第92話 釘を刺す

ゴウルの状態が万全ならエイルもミロアの発想に賛成仕掛けただろうが、流石に今は反対するしかない。



「……お嬢様、確かにあの二人は極めて優秀ですが、それに甘えてお嬢様が自ら危険を犯すということは許容できません。そもそも、ガンマ殿下に関しては仮にも王族です。たとえ王太子でなくなったとしてもその権力は侮っていいものではありません」


「それなら王家の方に釘を刺すのよ。レトスノム公爵令嬢は婚約者ができたから、王家にそれをいち早く伝えるの。遠回しに手出しは許さないってね」


「っ!」



確かにレトスノム家の影響力は王家にも及んでいる。国で唯一の公爵家の名はそれだけで、強大なのだ。王家も侮ることはできないため、その王家にこちらから早めに婚約関連のことで伝えることは一種の牽制にもなるのだ。



(つい先日お父様に婚約破棄を要求されたばかりの王家、そのうえ襲撃のこともあって頭が上がらないはず……私に婚約者ができましたって伝えるだけでガンマ殿下にも釘を刺せる。流石の殿下も今の国王夫妻に強く言われれば諦めるかしらね)


「……マーク・アモウはどうするんですか? 向こうは伯爵家ですが宰相の息子ですよ?」


「マーク・アモウは自分で行動することに不得意じゃない? ガンマ殿下や元騎士団長の息子だった男に比べると行動力にかけていると思うわ。体を動かすことにはすごく不得意なはずだしね。秘密裏に彼の父親にも釘を刺しましょうか」


「なるほど……」



確かに、ガンマのように押しかけたり、騎士団長の息子でありながら罪を犯した側近と比べると行動力がないとも言える。学園の成績において運動能力が著しく低いのもあるが、あまりにも慎重すぎるのだ。オルフェに遠回しにミロアの様子を見てくるように頼んだこともそうだ。可能な限り、自身の手を煩わせないタイプとも言える。



(宰相は慎重な人だと聞く。そんな人には、息子が野心をもって行動していますよと気付かさせるだけでいい。わざわざレトスノムの名を使うまでも無さそうね)


「ローイ・ミュドは……さっき聞いたから分かるでしょうがお嬢様に強すぎる好意を持っています。しかも、騎士団長の息子だった男ほどではないですが、武芸もそこそこのようですよ」


「普段は紳士的で曲がったことが大嫌いな男で通っているわ。そんな男が女性に手荒なことをするかしら? ましてや恋心を抱いた相手に強引に迫る可能性は低いんじゃない? 彼の父親に学園で息子がどんな行動をしているのか遠回しに伝えれば今後は控えるんじゃないの?」


「……まあ、そうとも言えますね」



ミロアのことがなければ、ローイ・ミュドはいたって紳士的な好青年という感じの男だ。例えるのならばガンマとは真逆のタイプ、勉学も武芸も優秀で正義感もみせる男だ。ミロアに極端に執着して、ガンマたちやオルフェに突っかかるような強引さがあったのが残念なくらいだ。


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