第13話 父のために
自室に戻ったミロアは一人の侍女と相談していた。その侍女はエイル・ロウド。短めの金髪に碧眼でそばかすがあるが整った顔の女性だ。ミロアが子供の頃から屋敷に仕えていたため、ミロアや屋敷のことも熟知していた。
「……ということなんだけど、私がお父様になにかしてあげられることはないかしら?」
「そうですね~。お嬢様にできることですか……(何か言わないと、せっかくのいい機会だし)」
エイルは、驚き焦った。ミロアからこんなことを聞かれるのは珍しかったこともあり、ミロアのために何か力になってあげたいと思っていたのだ。だが、ミロアの父にして公爵のためになることと聞かれると、少し難易度が高い。
(仕方ありません。旦那様との関係は改善されてるみたいなので、後はあの方たちだけですし……)
エイルは思いついたことが難易度があると知っていたが、今のミロアがなんだか大人びた様子を察して賭けに出るように口にした。
「でしたら……義母様親子と仲良くなるというのはどうでしょうか?」
「え?」
「いえ、いきなり仲良くなるのではなく、わだかまりを解くというか、少しずつ歩みよるということです。お嬢様とあの方々と和解できれば旦那様も気が楽になると思いますのですが……」
「……」
エイルの言う義母様親子というのは、義母のイマジーナと義妹スマーシュのことだ。この二人は父バーグの所有する別の屋敷で暮らしている。しかも、ミロアの住む屋敷から少し離れた場所にあるのだ。何故ミロアたちと一緒にいないのかと言うと、初合わせの時にミロアが激しく拒絶したからだ。
(あの頃の私は幼くて何も分かっていなかった。母親を否定されたようで、父親を取られそうだと思って……可愛かったスマーシュにも嫉妬して、受け入れなかったわけよね……)
ミロアの記憶に残る義母と義妹は、薄い赤髪を長く伸ばした黒眼の美しい女性と小さな赤ん坊だ。義母のイマジーナと義妹スマーシュをひと目見た時から、ミロアは激しく嫉妬していたわけだ。美しい女の姿と可愛い女の子の姿に。
(私の我儘で結局二人とは別々に暮らすようになったけど、お父様としては辛い選択だったのかも……)
「……そうね、いつまでも義母様と別々にというのはおかしい話なのよね。元は私の我儘がいけないんだし」
「そ、そんなことは……お嬢様がいきなり現れた人を「母」として受け入れられない年齢だったんですよ。旦那様がもう少しそういうことに配慮なされれば……」
「それもそうだけど、今の私はもう許容できるくらいの年齢だわ。だって公爵令嬢ですもの(立場はね)」
「お嬢様……」
「エイル、ありがとう。今日の夕食の時に義母様とスマーシュに会えないか話してみるわ」
「そ、そうですか! それは良かったです!」
エイルは感激した。色よい返事が聞けたのが嬉しかったのだ。その後、二人は長く談笑したり、周りのことを話し合ったりした。当然、最初の話題だった義母と義妹のことも詳しく。
(……エイルの情報が正しいなら、私が虐げられるようなことはなさそうね。別居ぐらしを容認できるぐらいだし)
ミロアの前世の記憶には、後妻となった女とその家族に前妻の子供が虐げるという話があった。もちろん逆に後妻とその家族が虐げられる話もあったが、ミロアはそんなことがないように気を配るつもりだ。
(義母と義妹とは、少しずつよりよい関係を築きたい。義母のイマジーナは大人しくて気弱な人みたいだし、義妹のスマーシュは可愛くて人見知りがちみたいだしね。問題は私への気持ちか……)
ミロアが拒絶した結果、義母と義妹が別の屋敷で暮らすことになっているため、いい感情は抱いていないだろう。しかし、父バーグのためにも少しずつでも歩み寄らなければならない。
「……まあ、お父様から聞いてみていけそうならすぐに会わないとね」
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