第48話 待ち合わせ


 あれから一週間程。


 結果を見れば、聖典の成果が一つ増えた。

 一時は人殺しの疑いを掛けられた。

 けど、夜宮さんの登場がそれを完全否定。


 暗月の塔での活躍と共に、うちの大学を救った英雄としても。

 彼等の人気はまた上がった。

 大学での死傷者は0。

 あ、5人くらい感電してた奴がいるけど。

 それ以外は0。


 俺? 俺はただ、救助されただけの学生だ。

 ただ、スルト達は撮影された。


 聖典ヴァイスの意向で、スルト達は聖典の使役獣という事になった。

 まぁ、その方が俺も都合がいい。

 有名人になりたい訳じゃないし。


 だから謎の魔物! みたいな噂は無い。


「でさぁ、聞いてくれよ」


 俺はスマホを耳に当てて、通話口の向こうの相手に言う。


「なんですか、先輩」


「明日さぁ、改めてヴァイスの所に行く事になったんだけどさぁ……」


 既に、聖典の3人には本当の事が話されている。

 ヴァイスという存在。

 未来から来た俺の召喚獣だって事。

 聖典はヴァイスが作った事。

 聖典の権限が雅の物になっている事。

 その他、諸々の事情は説明済みだ。


「もしかして、天童先輩とですか?」


「ヴァイスへの直通ゲート雅しか作れないからな」


「はぁー、良かったですね仲直りできて」


「なんか怒ってる?」


「えぇはいめっちゃまじのがちで怒ってますけど?」


「別に、もう雅とは何も無いって」


「はい?」


「え?」


「その、縒りを戻すんじゃないんですか?」


「あぁ……まぁ、今の所は無いかな」


「なんですかそれ」


 色々と別れて見えた物もある。

 今までずっと、俺は雅に頼っていた。

 寄りかかっていた。


 きっと、雅が俺を責める事は無いだろう。

 でも、俺自身が許せない。


 頼るのが悪い訳じゃないのは分かってる。

 でも、頼った分は返せる位になりたい。

 できれば利子付きで。


 初志貫徹。


「まだまだ俺は、頑張らなきゃならない時間かなと」


 召喚師として、召喚獣に頼るのもいい。

 友人として、雅や木葉やヴァイスに頼るのもいい。

 でも、それなら相応の返礼をするべきだ。


 召喚獣には、スキルによる支援や武具の製作購入。

 自由な時間の提供とか、好きな場所や経験をさせて上げる権利。


 リンとかは、結構外に行きたがるし。

 スルトとかも、本とか結構買って欲しそうにしてる。

 そういうのには答えるのは前提だろう。


 ヴァンはゲームに嵌ってるみたいだし。

 アイはカラコンが欲しいとか言ってた。

 ルウだって、見た目が完全にお姉さんになっちゃったから、色々服とか化粧とか欲しいらしい。


 俺の召喚師としての仕事。

 それは、そんな願いを叶える事だと思ってる。


「先輩って、アホですよね」


「なっ、先輩だぞ一応」


「でも、真っ直ぐでいいんじゃないですか。

 それに、私にとってはその方がいいですし」


「俺の何処がそんなにいいのかね」


「そういう事言わないで下さいって。

 なんか、プライドに効きます」


「どういうプライド?」


「美少女のプライドですけど?」


 自分で言うのがこいつの良い所だよな。


「少女って、もう二十歳じゃん」


「わー、デリカシー無い事言ってるー」


「でさ」


「急に話し切りますね。

 なんですか?」


「木葉も来ないか?」


 だって、考えて見て欲しい。

 面子は、俺、雅、ヴァイスだ。

 スルトを入れても、俺以外の面子がヤバすぎる。


 ヴァイスは最近、雅とチェスをするのが趣味らしい。

 スルトは、謎の対抗意識で最近チェスのルールを覚えていた。


「あの面子とチェスなんて……!

 俺、誰にも勝てる気がしない!」


「それで、私だったら遊び相手になるって事です?」


「そう、頼む!

 俺、その内机ひっくり返す」


「どんだけ子供なんですか。

 ていうか、天童先輩も来るんですよね……」


「雅と何かあるのか?」


「いや多分、仲が悪いって事は無いと思うんですけど……

 なんていいますか……」


 歯切れの悪い木葉。

 音声だけだから表情までは分からない。

 けど、何となく察しは着く。


「先輩……もしかして、気を遣ってますか?」


「……なんで?」


「私と天童先輩の仲を取り持とうとしてませんか?」


 人の気持ちなんて、所詮は移り行く物だ。

 常にそれが不変で、常にそれが手中にあるなんて訳もない。

 だから、無くさない様に気を付ける。


 何となく、雅と木葉もお互いを遠ざけるべきではないと思った。


「悪い人ですね。

 あんまり調子に乗らないで下さいよ。

 私は確かに先輩の事が気に入ってますけど、それはずっとって訳じゃないんですからね」


 分かってるさ。


「でも、できればもう少し楽しい時間が長続きすればいいと思うな。

 最近は疲れる事ばかりだったし」


 たまには俺も大学生らしい事をしたい。

 なんて、思っているのかもしれない。


「分かりました。

 私も行きます」


 って訳で、ボドゲ大会に木葉の参戦が決定した。




 ◆




「やっと来ましたね」


「昇、貴方が最後よ」


「あいあい、ごめんなさいよっと」


 まだ5分前なのに。


 集合場所に行くと、木葉と雅が居た。

 何か、2人とも気合の入った格好をしてる気がする。

 化粧やアクセサリーも多い。


 そして、それともう一人。

 男が居た。


「君には挨拶しておかないといけないと思ってね」


 いつもの鎧姿ではなく、白い防寒ジャケットを着た男。


「確か、エスラって言ったっけ」


「エスラ・ディラン・ルーク。

 よろしくね」


「神谷昇だ……です?」


「一応、24だよ。

 でも、君に敬語は使って欲しくないね。

 僕の仲間を守ってくれて、ありがとう」


 そう言って、頭を下げるエスラ。

 って……24?

 見えねぇ。


 身長は俺より低いくらい小柄。

 金髪でかなり童顔。

 でも、かなりのイケメンだ。


「礼なんか要らないって。

 俺は、俺がそうしたくてやったんだから」


「そう言ってくれると有難いな」


「こちらこそ、あんたのお陰で助かった」


「今日は、僕も参加させて貰っていいかな。

 ヴァイスという存在にも一度会っておきたくてね」


「まぁ、俺は良いけど。

 因みに誰に誘われたんだ?」


「天童さんだね」


 あっそ。


「別に何でもいいけどさ」


「君が聞いたんじゃないか」


「昇、やっかまないの」


「はー? 全然やっかんでないんですけどー!?」


「そうなの?」


 そう言って、俺を見つめて来る雅。

 がっかりしたと言わんばかりの表情で。

 こいつ悪い事してるって。

 絶対狙ってやってるって。


「実はシュレンも誘ったんだけど。

 ボードゲームには興味無いってさ。

 今日も筋トレしてるよ」


 そりゃ良かったよ。

 今だにあいつの事が嫌いな訳じゃない。

 まぁ、ちょっと蹴りたいけど。

 仲良くチェスしましょうは、正味キツイ。


「先輩」


「あぁ木葉、悪かったな無理矢理誘って」


「いえ、けど悪いと思うなら感想くらい言って下さい」


 そう言って、木葉は一回転して見せる。

 少し胸元の空いた灰色のタートルネック。

 なんというか、ボディラインが協調されてる気がする。

 下は黒いタイトスカートだ。


「なんつーか、え」


「え……?」


「良い感じだな」


「なんか今、悪い事言おうとしました?」


「……してない」


 俺は首をブンブンと横に振る。

 木葉はそんな俺を睨んでいた。


「そろそろ行きましょうか」


 因みに俺は予定は殆ど知らない。

 多分知ってるのは雅だけだ。


 思えば、デートは殆ど雅の方が予定を立てていた。


 俺も考えて誘う事はあった。

 でも、俺のは大雑把だった。

 結局、雅が良い感じの提案をしてくれる。

 そんな事が多かった。


 思い出すと、不甲斐なくて少し落ち込む。


「昇、外を一緒に歩くのは久しぶりよね」


「そうだな」


「憶えてる? 映画館に行ったら閉館日だったの」


「俺が誘った奴だろ?

 憶えてるよ」


 ちょっと思い出したく無いけど。


「結局、近くにあった観覧車に乗って帰ったっけ?」


「そう。でも、そういうハプニングが、私は結構好きだったわよ」


「もしかして、ついに心まで読めるようになりました?」


「あら、もしかして昇も思い出してたの?」


 そう言って、クスクスと雅は笑った。


 下は、黒いワイドのズボンで。

 上は、リブニットにレザージャケット。

 なんというか、カッコいい女性って感じ。

 似合うな。


 長い黒髪は緩いウェーブが掛かっていて、右肩から降ろされている。

 化粧は薄く、ナチュラルに。


「行くわよ」


 そう言って、俺の肘に自分の腕を絡ませ。


「っ、ごめんなさい……」


 直ぐに、雅は離れた。


「ま、今日は友達感覚で遊ぶか」


「えぇ、そうね。

 それじゃあ木葉ちゃんとエスラも、行きましょう」


「ちょっと、見せつけ過ぎじゃないですかね……」


「そう言えば、結局どこへ行くんだい?」


「この近くのカフェ」


「そんなところにヴァイスを呼び出していいのか?」


「聖典系列の会社の保有するお店だから」


「「「だから?」」」


「貸し切りよ」


 日曜の昼なんですけど。

 貸し切りて。

 パネェな。


 そう言って歩きだした訳だけど。

 やばい、居心地が悪すぎる。


 今の隊列を説明しよう。

 俺の右に木葉。

 左に雅で、その更に左にエスラだ。


 もっと言おう。

 美女、俺、美女、イケメン。

 だ。


 しかも、エスラと雅は超有名人。

 さっきからめちゃくちゃ見られてる。

 そして、ヒソヒソと聞こえて来る。


「あいつ誰?」


「なんか、釣り合って無くね?」


「雅様とどういう関係よ」


「あいつ以外はレベル高ぇけど」


「モデルの撮影とか?

 そのカメラマンじゃない?」


 うるへぇわ。

 言われなくても、大して顔面が良く無い自覚くらいあるわ。


 けど、目立つのは仕方ないよな。

 実際、俺があっち側だったら見てるだろうし。


「なんか、周りが煩いね」


「そうね。別にアイドルになったつもりは無いのだけれど」


 一際目立っている2人が並んでそんな会話をしている。


 それだけでも絵になる。

 実際、そのツーショットを写真に撮ってる奴も多い。

 木葉は木葉でついでとばかりに盗撮されてるけど。

 俺? 撮る意味が皆無すぎる。


「なんか今、先輩の悪口が聞こえた気がしました」


「気にすんな、別に何とも思ってねぇよ」


「しますよ。先輩がなんとも無くても、私が思うんです。

 だから、ちょっと恥ずかしいですけど」


「え?」


「失礼します」


 そう言って、木葉が俺の右腕に引っ付く。


「それが有りなら、私も良いわよね?」


 左腕には雅の右腕が絡む。


「何この状況……」


「先輩は堂々としてればいいんです」


「そうね。何も悪い事はしていないわ」


 いや、そういう問題なの?


「僕も何かしようか?」


「要らん」


「ははっ」


 こいつ、何笑ってやがんだ。

 こっちは心臓バクバクだよ。

 何でドキドキしてんのかも良く分からん。


 死ぬ程目立ってるし。

 両手に美少女さんが居る訳で。


「さて、悪いけど道を開けてくれるかな?」


 少し大きめの声で、エスラが通行人に話しかける。

 いや、もう通行をやめて取り囲んでるんだけど。


「僕の言う事、聞いてくれると嬉しいな?」


 ああいうのを甘いマスクって言うんだろう。

 エスラが話しかけると、女性の通行人が割れていく。

 それに引きずられる様に、男たちも別れていった。


 たった一言で、道ができてしまった。


「もう離れても……」


「嫌ですけど」


「……どうしてもって言うのなら」


「あ、大丈夫」


 もう、なんでも。


 そして、俺たちはカフェに向かった。










《ちなみに》

 待ち合わせ場所に来た順番は、雅、木葉、エスラ、昇。

 エスラが来た時、2人はナンパに遭っていました。

 この時点で、エスラはそれを助けるという主人公ムーブをかましている。

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