第28話 大陸守護者【八神使】への誘い
「……とまぁ、そういう感じでインポティを人間に堕としてやったんだ」
「「あんぐり」」
騒ぎに包まれたパーティー会場を抜け出し、城の庭園へと出た俺はピィとルディスに事の経緯を一から説明した。
二人とも、その内容に空いた口が塞がらない様子であったが……
「インポティ様はマスターを悪く言っていましたからね。堕天には同情しますが、こうなってしまったのは自分の蒔いた種が原因ですよ」
「そうね。そもそもアタシはアイツの事なんてそこまで好きじゃなかったし」
「理解して貰えたようでホッとしたよ」
自分でも少しやりすぎたかと思っていたくらいだからな。
もしも二人からドン引きされたり、嫌われたりしたら落ち込んでいたところだ。
「それにしても、まさか神のタブレットを奪い取るなんて」
「やるじゃない担い手。これで好き勝手やり放題だわ!」
「いや、承認にはインポティの顔認証が必要でさ。残念な事に、アイツがいないと意味が無いんだ」
「……むぅ。もう少し私の肉体を成長させて貰いたかったのですが」
「あらぁ、ピィ。その微妙に足りないおっぱいを大きくしたかったの?」
「そ、そうじゃありません!! マスターの赤ちゃんを産めるくらいの体に成長したかっただけです!!」
「何よそれ!! ナイスアイデアじゃないの!!」
「いやいやいや、ナイスアイデアじゃないから」
「「あいたぁっ」」
ぺちんぺちんと、マセガキ2人にデコピンをお見舞いする。
全く、この前きちんと【理解らせた】はずだというのに……
「リュート! こんな場所にいたのか?」
「ん? カルチュアか」
俺がピィ達に躾をしていると、カルチュアが近寄ってくる。
どうやら俺達が会場を抜け出した事に気付き、追いかけてきたようだ。
「悪い、少し外の風を吸いたくてさ」
「フッ、気にするな。ああいう堅苦しい空気が苦手なのは我も同じで、貴様の気持ちは十二分に分かる」
「へぇ? 王女様なのに、意外だな」
「我はドレスを着て社交の場にいるより、鎧に身を包んで戦場に出る方が性に合うらしい」
「はははっ、それは言えてるよ」
「「むむむぅー!! ぎゅーっ!!」」
カルチュアと少し談笑をすると、頬を膨らませたピィとルディスが両脇から俺にしがみついてくる。
この2人は本当にカルチュアを警戒しているんだな。
「……なぁ、リュート。前から気になっていたのだが、貴様は冒険者なのか?」
「うーん。冒険者……みたいなもんかな」
「そうか。では、もうじきこの国からも旅立ってしまうのだな」
「ああ。この子達と一緒に、旅を続けるよ。ちょっとワケあって、俺は俺の強さを世界中に広めないといけなくてさ」
レベル0でも強者が存在する。
それを証明しない事には、いつまでもザコだのゴミ扱いされてしまうからな。
「強さを……?」
「言っておきますけど!! マスターを引き止めるのは駄目ですからね!!」
「担い手はアタシ達とラブラブいちゃいちゃちゅっちゅな冒険を続けるのよ!!」
「……我も王女という立場が無ければ同行したいものだが。それは叶わぬ夢だな」
乾いた笑みを浮かべ、カルチュアは首を横に振る。
これほどの美人が憂いを秘めた表情を見せるのは、なんというか男心をチクチクと刺激してきますよ!
「ところで、強さを広めたいと言っていたな? それなら、良い話があるのだが」
「良い話だって?」
「ああ。我が【八神使】の1人である事は貴様も知っているだろうが……」
「…………?」
「おい、まさかそんな事も知らないのか?」
「いやぁ……なんというか、そういうのには疎くてさ」
「……では【八神使】の説明からしよう」
カルチュアはなんだか落ち込んだ様子で、ポツリポツリと話し始める。
「【八神使】というのは、国籍、出身を問わず……当人の強さを選考基準として集められた大陸最強の8人だ」
おお……! なんだか漫画に出てくる組織っぽくてカッコいいな。
「我らの役目はただ1つ。人類に太刀打ちできない【脅威(カタストロフィ)】を、人智を超えた絶大な力を持って排除する。いわば、世界の平和と秩序を保つ為の大陸の守護者だとでも思ってくれ」
「なるほど……」
「そしてここからが本題になるのだが。実を言うと我は近々【八神使】として、とある【脅威】の討伐任務に就く事になっていた」
「ふむふむ」
「しかし、我の武器であるバハムートは先の試合で貴様に叩き切られた。おかげで槍の再生治療が済むまで、我は万全の状態で戦う事は不可能だ」
再生治療……あの槍も生きているっぽかったし。
修理というよりは治療という表現が適切なのか。
「あの? 貴方が任務に出られずに困っているのは分かりましたが、それと私達のマスターと何の関係が……?」
「もう、鈍いわねピィ。この王女様はこう言いたいんでしょ? 自分の代わりに、担い手にその任務をこなしてほしいって」
「その通りだ、黒髪の美少女よ。【八神使】の代理として【脅威】を排除する事に成功すれば、リュートの名は間違いなく大陸中に広がるだろう」
「おー、それは悪くない話だな」
「我としても、私欲で挑んだ決闘のせいで任務をこなせないのは心苦しかった。これは互いにメリットのある話だとは思わないか?」
「ああ。是非とも、乗らせて欲しい」
俺がそう答えると、カルチュアは右手で小さくガッツポーズを作る。
「よし、貴様ならそう言ってくれると思っていたぞ!(やった! これでもっともっとリュートと一緒にいられるゾ♡)」
「それじゃあ早速、その【脅威】とやらの情報を教えてくれないか?」
元々、俺よりも実力の劣るカルチュアに任されていた任務。
油断さえしなければ問題なく攻略可能だとは思うが、念には念を入れておくべきだ。
「いいだろう、心して聞くがいい。全人類を恐怖に陥れる【脅威】の1つ……」
「「「……ゴクッ」」」
「その名も……『吸精の魔女』だ!!」
「「す、すいせいのまじょ……!?」」
吸精の魔女。
そいつは一体、どのように恐ろしいヤツなのだろうか……?
【一方その頃 地下牢】
「う、うぅぅぅぅ……! だじなざいよぉ……! わだじはめがみなのにぃ……!!」
「まだ言っているのか、この偽物女神が!!」
「反省しない限り、ここからは出さないぞ!! このゴミが!!」
「……ごみ? 私……神様なのに、ゴミなんですか?」
地下牢に閉じ込められ、泣き喚くばかりだったインポティ。
しかしそんな彼女も、衛兵の一言でハッと我に返る。
「……ひどい」
ゴミだと言われた。
不敬で、無礼で、絶対に許しがたい侮辱の言葉。
こんなにも心を傷つける言葉を……どうしてこうも簡単に吐き出せるのだろうか。
「あっ……」
そして気付く。
それはかつて自分が、よく口にしていた言葉であると。
ついさっきも、彼女は流斗に対して散々ゴミだと罵っていた。
「……」
インポティは流斗の事を良く知っている。
毎日死んだ顔で自分の経営するスーパーに入店してきたかと思えば、買い物を終えて帰る時にはポイントカードを愛おしそうに撫でながら帰っていく。
たかが買い物で何をそんなに喜んでいるのだろうと、不思議に思っていた。
「毎日、毎日……ずっと」
気になって彼の過去を調べたら、それはもう凄惨な日々。
家族、同級生、同僚、その全てにゴミ扱いされて育ってきた人生。
当時は哀れに思う程度の感情しか抱かなかったが……今は違う。
「彼は……どうして、耐えられたのでしょうか? ああ、どうして……どうして、どうして?」
地下牢の隅にうずくまり、ちゅぱちゅぱと指を咥えながら考え込むインポティ。
「……わかんない。もうなにもわからないよぉ」
あともう少しで改心出来そうなところまで来ていたインポティであったが。
人間に堕ちたショックと、現状の多大なるストレスにより……幼児退行。
「ひっく、ひっく、うぇぇぇぇぇぇん!! ままぁぁぁぁぁっ!!」
幼い少女のように、インポティは泣きじゃくるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます