第33話 決心、鈍っちゃうっすよ
「ふぃーっ。良いお湯っすねぇ」
かぽーん。
大浴場にてあれだけ騒ぎに騒いでいたピィ達であるが、ようやく体を洗い終えて湯船に浸かる。
4人並んで「ほへぇー」と、一息を漏らしながら。
「レストーヌ城に泊まった時のお風呂もすごかったですけど、ここも中々です!」
「入浴は身も心も清める為に大切な行為だからな。我が国では、特に力を入れているんだ」
「それはありがたいわね。アタシも入浴は好きだから」
「ボクにゃんはあんまり好きじゃないっすねぇ。猫の性というか、なんというか」
「その割には一番、心地よさそうな顔をしているな」
「にゃふふふっ。こうやって、みんなで仲良く入浴するのは楽しいっすからぁ」
言いながら、メルディは隣のカルチュアに抱きつく。
「こら、触るなと言っているだろう?」
「にゃふふ、スベスベっすー」
「……しょうがないヤツだ」
いつもなら叩いて分からせるところだが。
彼女の手の甲の紋章を目にしたら、拒否する事など出来ないカルチュア。
「沢山の友達と一緒に入浴して、洗いっこするという夢も叶ったし……依代になるのも案外、悪い事ばかりじゃないかもしれないっすね」
「メルディ……」
「さて、それじゃあお次は。お楽しみタイムと行くっすよ」
ざぱぁーんと湯船から上がったメルディは、尻尾をフリフリと揺らしながら男湯と女湯を隔てる壁へと向かっていく。
「何をしている?」
「何って……勿論、これからお兄さんを覗くんすけど?」
「「「な、何ィーッ!?」」」
あっけらかんと、とんでもない発言をするメルディ。
そんな彼女に、ピィ達は揃って驚愕の声を上げる。
「な、ななな何を考えているんですか!?」
「そうよ!! 担い手のおちんち○を見ようなんて、とんだ変態だわ!!」
「犯罪だぞ!!」
「えー……でも。ボクにゃん、もうすぐ死んじゃうかもしれないし」
「「「うっ!?」」」
「キスすらした事のない処女のまま死ぬのは、百歩譲っていいっすよ。でも、ただの一度も男の人の裸体を拝まずに逝くのは……流石に未練っす」
頭の猫耳をしゅんとさせて、悲しげに俯くメルディを見て……同情の念を禁じ得ないピィ達。
たしかに気持ちは痛いほどに分かる。
自分達が同じ状況なら、大好きな流斗の【ご立派様】をひと目見てから死にたいと願うに違いなかった。
「……そういう事なら、仕方ないな」
「メルディさん。私達もご協力しますよ」
「……ま、まぁ。担い手の戦闘能力を正確に把握するのは、武器として当然というか。アタシも……興味が無いわけじゃないし」
「「「「……」」」」
ざぱんざぱんざぱん。
残る3人も浴槽から上がり、メルディと同じようにしきり壁の前に進む。
「みんな……これは高く険しい壁っす。でも、これを乗り越えた先にボクにゃん達の求めるシャングリラが広がっているんすよ!」
「ああ、まさにエデンとでも呼ぼうか」
「未知が満ちてるフロンティアってところね」
「違いますよ。マスターのお○んちんですよ、おち○ちん」
「「「「……ゴクッ」」」」
彼女達は息を呑み、しきり壁をゆっくりとよじ登っていく。
ツルツルで掴みどころのないはずの壁だが、エロスを求める乙女のパワーは不可能すらも可能にしてしまう。
非力なはずのピィですら、まるでロッククライマーのようにするすると上がっていく。
「「「「…………っ!!」」」」
そして彼女達はたどり着く。
天井と壁の間に、わずかに開かれた隙間。
そこから顔を出し、男湯で体を洗っている流斗の姿を補足する。
「にゃっ……これは……!?」
「デッッッッ!! エッッッッッッ!!」
「マスター……私の未熟な体じゃ、まだ受け入れられなさそうです♡」
「ふつくしい……」
四者四様の反応を見せながら、彼女達は存分にその光景を目に焼き付ける。
一方の流斗はというと……
「(……浴場って結構声が響くから、丸聞こえなんだよなぁ)」
女湯での会話が全て筒抜けであったので、メルディの気持ちを優先し……羞恥に耐えながらも、覗きを容認するのであった。
【翌日 街道】
砦での一泊後。
俺達は大図書館を目指し、リガインという街へ向かう事になった。
俺とピィ、ルディスはクインに乗って。
カルチュアとメルディがディープに乗って。
「んっんー! こうして集団で移動するの、いいっすねぇ」
「昨日からそればっかりだな」
「だってだって! メチャクチャ嬉しいっすもん!」
「……こんな事になるなら、もっと貴様と行動を共にしてやるべきだったな」
「にゃはっ、カルチュアは王女だから仕方ないっすよ」
隣に並んで並走するカルチュア達は、そんな会話を繰り広げている。
例の日まで残り4日。
こうした他愛ない会話も、彼女達にとっては貴重な時間となるのだろう。
「メルディさん……いい人なのに」
『やかましいヤツだけど、出来れば死なせたくないものね』
俺の背中にしがみついているピィと、背負われているルディスの呟き。
ああ、俺だって同じような気持ちさ。
「……」
いざという時はポイントを消費してでも、彼女を救わないといけないかもな。
もしくは、この指輪……女神のタブレットの力を。
「リュート! この先の森を抜ければ、大図書館のあるリガインはすぐだ!」
「ああ! 分かった!」
「……ん!? ちょっと止まるっすよ!!」
もう少しで目的地へ到着。
そんなタイミングで突然、メルディが大声を出した。
「どうした?」
「……今、どこかから悲鳴が聞こえたっす」
「悲鳴?」
「間違いないっすよ。それに、魔物のうめき声も」
ぴょこんぴょこんと動く猫耳。
俺達人間よりも、優れた聴力を持っているようだ。
「どこかで魔物が人を襲っているんでしょうか?」
「森の中なら、ありえるな」
「よーし、それなら救助に向かうっすよ!!」
「待て、メルディ。今はそんな事をしている場合では……」
救助に向かう事を提案するメルディに対し、難色を示すカルチュア。
たしかに今は、あまり寄り道をしている場合ではないが……
「誰かを助ける事も大事っすよ。それに、こうしてパーティーで魔物と戦う事も、ボクにゃんにとっては憧れっすから」
「くっ……分かった」
カルチュアとて、誰かを見捨てる選択は嫌なのだろう。
その上、こうしてメルディ本人に懇願されたのでは断りようが無い。
「大丈夫だよ、カルチュア。サクッと片付けて、リガインに向かおう」
「……そうだな。では、急ぐぞ!」
こうして俺達は急遽、進路を変更して。
悲鳴の聞こえた方向へと進むことになったのだった。
【森林 奥地】
「きゃあああああああっ!!」
「ガルルルルァァァァァッ!!」
「うぐぁっ……あ、ぁぁ……」
獣の唸り声。絶望に染まった悲鳴。
引き裂かれる肉の音。辺り一面に撒き散らされた血痕。
「……っ!」
俺達が現場に到着した時。
もはや全てが手遅れになっていた。
「うっ……!? おええええええっ!!」
「見るな、ピィ」
凄惨過ぎる光景を見て、ピィが堪えきれずに吐き出す。
『……胸糞悪いわね』
ルディスもまた、こみ上げる不快感を抑えられずにいるようであった。
「おのれ……!!」
犠牲になったのは一家だろう。
最初に魔物に立ち向かったと思わしき父親は、バラバラ。
後方で、子供に覆い被さる形で絶命している母親。
その背中に無数に刻まれた爪痕を見れば、彼女がどんな想いで子供を守ろうとしていたのかが伺いしれるものだ。
もっとも、その母子はすでに――
「グルァ?」
「グルルルルルッ!」
「キシャァァァッ!」
駆けつけた俺達に気付いたのか、屍肉を貪っていた黒い獣達がゆらりと一斉に……こちらへ振り返る。
狼のような見た目をした獣ではあるが、その尻尾は蛇になっており、背中にはコウモリのような羽が生えていた。
キマイラの亜種、といった感じだろうか。
サイズはそれほど大きくはないが、代わりにかなりの数で群れているようだ。
「にゃ、はは……ごめんなさいっす。ボクにゃん達がもっと早く砦を出て、ここを通りかかっていれば救えたかもしれないのに」
ディープから降りたメルディが、トンファーを握りながら獣達に近付いていく。
「メルディ、俺も……」
「いや、リュート。ここは彼女に任せよう」
加勢しようとした俺を制止するカルチュア。
どうやら何か、思う事があるらしい。
「でも、待てよ。メルディ1人じゃ……」
メルディのレベルは42。
決して低い数字ではないが、かといって過信出来る数字じゃない。
敵の数は多いし、ここは協力すべきだと俺は思った。
「リュート。メルディもある意味、貴様と同じだ」
「え?」
「……彼女は、あの言動のせいで仲間を作れなかった。だから、冒険に出て魔物と戦う機会にあまり恵まれずに過ごしてきたんだ」
そこで俺はハッとする。
カルチュアが何を言いたいのか、ようやく理解した。
「お前ら全員、ここで仕留めておくっすよ」
「「「「「ガァァァァァァァッ!!」」」」」
一斉にメルディへと飛びかかる黒い獣達。
「ハァァッ!!」
トンファーを振り回し、左右の獣を1体ずつ叩き落とすメルディ。
さらにその勢いを利用して体を捻り、回し蹴りを3匹目にヒット。
「ガルゥッ!」
「うらぁっ!!」
背後に回り込んできた4匹目には肘鉄をお見舞いし、上に飛んだ5匹目の攻撃はギリギリで回避してから踵落とし。
的確に頭部を踏み潰し、頭を粉砕する。
「「「「「グルァッ!?」」」」」
わずか一瞬の間に、5匹もの仲間が瞬殺。
生き残りの獣の1匹は、怯えたように後退りをするが……
「ぐぎゃっ!?」
メルディがブーメランのように放り投げたトンファーが直撃。
トンファーに刺し貫かれ、近くの大木に磔状態となる。
「絶対に、逃がさないっすから」
「「「「グルァァァァァァッ!!」」」」
やぶれかぶれに、メルディに襲いかかる獣達。
しかし結果は、一度目と同じ……瞬殺に終わる。
「強い……」
「当たり前だ。彼女の武術の腕は我と同等……いや、我をも凌ぐ」
レベル0だと馬鹿にされる事を毛嫌いする俺が、まさか同じようにレベルで相手を判断して実力を見誤るとはな。
なんとも情け無い話だ。
「ふぅー……終わったっすよ。獲物を全部独り占めして、悪かったすね」
単純な話だ。
魔物の討伐経験が乏しいメルディは、レベルを上げられなかった。
ただそれだけで、本来の実力は……カルチュアに並ぶクラスなのだ。
「ただし、あくまでも肉体の強さと武術の腕だけだ。その証拠に……」
「ああ、詰めがちょっと甘いな」
「うにゃ?」
その瞬間、メルディの背後の茂みがガサガサと揺れて。
「グギャオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
さっきメルディが倒した獣達の十倍近い巨躯を持つ獣が飛び出して来て……メルディに襲いかかる。
「やばっ!?」
咄嗟の事に体を動かせずにいるメルディ。
しかし、獣の攻撃が彼女を襲う事は無かった。
「っはぁっ!!」
「がぎゃっ……!?」
クインの背中から跳躍し、俺はアックス状態のルディスを一閃。
生み出した斬撃波がボス獣の身体を真っ二つに両断する。
「にゃぁ~~~~!?」
「っとと、大丈夫か?」
俺は尻もちをついているメルディの隣に着地、彼女に手を貸して助け起こす。
「う、うにゃ……あ、ありがとうっす」
「気にするなって。仲間だろ?」
「にゃ、にゃかま……」
「メルディ。戦いになると、注意力散漫になるのがお前の悪いクセだ」
「うん……でも、えへへ。こうして仲間に助けて貰えるのは嬉しいっすね」
カルチュアの言葉に頷きつつ、メルディは口元を綻ばせる。
しかしすぐに、悲しそうな顔になって……顔を俯かせてしまった。
「……参ったにゃー。せっかく、覚悟を決めておいたのに。これじゃあ、死にたくなくなっちゃうっすよ……」
消え入るように呟かれた彼女の声は、俺達には届かない。
でも、彼女が何を思っているのかは……この場にいる全員が理解していた。
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