第98話 前世の記憶(2)
「……そもそもここは、この世界はやっぱり乙女ゲームかなにかが元になっているのかしら」
学園にいる者達の状況と本性を知って、ミロアは改めてそう思うようになった。
「……結構癖のある人がいっぱいいるし……」
公爵令嬢の自分、その婚約者だった男は王太子、側近は脳筋と腹黒とヤンデレ、庇護欲を掻き立てる男爵令嬢、幼馴染の青年、公爵で娘思いの父、義母と義妹、公爵家の家臣たち。自身を含めて知る人のすべてを思い返すミロアはそう思わずにはいられない。特に前述の者達は際立っている。
「でも、この世界を生きる私にとっては嫌でも現実……そうなると私の立ち位置はやっぱり『悪役令嬢』……なのかな? だとしたら、状況をひっくり返すことはできる可能性もあるよね……?」
前世の知識では乙女ゲームの『ヒロイン』が『悪役令嬢』を蹴落としてクリアとなる。ゲームの達成条件はヒロインが攻略対象と結ばれて幸せになることだが、その多くは悪役令嬢の不幸。
「でも、ゲームじゃなくて小説の世界の可能性もあり得るのよね……私には前世の記憶があるし……」
ただ投稿小説や恋愛小説などでは、ヒロインと悪役令嬢の立場が逆転する内容のほうが圧倒的に目立っているのだ。特に悪役令嬢に前世の記憶がある形で、ヒロインか王子に『ざまぁ』を突きつけるという逆転劇に面白みを感じるのがミロアの前世の『日本人』だった。
「前世の世界……というよりも『日本人』というのは『異世界転生』ものが好きなのよね。『日本』っていうのは色んな国の文化が入り込んでいるみたいで多種多様な知識があるから、そういう国の人故なのかな。別の世界だとか異世界に変な憧れを抱くのよね」
異世界転生。それは今のミロアに当てはまる。『魔法』などの異能の力など存在しなくても、ミロアは自分がファンタジックな状況にいると感じずにはいられない。
「そして『逆転ざまぁ』も大好き。その二つを一緒にしたシナリオが『悪役令嬢』が主人公になる話。そういう存在になることに憧れたことは前世でなくもなかったけど……本当にそういう事になってみると結構複雑なものよね。便利な時もあれば、時折怖くもなるし……。そういう意味では『日本人』っていうのは面倒くさい人種だったのかもしれないわね。ふふ……」
前世の日本人のことを思い出すミロアは不思議な懐かしさを感じる。所詮は前世の記憶であって、ミロア自身は日本人に会ったことなどないし、日本に行ったこともない。それでも、『前世の記憶』というだけでミロアに与える影響は非常に大きかった。
「……もう、こんなこと考えても仕方がないか。私にとって『ミロア』にとっては『前世』じゃなくて『今』が重要なんだし……」
ミロアは今の自分が重要であるとして考えるのを止めて眠りにつこうとした。明日も長い話し合いがあるのだから。
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