第21話 レディ・ダンデライオン

「ね、ねぇ……なんなのよ、その作家名ペンネームは……」


 レディ・ダンデライオンたんぽぽ


 ダンデライオンたんぽぽですって??


 あのどんな逆境にも耐え凌いで咲くという……


「ね、ねぇ、も、もしかして、わたしの名前ペンネームもそんな印象でみんな見ているわけ?」


「いや、レディ・カモミールの場合は作品自体がインパクト大だからね。名前ペンネームは別に……」


「別にって言われるのもなんだか腹が立つわね」


「それより、僕は一体どうやってその作品を手に入れようか切実に考えているんだよ! だからノエルもなにか知ってたら……と思ったのに」


 それより。


 人の大切な仮の名ペンネームをついには『それより』の一言で片付けたわよ、この男。


「わたしからも一言言わせてもらうけど……」


「ん?」


「おーい! ロジオンちゃ〜ん! 何こんなところで逢引なんてしちゃってるんだよ〜」


(げっ!)


 こんなところで油なんて売ってて大丈夫なのかと聞こうとした。


 ……したのだけど、わたしたちはいつの間にかむさくるしい一味に囲まれていて、ガタイの良い近衛隊の人たちと交流することなど無縁のわたしの精神状態は絶体絶命の瞬間を迎えていた。 


「ロジオンちゃん、抜け駆けはひどいぞ!」


「顔がいい男はいいよな〜」


「この前のご令嬢はどうしたんだよ〜」


「ずるいぞ〜ずるいぞ〜」


 と、各方面からロジオンを避難(でる?)声が一斉にわたしたちに集中して気が狂いそうになる。


(あ、圧が……圧がすごい……)


 文字にしたことがないジャンルの人たちだ。


 描くとなると、どんな物語になるのかしら?と結局想像を膨らませている自分もなかなかのツワモノだと思う。


「はいはい。今から戻りますから!」


 ロジオンが降参したと言わんばかりに大きなため息をつく。


「さ、あっちいってくださいよ! ノエルがびびってますから!」


「ひっ、ひっでぇ〜」


「所詮は顔だって言いたいのか、ロジオンちゃん!」


 散々いじられているロジオンは、どうやら彼の仲間たちの中では愛されキャラのようだ。


 ずいぶん関係は良好のようで安心した。


 普段あまり見ることのない隊員としてのロジオンを見られるのは新鮮で面白い。


 そして、口々にロジオンに野次を面白おかしく(絶対わざとだ)飛ばす彼らも、凄まじい脇役モブ力が感じられて親近感が湧く。


「ロジオンちゃ〜ん、紹介してくれよ〜」


「ひっ!!」


 ぜ、前言撤回。


 やっぱりこんなにも筋肉の圧に迫られたらなんとなく恐怖心を覚える。


「同僚なんだ。いいやつらなんだけど……」


 ごめんね、とロジオンが申し訳なさそうな声を出す。


 すっと前に出た彼は心なしかわたしのことを守ってくれているようにも見える。


 彼はわたしとさほど背丈が変わらないからわたしのことをすっぽりとは隠してくれないのだけど。


 その努力だけは嬉しくて、思わず頬が緩んだ。


 レディ・ダンデライオンがなによ。


 健気に咲くお花ですって。


 そんなの関係ないわ。


 レディ・カモミールには相棒がいる。


 とてもとても心強い相棒だ。


 彼がいる限り、レディ・カモミールは無敵なのだ。


 書けるなら書いてみなさい。


 レディ・カモミールはその上を書き続けてみせるから。


 だって、この王宮せかいは広い。


 ネタの宝庫よ。


 人の作品に便乗しなくても、探せば書く題材など山ほどあるのだ。


 考える力をなくしては人は前には進めない。


 などと、改めて強気な発言で持ち場に帰り、洗濯物を放置したということでわたしはこのあとメリルさんにみっちり叱られることとなる。


 だけど、そんなわたしは知らなかった。


 レディ・ダンデライオンの作品はわたしの作品をただ悪用したわけではなかったのだということを。


 そして、この人物が、わたしの運命を大きく変える一人になるということを。

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