痴女サンタの話によると、サンタ業界はあまりにも厳しそうである。

ぼたもち

現実的なそれ

サンタがいた。


赤を基調にした服。 なんかモコモコしてる白いヤツ。

お馴染みのソリとトナカイは見当たらなかったが……しかしそれはサンタだった。


いや、これはサンタでは無い。


サンタかと思ったが、サンタじゃない。

なぜなら、胸がデカイからだ。


サンタってのはおじいさんで、尚且つ白ひげを蓄えてる人でなければならない。

しかしこいつにはそれがない。

その代わりに、クソでかいおっぱいがついていた。


「おい泥棒」

「は?」


そこから推定するに、こいつは泥棒だ。

現実的な話をしてしまうと、サンタなんてものはこの世に存在しない。

そんな世界で、他人の家でサンタコスしてうろついてるやつなんて泥棒しかいない。

あるいは痴女か。 ああ、痴女か。痴女なのか。


「人の家で興奮するのは勝手だけど、どうか僕の家以外でお願いします」

「……痴女じゃないけど」


おっぱい……じゃねぇやサンタは、手に持った袋を俺につきだす。


「ほらプレゼント」

「アダルトグッズでも入ってんのか?」

「馬鹿じゃないの」


誰もエロいグッズなんて求めてねぇよ、と思いつつ、その袋を受け取る。

ずっしりと、重かった。


何だこの重さ……ラブドールか? いやだったらこんなに小さくないはずだ。


思いながら、袋を開く。



「バカな……ドリキャスだと……」

「それ欲しかったんでしょ」

「なぜ俺がレトロゲー好きなのを貴様が知っている。 痴女のくせに!」


一発殴られた。 多分、顔変形したんじゃないかな……そう思うくらい強烈に殴られた。


「あなたのお母さんから聞いたの。 あと、私は痴女じゃないから」

「うごご……」

「私はちゃんと手続きを済ませた上でここに入ってるから」

「て……手続きだァ?」


ぴらりと、一枚の紙を取り出す。

そこに書かれているのは俺の母親の名前と……サンタ?


「なぁ、このサンタって」

「えぇ、サンタよ。 あごひげ蓄えたサンタ。 サンタクロースさん」

「嘘だ。 存在するはずない」

「いるわよちゃんと。 グリーンランドで今日も女遊びしてんじゃないの」

「嘘だ……そんな酷い大人なはずがない……」

「あのおっさんセクハラ親父だから。 この服も上の趣味らしいし」

「その痴女制服はサンタの趣味……? あぁ何故だ。 夢はとうの昔に壊れていたはずなのに……」


サンタは、聖人だと思っていた。

なんか無条件に、すげぇいい人だと思ってた。


だが現実は違ったらしい。

サンタはただのセクハラ上司だった。 中学二年生の僕が知るには、あまりにも無情な現実だ。


「んで、私はそこのバイトね」

「バイト? 働いてるのか?」

「時給の割がいいから」

「いくら?」

「一個プレゼント運ぶごとに一万」

「うおすげぇ……」


ホワイト企業じゃん、サンタ業界。


「まぁソリもトナカイも支給されないから、自力でやんなきゃ行けないけど」

「割に合わなくないかそれ……クソ大変じゃん……」


どうやら我々に届けられるプレゼントは、サンタさんが一つ一つ、ソリとトナカイで持ってきてくれるものでは無いらしい。

今までもこういうバイトの人が持ってきてくれたのかな。

そう思うと、プレゼントを頼むのも申し訳ない気がしてくる。


「大変じゃないんすか」

「そりゃ大変よ。 あんたみたいなクソガキにバレたらこういうことしなくちゃいけないし」

「いやそうのではなく。 重いもの運ぶ的な意味で」

「それに関しては大丈夫。 陸上で鍛えてるから」

「陸上選手なの?」

「馬鹿なの? 陸上部よ」

「大学生?」

「高校二年生」

「の割にはでかい……」

「どこ見てんのよエロガキ」


蹴られた。 腹を思いっきり蹴られた。


腹を抱えてうずくまる。 絶対サンタに連絡して、こいつ解雇してもらおう。

俺は心に決めつつ、台所へ向かった。


「んじゃ、私は帰るから。 このことは他の人に伝えないように」

「ちょっと待ちやがれ」

「なに。 次のとこ行かないと給料減るんだけど」


「俺の家に来ておいて、キッチンを覗かないのはナンセンスだぜ……嬢ちゃん」


殴られた。 2回目だった。 もう痣は確定だと思う。 なんか熱くなってきた。 冬なのに。


「なにこれクッキー? トナカイの形の……」

「サンタさんに感謝の気持ちを込めて、毎年作ってるんだ」

「あー……そうなんだ」

「お前がいるってことは……やっぱり、毎年サンタにクッキーは届いてたんだな」

「いや、それは無いと思う」

「は?」


いやいや、そんなはずない。


だって毎年、クッキーは無くなっていた。

これまでは母親が食ってるのかな……とか思ってたけど、サンタがいるならサンタが食べてたんだろ。



「こういうの、何入ってるかわかんないから食べちゃダメって決められてんの」

「理由が現実的すぎる……」


まぁそうだよな。 どこの誰とも知らん子供のクッキーを食べて体調を崩した……とかなったら、責任問題めんどくさいもんね。


サンタの野郎、企業の安定感を得るために、子供の夢と希望を消し去りやがった。


「だからこういうのはお母さんとかが食べてるんじゃない」

「ちくしょう。 俺はサンタに届くと思って作っていたというのに……」

「まぁいいじゃん。 お母さんが食べてくれるんだから」

「……」


サンタはしみじみと話始める。


「クリスマスってのは、確かにプレゼントがメインかもしれない。 でもさ、クリスマスパーティーもプレゼントも、お母さんが頑張らなきゃ開催されないし貰えないものだから」

「……」

「だからそういう努力をクッキーで返せていたなら……それはそれでいいと思わない?」

「まぁ……確かに」

「多分息子のクッキー食べれて幸せだと思うよ」

「……確かに」


なんか涙出てきた。 母ちゃん。いつもありがとう。 迷惑かけてごめんな。


「じゃ、私は帰るから。 早く寝なさいよ」

「ちょっと待て!」

「今度はなに?」

「ほれ」


言って、そいつを投げてやる。


「なにこれ……プロテイン?」

「陸上部なんだろ。 飲めよ」

「いやだからってプロテインは……しかもなんでバナナ」

「俺が好きだからだよ。 定期購入してんの」

「あっそう……、一応貰っとくけど」

「おお、それはいいのか」

「さぁ? まぁでも既製品ならいいでしょ」


そこら辺ガバいのかな、サンタ業界。


「……私はこれ飲んで頑張るから、あんたは睡眠剤でも飲んで寝なさい」

「どの道そろそろ寝るよ。 あとちょろっとYouTube見て」

「それ止まらなくなるやつだからやめといた方がいいわよ」

「……はいはい」


それじゃあ、と手を軽くあげて、サンタは玄関から出ていった。


何となく、クッキーを一枚手に取る。


「……夢でも見てんのかな、俺は」


言って、ひと口かじる。






◇◇◇







「……11時だと?」


朝目覚めた時には、既に日差しが部屋を照らしていた。

11時起床という絶望的状況。


それと……昨日の出来事。


「やっぱ、夢だったか」


階段を降りて、台所へ向かう。


「おはよう」

「あんたいつまで寝てんの」


母親はいつも通りラーメンを煮込んでいた。

うちの土曜の昼ごはんはラーメンだから。 見慣れた光景だった。


「お、クッキー無くなってる」

「サンタさん食べてくれたんじゃない?」

「そりゃよかった」


どこか、母親の顔は笑ってるみたいだった。



「……そんなことよりあんた、その顔の痣どうしたの」

「はぁ? 痣?」


何かと思って、洗面台の鏡を見た。




俺の頬には2つ。 確かに青痣ができていた。

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痴女サンタの話によると、サンタ業界はあまりにも厳しそうである。 ぼたもち @djdgtdjn

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