第12話 武道大会・予選開始(秒速決着)
武道大会への参加受付を済ませてから、武道大会が開催される日までの間。
俺達はガストラの街でのんびりと過ごしていた。
毎回の食事に大喜びするピィ。
常にクールに装うも、初めての食事やベッドでの睡眠の際にはどことなく浮かれているように見えたルディス。
時々、二人が喧嘩する事はあっても……なんだかんだ俺達は仲良くやれている。
「……さて、いよいよか」
そして遂に、待ちに待った武道大会の日。
俺はアックスの姿に戻ったルディスを背負い、闘技場に来ていた。
『予選があるなんて面倒よね。どうせアタシ達の優勝で決まりなのに』
「仕方ないさ。でも、油断はしないようにな」
参加者が多すぎるせいか、まずは本戦に進むための予選を行うらしく。
参加者達全員は闘技場内ではなく、裏口の前に集まっている。
ちなみに参加者ではないピィには大量のお菓子とジュースを買い与え、観客席で観戦するように伝えてある。
あんなに可愛い女の子が一人で過ごすのは危険だとも思ったのだが、危なくなったらステータス画面を開いて俺に危機を知らせるので安心だと言われた。
※時が止まるのを認識出来るのは俺だけなので、すぐにピィの危機を察知出来る
もしもピィを誘拐しようとしたり、危害を加えようとしたりする者がいれば……俺は躊躇う事なく試合を放り出し、そいつをぶち殺すだろう。
『担い手、アンタ緊張してる?』
「いいや、全然。早くルディスを振るいたくて仕方ないよ」
『ふふっ……そうね。アタシ達のコンビネーション、見せつけてやりましょ』
そんな風にルディスと話していると、急に周囲が暗くなる。
何事かと思い顔を上げてみたら、そこにはバカでかい筋肉質の男が立ちふさがっていて……俺に降り注ぐ陽の光をブロックしていた
「おい、なんでこんな場所にレベル0のザコがいるんだ? あ?」
俺を見下ろしながら、大声で喚き立てる。
それによって周囲にいた他の参加者達も、こちらに注目を始めた。
「悪い事は言わねぇから、とっとと帰りな。てめぇみたいなザコが来る場所じゃねぇんだからよぉ」
「……」
「しかもなんだぁ? ザコの分際で立派な斧なんか持ちやがって。こいつぁとんだ宝の持ち腐れだぜ!」
ガハハハハと笑う男の手には、無骨な斧が握りしめられている。
どうやらこの男も斧使いであるらしい。
「……最悪だな」
ああ、思い出す。
自分よりも劣っている相手を見下し、理不尽に絡み、悦に入るような人間達。
かつての俺はそんな奴らに屈し、言われるがままであったが……今は違う。
「あん?」
「お前みたいな図体しか取り柄の無いバカが多いせいで、斧使いはカマセだとか弱いとか言われるんだよ。ちょっとは自覚しろよ、自分が能無しだってさ」
俺は大男を見上げながら、毅然とした態度で言い返す。
「な、なんだぁっ……!?」
「俺がザコだったら、なんだ? 人の心配をする前に自分の心配をしろよ。それに、対戦相手は一人でも弱い相手がいた方が自分に有利だとは思わないのか?」
「……死にてぇようだな」
言葉じゃ言い返せないからか。
大男は顔を赤くし、握りしめた斧を振り上げた。
それを見た多くの者達は、俺が死んだと思った事だろう。
「細切れにしてやるぁっ!」
「ごめんな、ルディス」
一瞬の閃光。遅れて聞こえるキンッという音。
それだけで、全てが終わった。
「……おぇ?」
大男の持つ斧の刃部分が、みじん切りのようにバラバラになって降り注ぐ。
「お前の最初の相手に、こんなザコを選んじまった」
『ほんっとサイアク。こんなつまらないものを斬らされるなんて』
「な、なにが……?」
何が起きたのか理解出来ずにいた大男が、あたふたと斧の柄の部分を見つめている。
俺はそんな大男に近付くと、ルディスの刃を首元に突きつけた。
「これ以上この子を汚したくないんだ。この意味、分かってくれるよな?」
「ひ、ひやぁあああああああああああああっ!?」
脅しが効いたのか、大男は絹を裂くような悲鳴を上げて逃げ出していった。
そしてそれと同時に、俺達を囲んで見守っていた参加者達がざわつく。
「アイツ……何をしたんだ?」
「あの男はレベル0じゃないのか!?」
「かなり……やる」
大男を一瞬で撃退した俺の実力と表示されるレベルのギャップに驚いているのだろう。
よしよし、これでまた一つ俺の噂が広まる事になった。
「お前達! 何を騒いでいる!?」
しばらくの間、ガヤガヤと騒ぎが大きくなっていると。
闘技場の中から出てきた一人の男性が参加者達を一喝した。
「私は武道大会の運営を任されているオズボーンだ。これよりお前達参加者に、予選内容を伝える」
オズボーンと名乗ったのは、騎士風の格好をしたスキンヘッドの中年男性。
一応確認してみたところ、レベルは54となっていた。
「アレを用意しろ」
パンパンとオズボーンが手を鳴らすと、これまた入り口から四名の男達が出てくる。
その手には抽選箱のようなものが握られていた。
「私の後ろにいる男達が持つのは、本戦トーナメントの組み合わせを決めるくじだ。予選の内容は、ただこのくじを引くだけでいい」
そう説明したオズボーンは腰に差していた剣をスラリと抜き、参加者達の方へと突きつけてきた。
「ただし、そう簡単に抽選箱までたどり着けるとは思わない事だ」
なるほど。予選を兼ねた本戦の抽選も行おうというわけか。
ルールも至ってシンプルで、実に分かりやすい。
「おい、オズボーンってたしか……レストーヌの近衛騎士隊長じゃないのか?」
「レベル52だから間違いねぇ。そんな奴を倒すなんて……」
「そうだ! 全員で一斉に抽選箱に向かおうぜ! そうすりゃ、何人かは犠牲になっても確実に……!」
参加者達はそんな話をしながら、あーだこーだと攻略方法を考えているようだ。
そしてとうとう意を決したのか、十人くらいの参加者達が武器を手に握りながら……ジリジリとオズボーンへと詰め寄っていく。
「「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおっ!!」」」」」」」」」」
ゴリ押しで抽選箱へと向かう参加者達。
だが、オズボーンは呆れたように剣を振り上げると。
「むぅんっ!!」
思いっきり、地面に叩きつけるように剣を振るう。
「「「「「「「「「「ぎゃああああああああああああっ!」」」」」」」」」」
それによって発生した凄まじい衝撃波が、飛びかかっていった哀れな男達をまとめてぶっ飛ばしてしまった。
「む? かなり加減したのだが、一人も残らんとは嘆かわしいな」
涼しい顔でそう言ってのけるオズボーンを見て、何人かの参加者は怯えたように逃げ去っていく。
レベル52の壁は、この世界においてはかなり厚いようだ。
『ねぇ、担い手はどうするのよ?』
「うーん。そうだなぁ」
ここはあくまでも予選で、観客も観ていない場面だ。
オズボーンと戦って勝利したところで、俺の知名度を上げる効果は薄いといえる。
「サクッとクリアしようか」
俺はルディスを背負ったまま、ゆっくりとオズボーンの方へと近づいていく。
するとオズボーンは俺の顔を見て、驚いたように口を開く。
「レベル0……? しかし、なんだこの身のこなしは……いや、プレッシャーは」
長年の経験による勘が働いたのか、冷や汗を浮かべながら一歩後ろへ下がるオズボーン。
その一瞬の怯みを、俺は見逃さない。
「なっ、消えた……だと!?」
俺の姿を見失い、オズボーンが動揺した声を漏らす。
しかしすぐに、彼は俺の姿を見つける事になる。
「13番です。これで合格ですよね?」
「「「「えっ!?」」」」
俺が抽選箱から引き抜いた13番と書かれた玉を見せると、俺の前に並んでいた抽選箱を持つ男達が同時にギョッとする。
「なにぃっ!?」
オズボーンも振り返り、驚きの声を上げる。
あれだけ警戒していた俺の姿を見失ったどころか、いつの間に通り抜けられていた事が信じられないといった様子だ。
「貴公、何をしたのだ……?」
「え? ただ走っただけですけど」
文字通り、ただそれだけ。
オズボーンはこの言葉だけで、自分と俺の実力差を痛感したらしく。
「……合格だ」
悔しげにそう呟いたオズボーンに「どうも」と答えた俺は、くじの玉を握りしめたまま闘技場の中へと進んでいく。
『あははははっ! みんな呆然としていたわね! 担い手、ナイスだったわよ!』
俺の背中で大はしゃぎのルディス。
彼女を使用しなかったというのに、俺の活躍を自分の事のように喜んでくれるのは素直に嬉しい。というか可愛い。
『この調子で世界をあっと言わせてやりましょ。アタシと担い手と……あのカードがいれば無敵だって事を分からせてやらないとね!!』
「ああ、やってやるさ」
ちゃんとピィの事も口にしたのは偉いぞルディス。
この大会が終わったら、ご褒美としてたっぷりと甘やかしてあげないとな。
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