破滅秒読み最カワ悪役令嬢とノックス十戒破壊型中国人 「異世界の標準語ってなんで日本語なんだ悪役令嬢」「中国語が通じないぞ悪役令嬢」「それにしても君可愛いな悪役令嬢」「君の恋を応援するぞ悪役令嬢」
オドマン★コマ / ルシエド
一周回って二次創作みたいなリアル
伝統!
それは、成功例の羅列!
輝ける実績の歴史!
実証された勝利の法則と、これまで成功してきただけの経験則の狭間に在る物!
女性向けイケメン攻略ゲームジャンル、通称『乙女ゲー』。
そんなゲームに似た世界は平行世界に存在するのか?
原作知識で戦っていける平行世界は存在するのか?
存在する!
存在するのだ!
人間は乙女ゲー世界で幸せになれるのか?
転生者はイケメンと結ばれることができるのか?
原作知識で平行世界をハッピーエンドにすることができるのか?
人間は海で鮫に勝つことができるのか?
できる!
できるのだ!
「では、フレン・リットグレーさん。召喚を行ってください」
「はい、先生」
先生に促され、夜明けの空のような薄青の髪に、深い青と白と紺色の学生服を身に着けたお嬢様風味の少女が、魔法陣の上に進み出る。
ここは学園。
そして今、新入生のための『召喚の儀』が始まろうとしている。
この世界における物語は、『召喚獣の召喚』から始まる。
最初のシーンで、どの召喚獣を召喚するか?
空を飛べるか?
回復魔術を使えるか?
原作主人公を乗せて走れるか?
それによって、後のストーリーに変化が生じ、場面ごとに召喚獣の特技によって主人公が選択できる選択肢が変化するのだ!
本日行われる召喚の儀は、ゲームにおいてはプロローグで行われるイベント。
しかし、この世界においては、春の入学式で行われる伝統である!
ここで何を召喚できるかどうかで、その後の学校生活が決まってくるのだ!
「……ふぅー」
彼女の名はフレン・リットグレー。
週刊少年漫画誌の裏表紙ゲーム広告欄に、『主人公の前に立ち塞がる最強の悪役令嬢四天王』と広告を打たれた女。
ステータス合計424!
統率100! 武力90! 政務63! 智謀79! 魅力92!
両サイドに細い縦ロールを備え、されど基本的にはロングヘアという出で立ちは、平成後期から主流になっていったお嬢様デザインの直球王道。
しかし、薄青色の髪であることで、パッケージで目立つという工夫が見られた。
つり目がちながらも『気の強そうな美人』くらいに印象が留まっているのは、シンプルに彼女の容姿が整っていることを証明している。
しかし、ここはゲームではなく、時間軸はまだ本編ではない!
彼女は未だ悪役令嬢ではなく、主人公をいびり散らかす立場でもない!
これからすくすくと悪役令嬢に育っていく、悪役令嬢ベイビーであった!
今後原作主人公に対する嫉妬心という名のミルクを、原作展開という哺乳瓶からちゅうちゅうと吸い、彼女は悪役令嬢として完成する。
それが運命である。
「緊張していますか、フレンさん」
肩に力が入ってる悪役令嬢ベイビー・フレンに、教師が優しく声をかけた。
召喚の魔法陣の上に立つフレンを、教師陣、同級生達、貴族の生徒に付き従う執事やメイド達が見守っている。
フレンはもう一度、深く深く深呼吸をした。
「いえ、大丈夫です。必ず成功させて見せます。龍か、最低でも精霊を……」
「失敗してもいいのですよ。これで何かが決まるというわけでもありません」
「……できません。できないんです。私がそれを許せません」
「……。そうですね。どうか幸運を、フレンさん」
フレンは、召喚を行う順番としては最後に配置されていた。
『原作主人公』にあたる少女も、既に召喚を終えている。
召喚の儀は何日かに分けて行われるが、この日にフレンより後に召喚の儀を行う生徒はいない。
それは、彼女が公爵家の令嬢であるから。
公爵家の大きな魔力を用いた召喚は、これまでの学園の歴史上、幾度となく規格外の召喚獣を呼び出してきた。
公爵家の召喚は、世界すら制する力を呼ぶ。
それはこの学園における常識である。
と、いう設定があり。
シナリオによって、彼女は原作主人公の前に立ちはだかるラスボスとなる。
それが彼女の運命であり、役割である。
『踏み台であるために、美人であり、優秀でなくてはならない』。
悪役令嬢ベイビーとは、そういう存在だった。
「───、───、───、───、───、───、───」
歌うように。
唄うように。
詠うように。
フレンは召喚の詠唱を唱えていく。
その肩に、公爵家の重みを乗せて。
その手に、破滅の運命を乗せて。
「───『召喚』。常世の悲願を越える迄、我と運命を共にする者、こひゃへよっ」
噛んだ。
噛んだ、と教師の全員が思った。
噛んだ、と生徒の全員が思った。
噛んだ、と原作主人公に転生した日本人の女が思った。
「あっすみませっもう一回おねが」
カッ、と魔法陣が光り輝く。
今日最大の光量が周囲を満たし、その場の全員の視界を真っ白に染め上げた。
そうして、光が消え去った頃、魔法陣の上には、一人の男が立っていた。
「に……人間だああああああああ!!!」
誰かが叫んだ。
ざわめきが広がる。
フレンが口元を抑え、絶句する。
前代未聞の事態に、教師達が各々動き始める。
生徒達に広がった動揺は、一瞬にしてその場から冷静さを奪い去った。
「人間!?」
「こんな展開……僕のデータに無いぞ!?」
「失せろ眼鏡野郎」
「人間が召喚されたことってあったっけ?」
「ねえよ!」
「学園始まって以来初めてじゃないか?」
「先生! 人間召喚した場合のマニュアルってどうなってんすか」
「知らんよ! 起こったことがないんだ!」
「生活とかって誰が面倒見んの」
「召喚したフレン様ではないでしょうか」
「こんな難題……僕のデータに無いぞ!?」
「データキャラやめろ」
「原理的にありえない話ですよね」
「まあ待てよ、召喚獣はペットみたいなもんだろ。あの男だってペットなのさ」
「ええっ!? ペットの男に……公爵令嬢が何をさせるって言うんですか!?」
「僕のデータに無い性癖だ!」
「恋愛観が爛れてる! いや今の流れで発言してたの誰だ!?」
場がわちゃわちゃし始める。
本来この世界の原作主人公……であったはずの、栗色のくりくりした髪の可憐な少女、フィア・サンブラージュが胸を抑えてうずくまる。
ステータス合計453!
統率96! 武力70! 政務97! 智謀91! 魅力99!
「20歳前くらいの頃のあたし、こんなネット小説書いてた憶えがあるなァ……!」
「ど、どうしちゃったのフィアちゃん! 急にうずくまって!」
黒髪ポニーテールの親友、ミュスカ・ドスペートスがフィアに駆け寄った。
ステータス合計386!
統率94! 武力89! 政務69! 智謀52! 魅力82!
「ぐっ、フゥッ、ふ、古傷が……2ch、コテハン、夢小説……ふぐぅ」
「せ、先生! フィアちゃんがなにか大変です! ど、どうにかしないと!」
「心の傷があんたの回復魔法で治せるっていうの!?」
「ええええっ!?」
キレる原作主人公フィア(転生日本人)。
困惑する親友ミュスカ。
もはやその場には混乱しか満ちていなかった。
だが、この場で最も困惑していた者が誰かと言えば、召喚したフレンだろう。
そして、最初に動き出したのもまたフレンであった。
フレンは召喚された中国人を見やる。
服装は中国拳法家が好むような表演服……なのだが、彼女には分からない。。
髪はやや長そうだが後頭部で織り込んでいる。
目つきはだいぶ優しく見えるが、表情に浮かんでいるのは困惑だ。
召喚されてわけがわからない、という心境なのだろう。
フレンは勇気を出し、男に話しかける。
「え、えと……貴方は、何? いや、誰?」
「言葉 理解不能 君何言不明 我困惑」
「言葉が通じてない……?」
「君可愛 君美人 乳巨大 視線万有引力 雰囲気清楚 我抵抗不可」
だが男は、首を傾げて何やら理解できない言葉を垂れ流すのみ。
フレンは公爵令嬢。多くの外国語を習得しており、話せなくとも存在だけは認知している言葉も多くある。
そんな彼女が理解できない言語なのだ。
おそらくは、この国の誰もが認識していない遠方から召喚された来訪者───伝説に語られる、『海の向こうの黄金郷』の人間なのではないかと、フレンは予想する。
あまりにも真っ直ぐで熱のある男の視線を向けられ、『彼は私に状況説明を期待している』と解釈したフレンは、顔を真っ青にして顔を逸らしてしまった。
そう、これは。
彼女にとって、罪悪感しか湧いてこない、最悪の事故だった。
「もしかして、私は、言葉も通じないような遠くの国から、何の罪もない人を無理矢理召喚してしまったというの……? なんて、ことをっ……!」
「髪綺麗 睫毛長 顔綺麗 乳巨大 良香 流入 我胸高鳴」
「……ごめんなさい。貴方が困惑と、恐怖と、戸惑いを抱えているのは分かる。ここがどこなのか分かってないのも分かる。でも、私には……」
申し訳無さそうに、フレンは男の顔色を窺う。
男は優しそうな目つきこそあるが、表情があまり動かない。
感情があまり顔に出ないタイプなのかもしれない。
ただ、男がフレンを責めている気配は無い。
それだけが、フレンにとって救いだった。
「適当漢字羅列 大体意味理解可能 是真実中国語」
「何を言ってるか本当に分からないわ……どうしたら……」
「超凄 君美人魔神 巨乳世界征服可能 我胸中爆発 我初恋爆散 宇宙藻屑」
「きっと異世界に無理矢理連れて来られた悲しみを語ってるに違いないわ……」
「君美人 我混乱 会話不能 発言選択迷迷迷 我君嫌恐怖」
「私を……責めているのだとしても……私には、言い訳のしようもない……」
フレンは意を決し、男を背に庇うようにして振り返る。
そこに並んでいたのは、フレンの同級生33人と、教師4人。
皆が皆、困惑しつつも、『この事態』を看過できないとは思っていた。
「三三-四 何 阪神無関係」
「……大丈夫。リットグレー公爵家の名に掛けて、貴方の安全は保証するわ」
その声は優しく、背中には頼りがいがあり、姿勢は毅然として凛々しかった。
こんな彼女がシナリオを経て病んでいき
そういうシナリオも存在する、『原作』という名の運命の筋立てがあった。
「私は、フレン・リットグレー」
「?」
「フレン・リットグレー」
「……」
「フレン・リットグレーよ」
フレンは自分を指差し、何度も自分の名前を呼ぶ。
父母が我が子に対して「パパだよ」「ママだよ」と憶えさせるように。
何度も、何度も、根気強く自分を指差し、自分の名を呼ぶ。
やがて男はその意図を理解し、男もまた自分を指差し、己の名を読んだ。
「
「それが、貴方の名前? ……召喚してしまってごめんなさい。でも、よろしく」
男の不安を取り除こうと、フレンはできる限り優しく微笑みかける。
「微笑 可愛 萌悶死 可愛過 過剰美人」
「どんなに時間がかかっても、貴方を元の世界に帰してみせる。約束するわ」
「艶目微笑 美人中美人 我照照 美人顔好 心拍数五千兆倍界王拳」
「……? お礼言われてるのかしら。ええと、どういたしまして?」
そんなこんなで。
中国人がとある大人気戦略SLG乙女ゲー(に似た世界)に、参戦した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます