第96話 男爵
「娘思いということは……娘のためならば何でもしてしまうということです。現に旦那様がお嬢様のために王太子との婚約を破棄して、ガンマ殿下を失墜させたのが分かりやすい例でしょう」
「本当によく分かる例だわ」
当事者なのだから当然のことだ。
「つまり、男爵がお嬢様を害する可能性もあり得ると考えてもいいということです。場合によっては公爵家から圧力をかけてもいいくらいには警戒すべきかと」
「でも、男爵に過ぎないでしょう? 公爵家から圧力なんて……そこまでしなくてもこっちが公爵家と分かっているなら別に……」
「その通りです。男爵では公爵家には勝てません。家柄、地位、権力に関しても天と地の差があります。だからこそ、それこそ強引なことをなさる可能性もあり得ることでしょう。立場の差など関係ない手段で」
「! ……なるほど……」
エイルの言うことは、男爵がガンマたちのように行動するかもしれないということだ。むしろ目の敵にしているとなると命の危険もあり得る可能性すらも。それに気付かされたミロアは再び前世の記憶をたどる。
(なるほど、確かに男爵家が立場が弱いから敵として弱いという考えは禁物。前世を思い返せば、問題を起こす男爵家だって恋愛小説には結構いるじゃない。殆どが男爵令嬢が婚約者を寝取って騒ぎを起こすけど、それに便乗する男爵も少なくはない)
ミーヤ・ウォームのことを『ヒロイン』ではなく『男爵家』として焦点を合わせて考えると、結構前世の恋愛小説で噛み合う話も出てくる。
(『ヒロイン』にこだわりすぎて、相手が『男爵家』なのを失念していたわ。男爵っていうのは貴族の中でも下級、中には平民に近しい人もいたり、平民から貴族に成り上がった人がいたり……そういえばウォーム男爵は先代が後者だったわね)
ウォーム家は現当主のドーリグ・ウォームの父親が興した家だ。今のドープアント王国の中で比較的新しい貴族であり、平民に近い家なのだ。
「……男爵、それも比較的平民に近い家柄。それなら貴族らしからぬ盲点をつかれることも……」
「そうとも言えますね」
「っ!?」
気づかないうちに思っていたことが口に出ていたミロアだったが、たまたまエイルと話が噛み合った。
「男爵と言えども貴族です。どのような立場であるかなど熟知していて当然でしょう。それでも娘のことと立場を天秤にかけて前者を取るという可能性は捨てきれません」
「そうね。男爵にとって私達は敵ってことかしら……。間接的に娘が傷つく要因になったしね」
「お嬢様、貴族とはそれだけで味方も敵も多い存在なのです。それ故に、味方と敵を見定め、どのように接していくかが重要になっていくのです。誰に寛容であるか、誰に非情になるか、それが貴族の将来を決めるのです」
「エイル?」
「お嬢様は今、大きく変わっていく真っ最中。なればこそ、ウォーム家の者達に対してどう動くべきか深く考えるべきかと存じます」
「……そういうこと」
エイルの言葉の意味、それは貴族として大きな意味があるとミロアは理解した。
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