第99話 些細な問題
ミロアが目覚めてから二十二日目。その日もレトスノム家の家族は、昨日のように和やかな時を過ごしていた。表面上は。
((…………))
父と長女だけは顔には出さなかったが、昨日のことが気になっていたのだ。決して、些細な問題ではないのだから。
((早く話し合いをしなければ……!))
ミロアとバーグは二人して同じことを思う。だからこそ、義母と義妹を残して話し合う時が来た時、早速昨日の話の続きとなった。
「ミロアよ。婚約者を決めてしまうということで早期解決を目論んでいるようだが決して簡単な話ではない。正直言って私は賛成しかねる」
(ですよねー)
ミロアの予想通り、バーグは渋った。父としても、公爵としても。
「お前はつい先日、婚約破棄したばかりだ。もちろん、王家側の有責であるため何の負い目もない。だが、反省を踏まえて考えると気軽に婚約などするわけにもいかん。言い方が強引だが、次の婚約者をすぐに決めてしまうのは公爵家として示しがつかんのだ」
(まあ当然の反応よね。いくらお父様が娘思いだからと言っても、王太子と娘の婚約を破棄したばかりなのに男避け目的で婚約者を見繕うとなると渋い顔をするわよね。娘を取られたくない気持ちと公爵の立場上、首を縦に振れないか……)
「それに、お前が望む婚約者とはイーノック侯爵家の長男オルフェ・イーノックなのだろう。幼馴染は彼だけだからな」
「当たり前ですわ。オルフェは今の私が一番信頼できる男の子ですから」
ミロアの提案する婚約者を見繕う作戦。その中で一番重要な婚約者はオルフェに決めていた。彼は今のミロアを肯定し、ミロアのためになる行動を取っているためミロアの信頼を得ることができたのだ。そのことをバーグも知ってはいるが、それでも渋い顔は変わらなかった。
「……オルフェとは気心の知れた仲なのはよく分かるが、彼はやや男として弱々しい印象がある。それに『名ばかりの侯爵』という陰口もよく囁かれている。我が国の悪習のようなものだが、いくら上級貴族だとしても……」
バーグの言っていることは事実だ。確かにオルフェに少し気弱な面があることはミロアもよく知っているし、『侯爵』の立場にいる家の多くが『名ばかり』と呼ばれていて、そのうちにイーノック家もあることも頭に入っている。
(お父様は、そんなものは些細な問題でしかないと分かっていないわね)
「お父様、そんなのはこの国の問題であり彼自身に非はないはずです。気弱な印象があることも分かりますし、事実、オルフェはガンマ殿下たちのような気の強い人ではありません。そもそも、オルフェが弱い部分は些細な問題ですわ」
「ほう? 些細な問題とはどういうことだ?」
バーグは渋い顔を変えないままミロアの顔をじっと眺める。
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