第91話 婚約者がいればいい

「婚約者……そうよ、婚約者がいればいいんだわ!」


「お、お嬢様!?」


「私に婚約者がいれば、あいつらを引き離すことができるわ!」


「な、何をっ!?」



ベッドから起き上がって思いついたことをそのまま口にしてしまうミロアに、エイルは驚かされる。突然、婚約者がいればいいと言うのだから当然だ。



「お、お嬢様は何を言い出すのですか!? 婚約者ですって? それがどうして解決に繋がるのですか!?」


「エイルも言ったでしょ? 私に婚約者がいないから狙われるんだって。それならこっちで婚約者を決めてしまえばいいのよ! あいつらに諦めてもらうためにね!」


「そのために婚約者ですか!?」



エイルは、ミロアが血迷ったのではないかと思ってしまう。先程まで、面倒事で頭を悩ましていたはずなのにこんなことを思いついてしまうのだ。もしかすると、もう少し後から話をすればよかったのではないかと後悔し始める。だがミロアの発想にはまだ続きがあった。



「私に婚約者ができればガンマ殿下たちも諦めるか強引な行動に出るはず……諦めてくれればいいけど、強引な手段に出るようならこっちも手加減しないで叩き潰してやるのよ!」



ミロアとの婚約を目論む男たちにとって、肝心のミロアに婚約者ができてしまえば後の行動を変えざるを得ない。いさぎよくミロアを諦めるか、諦めずに強引な手段にでるか。後者ならば、ミロアも公爵家の力を使って容赦はしないということだ。



「っ!? お嬢様、それではお嬢様に危険が及ぶのではないですか! 強引な手段というのなら何をされるのか分かったものではありませんよ!」



貴族の男が強引な手段。まともな者ならそんなことは滅多にしないが、ガンマやマーク・アモウはまともとは言い難い。大きな野心を持っているため、学園という閉鎖的な場所で強引な手段にでる可能性は十分にある。今となってはローイ・ミュドも不安だ。嘗てのミロアをよく知っていればそれがよく分かる。



「そういうことから身を守ってくれる護衛騎士が二人もいるでしょう?」


「っ! そ、それはそうですが……」



護衛騎士とは女性騎士のソティー・アーツノウンと『陰』の出身のゴウル・アンディードのことだ。二人の戦闘能力を考えればミロアのことを十分守ることができるだろう。



(確かに、ソティーもゴウルも信頼できる騎士だ。ソティーは女性だからお嬢様も接しやすいし騎士としては極めて強い。ゴウルも元は『陰』の一員だ。その技術力と騎士として戦力は非常に頼れるものだ。だが……!)



今のゴウルは、見た目からは分からないが、決して軽くはない程度の負傷をしている。閉鎖された環境の学園の情報を持ち出すために挑んだ戦いの傷は決して軽くはなかったのだ。



(今は『陰』の技術の総力を上げて治療に当たっているから、お嬢様が学園に復帰するまでには間に合うかどうかという状態だ。いや、そもそもお嬢様にすらゴウルの状態が悪いことを明かしていない。不味いな)



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