俺は毎年クリスマスイブにイルミネーションを見に来たカップルを1人で観察している。が、今年は観察はほどほどに2人でイブの夜を過ごす。

同窓会後、熱が出た

第1話 12月24日

 俺は、天知 聡助(あまち そうすけ)。大学2年生。身長は163㎝。誕生日は4月、つまり現在20歳だ。

 そんな俺が、12月24日、クリスマスイブのイルミネーションを見に行っていると言えば、「彼女と来ているのか?」などと思われても仕方がない。だが、1人である。俺の特徴を言おう。オタク・チビ・メガネ・隠キャである。彼女などいるわけもなかろう。

 さて、そんな俺がイルミネーションを見に行っているわけだが、やっぱりカップルが多いな。羨ましいかって?別に。面倒くさそうだし。...羨ましくないもん。

 それはそうとして、カップルを観察するのが趣味なのだ。特に初々しいカップル。

 「自分はやらないかな...見るだけで充分」という意味では、スポーツ観戦と似たようなものかもしれない。


 とか言ってたら、前方に典型的な初々しい高校生カップル発見!

「綺麗だね。」

「うん。」

 気まずいような、もどかしい空気が流れている。

「来年もまた、来ようね。」

「あぁ。」

 2人は、手を繋いで向こうの方へ行ってしまった。


 ...萌えるなぁ!あのまだ、手を繋ぐのにも照れてる感じ、絶対付き合ってそんなに経ってないべ!?

 「来年も来ようね?」なんて、是非是非また来て欲しいものだなあ!

 不審者みたいだな、だって?いいだろ。別に。というかあの人たちむしろ、見せつけているじゃん。

 いやー、隠キャとしてクラスで1人、ただただ盗み聞きして過ごしていた高校生活の休み時間で培った地獄耳がここで役に立つなんてなぁ。

 人生わからないもんだ。


 ...なんか、泣き声が聞こえる。

「あいつは...」

 何度か大学の講義で一緒になったことのある同回生の、誰だっけな...上西?だったかだ。俺と一緒でチビなんだが、ジャニーズにいそうなめっちゃ可愛い顔してて、男女両方から人気が高かったはずだ。なんでこんなイルミネーションが並ぶ場所の真ん中で泣いているんだ?このまま放っておくのも、他のカップルのためによくないしなぁ...


「おーい、大丈夫か?」

「うぅ....ヒック......うぅ....」

「おい、上西、大丈夫か?」

「ヒック..ほぇ?...誰?」

「とりあえず、向こうのベンチへ座れ。温かい飲み物でも買ってきてやるから。」


「んで、何があったんだ?」

「....ヒック.........」

「まぁ、別に言いたくないなら、言わなくてもいいけど。」

「...ヒック.....ううん...ごめん...ヒック..聞いて欲しいかも。」

「そうか、ゆっくりで良いからな。」


 要約すると、今日、付き合っていた先輩に振られたらしい。まぁ、大方そうじゃないかと思っていた。先輩とは家が隣同士で幼馴染ということもあり、幼稚園の頃から仲が良かったそうだ。次第に恋心が芽生えて、去年の12月24日に告白して、ようやく付き合うようになったらしい。...ちょっと待て。つまり、こいつは、1周年記念のクリスマスイブに振られたってことになるのか!きっつ!!


「ぼくね、今日誕生日だったんだ。」

 ...なるほど。1周年記念のクリスマスイブの誕生日のイルミネーションデートで振られたのか。大三元、役満だな。こりゃ。お相手は鬼か何かかな?なんでわざわざ今日に振った?いつでもタイミングあったんちゃうん?マジで何やってんすか...?


 呆然としていると、上西が、

「ごめん、こんな話して...でも、ありがとう。少しは、気持ちの整理がついた気がするよ...こんな遅くまで話聞いてもらっちゃって...用事とかあるよね。本当ごめん...もう帰るよ。じゃあね。」

「...待て。お前、今日が誕生日って言ったよな?俺と同級生だから今日から20歳というわけだ。どうする?一緒に酒でも飲みにいかねーか?愚痴ならいくらでも聞いてやるぞ?」

「...本気で言ってる?」

「嫌なら別にいいんだけどよ。」

「...ううん、行くよ。今は誰かと一緒にいたい気分だし...」


 スマホで近くの居酒屋を探すと、徒歩10分圏内にあった。


「こっちは、こんなにすきだったのに!ゆきのばかー!うえーん」

「さっきからそればっかりじゃねぇか。もうお酒は終わりな。はい、水。」

「のまないと、やってられるかーってはなしなんだよぉ、のませてくれよー」

「ベタベタ引っ付いてくんな。邪魔だ。」

 飲ませすぎたかもしれない。しかしまぁ、仕方ない。付き合ってやるって言ったし、こいつに今日起きたことを考えると、飲みすぎても仕方ないて思うし。しっかし、ゆきって子もひどいことするよなぁ。こんな日に振らなくたっていいのに。


「もう閉店だよ。帰ってくれ。」

「あ、はい。すいません。ほら、帰るぞ。」

「いやですー。かえったら、ゆきのいえがとなりだもん。そんなところかえりたくないー」

「じゃあ、どうするんだよ。飲み直すか?っていっても、この時間空いてる店ないんだよなー」

「いえ、つれてってくださいよぉ。コンビニでぇ、お酒かってぇ、飲み直しましょ?」

「ったく、しょうがねぇなぁ。家には入れてやる。ただ、お酒はもうやめとけ。」


 家に着いた。

「いま、なんじですか?」

「ん?1時50分だな。12月25日の。」

「せいのろくじかんはいっちゃたじゃないですかぁ。ほんとだったらぼくも...うぇーん!」

「あー、もうわかったわかった。つらかったなぁ。安心しろ、いくらでも聞くから。」

「ちかすぎて、いせいとしてみれなかったってどういうことですかー!すきっていっつもいってくれたのにーかぞくのすきだったとかなんなんですか。もう、やだぁ。それにぃ____________」

 もはや俺は半分も聞いてない。愚痴を受け流すだけである。

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