第30話 親バカ

(私の対極……悪役令嬢にはヒロインだから……もしかしたら……)



ミロアが考え事をしているとバーグが声をかける。



「ミロア。むしろ私はミロアのことが心配だ。体はもう痛まないとはいえ今日から護身術を習うのだろう?」


「! はい。昨日のことで思うところがありまして、習うだけでも強みになるかと」



ガンマが突然訪問した時とても焦ったが、結果的にミロアの前世の知識を応用して作戦を実行してガンマを追い返すことができた。それも婚約解消の材料の獲得とともに。


しかし、それは時と場所が屋敷で強い味方がすぐ近くにいたからという比較的有利な条件が揃っていたからだ。ミロアのようなか弱い女性が一人だったらそうはいかない。学園ではミロアのほうが不利になるため少しでも理不尽に抗える術が必要なのだ。



(多分、付け焼き刃になるだろうけど、私もいざという時に身を守れるくらいの強さはほしいし。専属騎士が付いてくるのはいいけど剣士の父を持っているのに弱い女って見られるのは癪だしね)


「私としては無理しないで護身術など習わなくてもいいと思うのだが、ガンマ殿下を王太子にしようとする王家のことを思うと反対はしない。だが、辛くなったらやめてもいいのだぞ」


「いいえ、立派な剣士でもあるお父様のように身を守れるくらいの強さがほしいのです。やめるつもりはありません」


「そうか、分かった。ではお前こそ気をつけてな。出発せよ!」



バーグはミロアの頭を撫でた後で馬車に乗り込んだ。馬車の窓から手を振ってるあたりミロアのことを子供扱いしすぎている気がする。笑顔で手を振り返すミロアはそう思った。



「……もう。お父様にとって私はいつまでも子供なのね。まあ、そう思われても仕方がないか」



二週間以上前のミロアは、ガンマに恋するあまり周りが見えず、意地を張ったり、家族に迷惑をかけてきた。年の割には、子供らしすぎる頭だったとミロア自身も思う。



「……あんなに娘思いの父親を持って私は恵まれた方なのに、色恋沙汰に夢中になって気づかなかったなんて情けないわ」



ミロアの前世の知識で言えば、バーグは『親バカ』というものだ。おそらく、ミロアに構ってもらうようになって嬉しく思っているのだろう。だからこそ、若干過剰とも言える行動に出ることができるのだ。ミロアを子供扱いしすぎるのもそのせいかもしれない。



「でも、もう子供とは言わせない。これから立派な淑女になって暴力王子との関係も断ってやるんだから!」



今のミロアには前世の記憶がある分、子供どころか大人じみた思考ができる。何しろ、前世では大人になって働いた経験まであるのだ。それが彼女に強い自信を与えるのだ。

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