第46話 元側近
ガンマには三人の側近がいた。騎士団長の息子のグロン・ギンベスと宰相の息子のマーク・アモウ、そしてローイ・ミュド。最初の側近はこの三人だった。
ローイ・ミュドは、他の二人と違って侯爵令息であり、父親が侯爵というだけで大きく目立つほど重要な立場にいるということはなかった。侯爵と言ってもオルフェのイーノック家のように戦争の後で昇格した『名ばかりの侯爵』の一つとして知られている。
ただ、ローイ・ミュドは名ばかりという陰口を気にするような素振りはなく、むしろそんな陰口に屈しないような芯の強い印象があった。細かいことを気にしたり、気になったらすぐに突っ込むような気質ゆえに曲がったことが大嫌いという印象もあった。少なくともミロアはそう思っている。
(あの性格上、婚約者がいながら一人の男爵令嬢に執心する殿下には本当に嫌気が差したでしょうね。真っ先に見切りをつけて離れたのは正しい判断だったわ。私もそうしていれば……)
ローイ・ミュドはガンマが男爵令嬢のミーヤ・ウォームに執心してからは何度も諌めてきたのだが、ガンマの方は一切聞き入れず無視するばかり。挙げ句には他の側近の二人とともに蔑ろにするようになった。そんな王子を見限る気持ちはミロアも痛いほど分かるのだ。
「――なるほど、かつての元側近に助言を求めるのか。だけど、俺も君もローイ・ミュドとは全く接点がないぞ。彼が俺達に都合よく助言してくれるのか?」
「私も彼もガンマ殿下に振り回された者同士よ。それにちょっと言いにくいんだけど……侯爵令息という立場でいうと貴方とどこか似通ってるでしょう?」
「え……ああ、そうか……」
オルフェと似通っているというのは陰口を言われる立場のことだ。あえて遠回しに告げるミロアの意図をオルフェはすぐ理解した。
「だけど、それでもローイ・ミュドから協力してもらえる理由がないよ。そこはどうする?」
「そうよね、現時点では元側近でガンマ殿下に早く見切りをつけるような人だということしか分かっていないわ。でも、それだけで殿下の味方になるような人じゃないと分かる。自分から側近を辞めてしまうなんて王族に反感を買うようなことをしてのけるんだから、案外助けてほしいと言えばいいだけかもしれないわね」
確かにローイ・ミュドはガンマから反感を抱かれている。何しろ学園でミロアは見てしまったのだから。目の前でガンマの元を離れると口にしていたローイ・ミュドの姿を。
『僕はもう貴方と一緒にいたくありません! 今日をもって側近を辞めさせていただきます!』
その際、ミロアの横を通り過ぎていったのだが、その時にこんなことを口にしていた。
『レトスノム嬢、貴女も殿下と離れたほうがいいです。あの方はまともじゃない。もう少し、殿下のことを客観的に見てください』
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