第82話 兄弟で継承者争い

「教科書の内容は概ね合っています。間違ったことは載せていないようですが、すべての事実を載せているわけではないようです」


「つまり、重要な事実だけは上手く隠しているわけね」



教科書にも載らない事実……それだけ分かれば、ミロアはだいたい予想できた。だてに前世の知識を駆使して変わったわけではないのだ。



「戦争に反対した王族……アモウ家の始まりだったいう当時の王弟の存在。その人物こそが王家の恥に繋がるのね。例えば戦争の元凶だったとか……?」


「どっちかと言うと逆ですね……」


「逆?」


「当時の王家は、兄弟で王位の継承者争いがあったそうです。結果的には当時第一王子だった方が国王となり、第二王子が王弟ということで収まりました。もっとも、兄弟の中は険悪というか、兄が弟を嫌っていたようです」


「兄弟で継承者争いか……」



兄弟と聞いてミロアの頭には、ガンマと滅多に会わない第二王子アナーザが浮かんだ。二人は年が離れているため王位を巡って争うことはないと思っていたが、ガンマがあれでは心配だと思った。ただ、今はエイルの話のほうが重要で、二人のことは後回しだ。



「国王になれた兄はあまり頭が足りなかったようで……ここからは公にされた通り隣国に宣戦布告して国力を高めようとなさりました。当時の王妃もそれに賛成だったようです。ですが……」


「そこで王弟になった弟が大反対したわけね。教科書通り愚かな戦争をするなって」


「そうです。戦争派が大多数だった王家……特に国王の兄は大激怒しました。そのまま怒りに任せて弟を王家から追放したのです」


「うわぁ……ガンマ殿下みたいね。……というよりもガンマ殿下が似ているわけか」



気に入らない者を怒りに任せて追放……ガンマが国王になったらやりかねないとミロアは想像してしまう。そういう意味ではガンマが王太子じゃなくなって本当に良かったものだ。



「でも、怒りに任せて王家から追放するにしてはちょっと違和感があるわ。今のアモウ家はそこそこ大きい伯爵家で、今の当主は宰相の立場にいる。当時の国王は実の弟が反対するから追放するような人なんでしょ? 言い方が悪いけど酷い仕打ちをするにしては生ぬるいんじゃない?」


「……確かに当時の国王は王弟を亡き者にしようとまで考えた可能性があったようです」


「やっぱり」


「しかし、王弟に味方する方々が少なからずおりました。当時の宰相や騎士団長、その他の重役におられる方々がそうでした。そして、それ以上に王弟の妻だったお方が国王を思い留ませたのです」


「王弟の妻が?」



国王を思い留めさせたのは王弟の妻。意外な事実にミロアは驚いた。だが、本当に驚くのはここからだった。


「王弟の妻ってどんな人なの? 結構傲慢な国王の考えを変える事ができるってことは、結構な出自の人なのよね」


「はい、当時は公爵令嬢であり国王の……『元』婚約者だったそうです」


「え?」

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