はありません。死人の一人も出ていない有り様です。

 本当は人類なんか百分の一程度に減らすつもりで災害を振り撒いたのですがね。どうやら怒りに任せて地球全域で引き起こしたのが間違いだったようです。無人の土地も含めて全てに均等に力がいってしまったのでこんな結果になってしまったのでしょうね』


 ………………ヤバい。今更ながらこの女神様はヤバ過ぎる。死者の数だけで判断したら人類滅亡と言い切っていいほどの人を殺そうとして実行していたらしい。

 ただの嫉妬と怒りで……。

 そしてそれを何とも思っていない。少し残念そうにしているが、それは自分の目論見が失敗したからだろう。


 ここは、八つ当たりで酷い目に遭うかも知れないが注意しておかなければ。

 死人とは言え俺は人間。誰に評価されることもないだろうが、何も成せずに死んでしまった俺に出来るのはこれくらいだ。

 例え地獄に落とされようとも、ここは男気を見せてやる!


 しかし俺が口を開く前に女神様が口を開いた。


『それどころか、クリスマス中に引き起こしたのが災いして、カップルが引き裂かれるどころか余計抱き合ったりして結ばれるし、ハロウィン状態なのは真面目な同志だけですし……はぁ、今日は本当に厄日です。早くお酒を飲み干したい……』


 ……はぁ? 何? 奴ら恐怖のドン底にいるどころか楽しんでるだと?


「女神様! もう一発ブチ込みましょう! 恐竜が絶滅するくらいの隕石を一二発! いやいっそのこと月でも落としましょう! この聖夜にこそ浄化の炎で世界を満たすんです!!」


 今日この日に真なる聖夜を迎え、人類は終焉を迎えるのだ!

 後悔せよ懺悔せよ! 先人が積み重ねてきた文明は軽率な貴様らリア充と、偏見だらけで俺達を選ばなかった貴様ら傍観者のせいで幕を閉じるのだ!

 地獄の底で永久に嘆くがいい! 閉じきった終末にて我らが孤独を味わうのだ!!


「ハッハッハッハッハッッ!! ヌワッハッハッハッッ!!」


 泣け喚け引き裂かれるがいい!!


『……もう本当に嫌だ……何でよりにもよってコレを轢き殺したのでしょうか……』


 何故か女神様が顔を伏せて酔いきったように泣いた。



 人類を滅ぼすよう説得すること、ごほん……女神様を宥めること数分。


 女神様は元気になった。


『もうさっさと異世界に行ってください!!』


 俺の希望とは違う方向にだが。


 問答無用で巨大な魔方陣が足元に広がる。

 強制的に転生されるらしい。


「ちょっと女神様!? いきなり過ぎません!? 説明とか無いんですか!? 説明とか!?」


 ファンタジーな世界とやらに送られる事は聞いたが、それだけだ。

 他は何も聞いていない。

 無一文で知らない外国に行くより難易度が高い場所だったら困るでは済まない。

 生き返せてくれるから強くは言えないけど、せめて説明を!


『大丈夫です! 例え異世界に転生しても死後の担当は私ですから、簡単には戻ってこないように、すぐには死なないように調整しています!』

「ちょっ、動機が酷く無いですか!? って、そうじゃなくて説明を!?」

『問答無用! さっさと異世界に堕ちてください!』


 女神様は親指を下に向け、同時に魔方陣が一気に広がり輝く。


「それ、地獄に送るセリフと仕草じゃないですかっ!? 本当に異世界行きですよねっ!?」

『あっ』

「その手が有ったかみたいな顔しないでください!」


 そう言っている間にも魔方陣の輝きは増し、魔方陣から風が溢れてくる。

 共に魔方陣の中にいる俺と女神様の身体も光り出して……んっ!?


「女神様、その身体は!?」

『へっ? てっ、何で私まで転生対象にっ!? くっ、制御が……!』


 女神様は色々と抵抗して抜け出そうとするが、光は強まる一方。

 どういう状況かいまいち判断出来ないが、とにかく女神様は俺と同じく転生の対象になってしまったらしい。

 だが俺にとってそれよりも問題は女神様が慌てていると言う点。


「一体どうしたんですか!? もしかして事故ったんじゃないですよね!?」

『まだ事故ってはいないですよ! ただ制御が効かないだけです! 何でこんなことに……開発した術式に問題はない筈!』

「いきなり発動しましたよねっ! 違うのを使っちゃったんじゃないですか!?」

『…………違います!』


 少し考えてから叫ぶ女神様。

 今、あって顔していたよね?


『本当に違いますから……その、ほら……見てください! そうです見てください! 地上がかつて無いほど乱れています! これのせいで空間が乱れて術式が上手く機能していないのです!』

「世界全体に災害振り撒いたのって、女神様じゃありませんでしたっけっ!?」

『………………ぐっ』


 ヤっちまったと言う顔をして唸る女神様。

 俺はリア充洗浄、人類滅亡を後押しした側だけど、自業自得とはこれの事かも知れない。


『あっ、見てください! ほら周り! 神域が歪んでいます! これはあなたが童貞のまま死んだからって世界を呪ったせいですからね! 私のせいじゃありませんから!』

「それ言いがかりですよね!? いやまあ本当に歪めた気がするけど……とにかく俺のせいじゃないですから、リア充共のせいてすから!!」


 何か冤罪、そう冤罪をかけられたが、俺は訴える。

 悪いのは俺じゃない。俺に神域を歪めさせたのはリア充である!

 と言うかここにいるのだって、これから転生するのだって全ては憎きリア充共のせいだ!!


『確かに……全ての元凶は独りで仕事する私を差し置いてイチャイチャして、あろうことかそれを見せつけてくるリア充!! 奴らがいなければこんなことにはっ!!』


 俺の想いに共感する女神様。

 女神様に関しては責任の押し付けのような気もしない訳でもないが、何も間違ってはいない。

 それにその想いは紛うことなく俺と同じ!


「そうですそうです! 全てはリア充共が悪い! 諸悪の根源はリア充だ!!」

『そうです! リア充さえいなければ何事も無かったんです!!』


 思い返せば思い返すほど、リア充への憎悪が込み上げてくる。


 そして憎悪が溢れだすのを示すように、魔方陣と俺たちは輝きに満ちた。

 魔方陣が溶けるように開き、異世界への穴が、扉が開く。


 そして重力に吸い込まれるように俺たちは落下する。


 これで一先ずこの世界とはお別れだ。さっき女神様が死後の担当は変わらないとか言っていたから、きっと死んでからは戻れる、逆に言えば死ぬまではお別れだ。

 ゆっくりと俺の存在そのものが、この世界から離れて行くのが分かる。


 だから最後にこの世界の存在として、最期の最後の言葉を遺す。


 この世界で、短い人生で学んだ、手に入れた想いを全てを込めて。



「『リア充、爆発しろぉぉぉぉーーーーぉぉっっ!!!!』」




 《後冬至の異世界転生を確認しました。

 ステータスを有効化します。

 名前の表示をイタル=ゴトウに変更しました。

 エラー、種族の逸脱を確認。肉体と適合が出来ません。

 逸脱部分を固有スキルに変換します。

 固有スキル〈リア充爆発〉を獲得しました。

 逸脱部分の余剰を確認。再び固有スキルに変換します。

 固有スキル〈不屈〉を獲得しました。

 固有スキル〈不屈〉により肉体の許容範囲の拡大を確認。適性から残りの逸脱部分を生命力として変換します。

 エラー、予期せぬエネルギーを確認。職業ジョブ“異世界勇者”を付与します。

 女神セントニコラの介入を確認。

 女神セントニコラの介入によりスキル〈鑑定〉〈アイテムボックス〉を獲得しました》




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