第48話 カタストロフィⅡ(VS星を見つめる者)

「そんじゃ、ダーリンにカッコいいところを見せてやるとすっか」


「ダ、ダーリン? アスカ、本当にどうしちゃったのさぁ」


「うっせぇ。いいから、あの目玉を倒すぞ」


 アスカとレイ。

 シスターと神父の格好をした2人は、空に刻まれた亀裂から覗く巨大な瞳を見上げる。

 なぜだろうか?

 別にあの目玉と面識は無いのだけど、妙に胸がざわつくというか……『このロリコン共め!』と言われているような気がする。


「ねぇ、アイツらに任せていて本当に大丈夫なわけ?」


「たしかに、アレだけのデカブツを倒せる火力があるようには思えなかったが」


 俺に炸裂させた爆発する弾丸は威力が弱いし、レイの拘束攻撃も相手との距離が遠いと意味を成さないからな。

 

「さっきはあえて説明しなかったが、元々アスカ達が試合向きの能力者ではない。彼女達の強みは、もっと他にある」


「強み……?」


「見ていれば分かる。我ら『八神使』の称号は伊達ではないと」


 カルチュアの言葉に、俺はちょっとだけ期待を高める。

 あの子達が一体、どのように巨大目玉を攻略するのか……見物させて貰おう。


「クソ兄貴。まずは都市への被害を防ぐぞ」


「うん。任せて」


 アスカは地面に放り投げていたライフル銃を足でポーンと上に蹴ってからキャッチ。

 その銃口を空に向けたところで、レイが両手をライフルへと向ける。


「森羅万象を構成せし四大精霊よ……! 我らに力を与え給え!」


「おらよっ!」


 バンバンバンバン。

 レイの詠唱が終わるのと同時に、アスカは合計4発の弾丸を放つ。

 赤、青、緑、黄。

 それぞれ異なる光を纏う弾丸を、都市の東西南北へと向けて。


「四聖結界 ~ダーリンへの愛を添えて~ なんてな」


 言うが早いか、四方に散った弾丸が花火のようにパァンと弾ける。


「アレは……!」


 弾丸が弾け散った箇所から、巨大な魔法陣が展開していき……上空を覆い尽くす。

 まさしく、魔法結界って感じだ。


『グゴォォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』


「あ? うるせぇな。つうか、目玉しかねぇのに、どうやって吠えてんだソレ?」


 アスカは【星を見つめる者】にツッコミを入れつつ、ライフル銃をクルクルと回す。


「アスカ、どれくらいで行く?」


「んー……力は大した事無さそうだが、デケェからな。余裕を持って80%だ」


「うん。じゃあ……」


 レイは頷くと、首から下げた十字架を両手で握りしめていた。

 対するアスカはというと、例の魔眼を見開いて……視線を上へ向ける。


『グォォォォォォォォッ!』


 ちょうどそのタイミングで【星を見つめる者】も攻撃を開始。

 バカでかい瞳に集中させた光で、地表に向かってレーザー光線を発射してくる。


「攻撃方法はテンプレ通りだな。つまんねぇ奴」


 レーザー攻撃は無事、上空に展開された魔法結界に阻まれた。

 しかし、そう長くは持ちそうにないのか……バキバキと巨大なヒビ割れが魔法陣に刻まれていく。


「アスカ、完成したよ」


 ここでレイがアスカに駆け寄り、何かを手渡す。

 さっきまでその手に握られていたのは十字架のはずだが、なぜか今は一発の弾丸へと変わっている。

 もしかして、十字架を弾丸へと変化させたのか?


「後はアタイの仕事だ」


 アスカは受け取った弾丸をライフル銃に装填。

 そして照準を空に浮かぶ巨大目玉へと向ける。


「魔眼解放……80%」


 呟きと同時に引き金を引いたアスカ。

 大層な前置きとは裏腹に、放たれた弾丸は至って平凡そのもの。

 ただまっすぐに【星を見つめる者】へと向かっていくだけ。


『グォ……?』


 相手も、こちらがこんな攻撃をしてくると思っていなかったのか。

 迫りつつある小さな弾丸に、大した警戒も見せない。

 だが、その油断と満身こそが……巨大目玉の命取りとなった。


『モッ!?』


 ぽんっ。


「「!?」」


 それはまるで、瓶からコルクを抜いた時のような音。

 とても弾丸が炸裂した時に発生するとは思えない……どこか気の抜ける音だった。


「ふぃー。いっちょ上がりっと」


 しかし、それで全てが終わった。

 アスカが最後に放った弾丸が【星を見つめる者】に当たった瞬間、その存在はぽんっと言う音を残して姿を消してしまったのだ。

 赤く染まり、禍々しい空気を漂わせていた空も……十数分前と同じように気持ちの良い晴天へと戻っている。


「ほう……? 弾丸式封印術、大したものだな」


「知っているのか、カルチュア?」


「ああ、アイギス兄妹が得意とするのは封印術なんだ。レイの持つ封印の力を、アスカが魔眼の力を用いて増幅させる」


「封印……」


「先程、貴様の動きを止めたのもレイの封印の力だ」


 つまり、相手の行動すらも封印出来るって事か。

 色々と応用出来そうな能力だな。


「我があの2人と勝負して、分が悪い理由がそこにある。いくら不死身の我でも、封印されてしまっては太刀打ち出来ん」


「あー、納得したよ」


 さっき戦った感触だと、どう考えてもカルチュアの方が強かった。

 でも、封印戦法が有りとなると話は大きく変わる。


「やったね、アスカ! ボクの作った封印用の弾丸が……ぼべっ!?」


「ダァーリーン♡ アタイの活躍、見てくれた?」


 駆け寄ってきた兄の横っ面を引っ叩き、こちらにダッシュしてくるアスカ。

 吹っ飛んだレイはズザザザァァァァァッと、地面を削りながら転がっていた。


「まさかお前の切り札が封印だったなんてな」


 俺も知らずに受けていたらヤバかったかもしれない。

 カルチュアの言うように、伊達に八神使ではないということか。


「そんなに褒めるなよぉ♡ 子供ができちゃうだろぉ?」


「……え」


「あ、もうとっくに宿ってるかもしんねぇよな。赤ちゃんって、好きな人と愛を育むと出来るって聞いた事あるし!」


 くねくねくね。身をよじりながら、子供のようなことを口にするアスカ。

 どうしたものかと俺が思っていると、隣から激しい怒気を感じる。


「は? 赤ちゃんの作り方も知らないおこちゃまが、アタシの担い手にちょっかい掛けてるんじゃないわよ! なんなら、今から子作りの実演をしてあげるわよ」


「やらんでいい」


 暴走一歩手前のルディスを羽交い締めにしつつ、俺は一つ気になっていた事を訪ねる。


「ところで、ちょっと聞いてもいいか?」


「うん♡ ダーリンからの質問になら、なんでも答えてやるぞ♡」


「あの目玉をさっきの弾丸で封印したんだよな?」


「ああ、バッチリ封印してやったぜ。後は時間を掛けて封印の中身を痛めつけて弱らせて、存在そのものを抹消してやるだけだ」


「それじゃあ、その封印した弾丸ってのはどこにあるんだ?」


「…………」


 黙り込むアスカ。

 さっきまでのメロメロな顔から一転し、なんともいえない真顔状態。

 そして次第に、その額には大粒の汗が浮かび始める。


「ちょっと待て、アスカ。貴様、もしかして……!?」


「まぁ、そのうち……拾っておくからよ。今はいいじゃねぇか、なぁ」


「貴様ぁぁぁぁぁぁっ!! さっさと拾ってこんかぁぁぁぁぁぁっ!!」


「ああもう! うるせぇなぁ!! ちゃんと封印してあるんだから問題ねぇよ!!」


 取っ組み合いの喧嘩を始めるカルチュアとアスカ。

 やっぱり、なんだかんだでこの2人は仲良しなのかもしれない。


「弾丸を見つけるまで戻ってくるな!!」


「分かったよ!! 探してくりゃ、いいんだろ!? おら、クソ兄貴!! いつまで寝てんだ!! 弾丸を探しに行くぞ!!」


「うぐっ!? 行くよ、行くからもっと蹴って……!」


「ダーリン……♡ すぐに見つけてくるから、待っていてくれよ♡」


 結局はカルチュアに押し切られ、アイギス兄妹は巨大目玉を封印した弾丸を探すために城を出ていってしまった。


「なんだか、騒々しい連中だったな」


「やれやれだな。他のメンバーはまだまともなんだが」

 

「アンタ達を見ていると、とてもそうは思えないけどね」


 俺もルディスに同感だな。

 きっと他の八神使もクセが凄いに決まっている。


「ねぇ、担い手。コレ以上面倒に巻き込まれる前に、さっさと退散した方がいいんじゃない?」


「それもそうだな。ピィ達を回収して、さっさと退散するか」


 そんな話をルディスとしていた……ちょうどその時。

 城の方から、慌てた様子のメルーニャが走ってくる。


「お兄さーん!!! 大変っすよー!!」


「ん? どうしたんだメルーニャ?」


「た、大変ってもんじゃないっす!! ピィが、ピィが……!!」


「ピィに何かあったのか!?」


 ただならないメルーニャの様子に、俺は血相を変える。

 あの子に何かあったらと思うと、俺は気が気ではない。

 

「早く教えてくれ! 一体何があったんだ!?」


「う、うぅ……! ピィが……」


 泣きじゃくりながら崩れ落ちるメルーニャ。

 駄目だ。今の彼女はまともに話せる状態じゃない。


「ルディス、カルチュア!! メルーニャを頼む!!


 俺は全速力で、ピィを捜すために城へと駆けていく。

 頼む、無事でいてくれ。

 そんな祈りを抱きながら城の中へ足を踏み入れると……


「…………」


「!」


 いた。

 特に何も変わらない様子で、とことこと歩いている。


「ピィ! 大丈夫か!?」


 俺は急いで彼女に駆け寄ると、その両肩を掴む。

 するとピィは俺の顔をじっと見つめた後、小さく首を傾げた。


「大丈夫か、とは?」


「いや、お前に何かあったんじゃないかって……」


「特に問題はありません。ポイント保持、身体機能ともに正常です」


「……ピィ?」


 淡々と機械的な声で話すピィに、俺に違和感を覚える。


「どうしたんだ、急に。なんか、話し方が変だぞ?」


「そうでしょうか? それよりもマスター、確認事項がございます」


「は?」


「私はポイントカードです。なぜ、ピィとお呼びになるのですか?」


「……なっ!?」


 どういう……事だ?

 これじゃあまるで……


「もしかしてお前、記憶喪失……なのか?」


「質問の意図が分かりません。ポイントカードには記憶など不要です。必要なのは記憶ではなく、ポイントの記録でしょう?」


 おいおいおい!

 これは一体、何が起きているっていうんだ……!?

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