第78話 黒歴史

「え? なにそれ? あのガンマ殿下が派手な服装を?」



過去のミロアのこともあってか、ガンマは派手派手しいものを好まない感じだった。それが何故?



「どうやら、以前のミロアお嬢様の趣味嗜好を参考にしているのだとか。派手な姿を見せつければミロアお嬢様の気を引けるとでも考えたのでしょう」


「はぁ!? 何よそれ……え?」



それだけ言われると察しがついてしまう。特に前世の記憶を持ったミロア・レトスノムであればなおさらのこと。



(あの王子が派手な服装? 私と婚約するために……まさか……!)


「は、派手ってもしかして……昔の私の趣味に合わせて……具体的に教えてくれる……?」



嫌な予想が頭に浮かんだミロアは震える声でエイルに確認する。そのエイルも何だか憐れむような顔つきになっていた。その顔を見ただけで嫌な予想が当たっているとミロアは確信してしまった。



「……そのようです。以前お嬢様が着ていた派手なドレス等と似たような服を着飾るようになっていると聞いています。それだけでなく以前お嬢様が身につけていた宝石付きの指輪やネックレスと同じ趣向の宝石や装飾品まで買い集め始めていると」


「はあああああっ!?」



ミロアは悲鳴をあげて頭を抱えた。エイルの言葉通りなら、今のミロアとガンマの関係は以前と立場が逆転していると言ってもいい状況だ。



「何を考えてんのよガンマ王子は! いや、それしか思いつかないんだろうけど他のことをしてよマジで!」


「お、お嬢様……」



嘗てのミロアがガンマの気を引こうとしたように、今のガンマがミロアの気を引こうとしている。しかも、愛情はないが似たような派手な服装をしていると……。ミロアにとっては耐え難い事実であった。



「じょ、冗談じゃないわよ! あんなバカ王子に恋するようなヤンデレストーカーだった私の黒歴史を一端でも実践しているなんて! まさか、学園で私の所業をブーメランで返されるってこと? わああああ、恥辱の極みよ!」


「お、お嬢様落ち着いて……ヤンデレ? ブーメラン?」 



エイルが目の前にいるにも関わらず前世の知識特有の表現方法を喚くミロア。しかし、無理もないことだろう。嘗てのミロアは自分で言ったとおり、『ヤンデレストーカー』という黒歴史があるのだから。遂には、ベッドに潜り込んで悶てしまう。



(うわああああ、嫌だ嫌だ。あのガンマ王子に派手な格好で『ミロア、一緒に~~しよう!』とか言われて付きまとわれることになるなんて考えるだけでも嫌なんですけど! バカ王子に復権目的でストーカーされるなんて『ざまぁ』みたいで本当に勘弁してほしいんですけど!)



過去の自分の行いを今再び反省して苦しむミロア。まさか、相手に実践される形で返されているとは流石に思わなかった。

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