第179.6話 遂に明日……
(侯爵令息視点)
俺の名前はオルフェ・イーノック。しがない侯爵令息であり、公爵令嬢ミロア・レトスノムの婚約者だ。
ミロアは俺の幼馴染で、元王太子だったガンマ殿下との婚約を破棄した後に冴えない俺と婚約してくれた。だからこそ、いつまでも冴えないままでいられない。婚約が決まったあの日から、俺は少しずつ自分のペースでミロアのためにできるようになろうと決心したんだ。
しかし、その決心が揺らぎそうなほどミロアはしっかりした女性に豹変していた。
言っては悪いが、嘗てのミロアは結構感情的だったと思う。あのガンマ殿下の婚約者だった頃は過激な行動を後先考えずにしていた。恋に盲目で落ち着きのない感じだった。今は全く逆で、慎ましくて思慮深い感じになっている。もはや豹変したと言っても大げさではないだろう。
そんなミロアは遂に明日、学園に復帰するのだ。久しぶりの登校。婚約者の俺がフォローしなければならない。
「……今度こそ、俺がしっかりしなくちゃな。今度は状況に流されるわけにはいかない……」
これまで俺は突然降って湧いたような状況に流されるばかりだった気がする。特に心に残っているのは、我が家にミロアとその父親のレトスノム公爵がやってきて、その日のうちに俺たちの婚約を取り決めたことだ。あの時は『え?どういうことだ?』と頭が追いつかなかったものだが、後になって大喜びしたっけ。
「思えば、あれは公爵家の事情ゆえの婚約だ。普通ならそう簡単にはいかない」
ただ、喜んでばかりではいられなかった。公爵令嬢との婚約となると諸々の準備と手続きが必要だった。そんな忙しい中で、ガンマ殿下たちが迷惑な計画を企てているということで、公爵家は俺の影武者を用意した時は驚かされたもんだ。
「……公爵家の凄さを見せつけられた気がするな」
国で唯一の公爵家。その力の一端を見せられたのだ。多分、あれが噂の『陰』なんだろう。そんな裏方を持つ家の令嬢の婚約者という立場の重さを思い知ったものだった。……正直、プレッシャーがのしかかる。
「それでも、俺はミロアのために……!」
ミロアの力になって見せる。もう『え?どういうことだ?』なんて思うことがないように頼れる男に、伴侶になって見せよう。もう厄介な連中は排除したもんな。
「……そういえば、マーク・アモウは随分大人しくなったな」
あのローイ・ミュドが牢屋で自殺してから、騎士団に解放されたマーク・アモウは何かに怯えていた気がするが……もしかして?
「ああ、そういうことか」
暗黙の了解というのはこういうことか? そもそも、あの連中の自業自得だからこれ以上は知る必要もないだろう。今の俺にとって重要なのはミロアだけなんだから。
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