第61.2話 自身に言い聞かせる

その時のミロアは絶望して涙すら流していた。まさに心ここにあらずという顔。それを見たガンマは晴れやかな気分になって笑顔がこぼれてしまった。ただ、それがいけなかった。そんな様子のガンマをミーヤに見られてしまったのだから。



『ガンマ殿下は酷いです! ミロア様になんてことを! ご自身の婚約者じゃないですか! なのにあんな……!』


『み、ミーヤ……?』


『触らないで! 私は女性にあんなことを言ってあんなことをする人となんかと一緒にいたくありません!』


『っ!?』



ガンマがミロアにした仕打ちに激昂したミーヤは、ガンマの手を振り払ってミロアのもとに寄り添ってしきりに心配し始めたのだ。放心状態にあるミロアの目にはミーヤのことなど眼中にもなかったようだが、ガンマの方は信じられない光景だった。嫌いな女を好いている女が介抱しようとするなんて思いもよらなかった。



その後から、日常は一変する。ミーヤは可能な限りガンマとの接触を拒むようになったのだ。他の側近はそのままなのに、ガンマだけを避ける。ガンマはわけが分からなかった。



それから程なくしてミロアの父である公爵がガンマとミロアの婚約の解消を求めに王宮にやってきた。それがきっかけでガンマの両親にミロアにしたことがバレて厳しく叱られてしまった。そのことが気に入らなくてミロアに文句を言うために彼女のいる屋敷に出向いてみれば、当のミロアはガンマへの思いを捨て去ったかのように変わり果てていた。しかも、強気な態度を示しガンマを追い返してしまったのだ。



勝手に屋敷にいるミロアに会いに行ってしまったことをきっかけに、遂に両親に見限られることとなったガンマ。更に追い打ちをかけるかのように、側近だったグロンが王宮に向かう道中の公爵を襲撃して返り討ちにされるという不祥事を犯してしまうしまつ。これはガンマの責任ではないのだが、学園でこの話が流れたせいでガンマの指示なのではという噂が流れて居場所も無くなってしまった。



そして遂には、婚約破棄が成立してガンマの将来も変わった。それが今に至るまでのことだ。



「……僕がいけなかったのか……? いつまでもミロアのことを蔑ろにする僕が……いつまでも向き合おうとしないこの僕が……!? い、いや、ま、まだだ……ミロアともう一度婚約さえすれば……僕はもう一度だって王太子に返り咲けるはずだ……! ミロアだってきっとまだ僕のことを好いているはずに違いないんだ! 僕が、僕の方から謝りさえすれば……きっと!」



ミロアと良好な関係を築けばやり直せる。半ば自身に言い聞かせるかのように呟くガンマ。しかし、彼は根本的なことが分かっていなかった。ガンマが王太子でなくなったのはミロアの仕打ちもそうなのだが、そもそも彼自身の性格に問題があるとみなされたことも決め手となっていたことも。



今更、ミロアに歩み寄ろうとももう遅いのである。彼女との関係も、彼自身の立場も。

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