第31話 女性騎士
バーグ・レトスノム公爵が王宮に向かったその日の午後、屋敷の兵士の訓練場でミロアは一人の女性騎士と立っていた。
「お嬢様、護身術を習うとお聞きしましたが覚悟はよろしいですか?」
「ええ、お願いします!」
黒髪をポニーテールにした赤眼の女性騎士はソティー・アーツノウン。二十代前半ながら並の騎士では敵わない実力者であり、あのダスターとスタードが護身術を習う相手として推薦した人物だ。戦争時に活躍した騎士を父親に持っているため、子供の頃から女性騎士を目指して鍛錬を積んだ経験を見込まれて、ミロアの先生に抜擢されたのだ。
「お嬢様、貴族の娘が護身術を学ぶということは相当大変なことです。お嬢様の父君であるレトスノム公爵はとても強い剣士ではありますが、お嬢様は剣の手ほどきなどは受けたことはないと存じます。それでも私から学ぶと?」
「はい。今の私には最低限でも自分を守れるだけの技術が必要なのです」
これからガンマに絡まれる未来が予想される。最悪、暴力という名の理不尽に集団で晒される可能性が高い。いくら専属騎士を二人つけられるからと言って、それで安心するわけにはいかないのだ。最低限の抵抗ができるくらいにはミロアも自分の強さがほしい。
(こんな世界だもの。私にできることの全てをやらなきゃ)
「分かりました。この私ソティー・アーツノウンが責任をもってミロアお嬢様に護身術を身に付けさせていただきます」
そして、今日ミロアは貴族生活の中で初めて激しい運動と大量の汗を掻くという経験を味わった。前世でもここまで感じたことがないと言えるくらいには。
◇
「はぁ〜……疲れた」
自室に戻ったミロアはベッドにダイブする。前世の癖だ。
「護身術を学ぶのがこんなにきついなんて……っていうか、私が貴族の体だからかな?」
初日のソティーの授業は基礎的なところから始まった。体をほぐす運動から始まって、筋トレにランニング、木剣を持たされて振るわされる。更にはソティーと模擬戦を行って、その後で初めて『女の護身術』の本格的な授業が始まったのだ。
「……ソティーの授業は騎士だからかな? いわゆる『脳筋』の感じ? でもまあ、これが続けばすごく強くはなりそうだから何も文句はないわ。むしろこれくらいやらなきゃ……」
ミロアはベッドに寝転がったまま眠り込んでしまった。それだけ疲れ果ててしまったのだ。
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