129 大大、大事件である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。神様のケチ~~~!!


 神様は結局、何もアドバイスしてくれなかった上にドングリをぶつけて来たので文句を言っていたら、ドングリが山ほど降って来たので、もう言いません。

 それを見ていた神主さんに「御祓いして行きな? タダにしておくから」と言われたけど、この神社の主神であるアマテラスノオオミカミをはらっては逆恨みされそうなので、会釈だけしてその場を立ち去った。掃除させてゴメンなさい……


 作戦はいまいち上手くいかないし神頼みは呪われただけで終わったので、ここ数日の私は超不機嫌。カラスが「カー」と鳴いただけで睨む始末。

 このままではかわいい顔が台無しなので、朝から勉強して気持ちを落ち着かせる。スマホは電源オフだ。


 集中して勉強していたら、あっという間にお昼。こういう時は、何かしているほうが気が紛れるもんね。

 時間を忘れて勉強したせいで、もうすぐ正午。急いでジュマルのエサを作らなきゃとパタパタと階段を下りてリビングに入ったら、ジュマルは大画面でテレビを見ながら足で顔を掻いていたので、ピキッと来た。


「お兄ちゃん! また足で顔を掻いてるよ! 汚いからやめるように言ったでしょ!!」


 さすがの私もキレた。自分から受験すると言って多くの人に迷惑かけたにも関わらず、勉強もしないでゴロゴロしていたのではもう無理だ。

 私は作戦も忘れて、スポーツに戻れと言ったり家庭教師をつけろと言ったり罵ったりと、ここ数日溜め込んだ全てを吐き出してやった。


 でも、ジュマルは聞いてないな。横目でテレビ見てやがる!!


 私は腹が立ってリモコンを取ろうとしたら、ジュマルは素早く奪って背中を丸めて唸りやがった。

 そんなことされたのは私も初めてなのでちゃんと話を聞いてみたら、UFO?? はあ~~~??


 どんな話の逸らし方だよと怒りが増えたところに、次はスマホが鳴り止まないだと……ジュマルが登録してるのは幼馴染ミーズとキャプテンぐらいだろ!!


 その上、このUFO映像が報道番組の生放送だと~~~??


「ホンマや!?」


 テレビをよく見たら「ライブ」と「緊急放送」の文字。関西弁のキャスターが、これまでの経緯をまとめた映像を振ったけど、UFOから「ワレワレは宇宙人」って放送が流れてるんだとか……


「今日って、エイプリルフールだっけ??」

「なんやそれ??」

「4月1日??」

「たぶんちゃうで」

「だよね。8月だもんね……」


 ジュマルにも「何月かぐらい覚えとけ!」とツッコミたかったけど、UFOのほうが優先。


「宇宙人が宇宙人ですって自己紹介するか!」

「してるで」

「してるんだけど~~~! なんで日本語を流暢に喋って皇居とか知ってるのよ~~~!!」

「それはアレや。日本人をさらって頭ん中を調べたんやろ。まえ、テレビでやってたで」

「お兄ちゃんにしては詳しいね……」


 ジュマルが珍しく知的なことを言ったから、私もクールダウン。それが正しいかは置いておいて、一旦落ち着こう。

 よくよく考えてみたら、私はなんて幸せ者なんだ。輪廻転生のおかげで神様と会えて、異世界で魔法を使って戦う猫の動画を見ることもできるし、宇宙人まで見れるなんて!

 今度、あの猫に自慢してやろう。私はUFOと宇宙人を見たんだって……あの猫もUFOを信じてたから、きっと悔しがるはずだ。



 私は平行世界で生きる元夫のことを考えていたら、正午のカウントダウンが始まった。

 そのしばらくあとに、現場にいるアナウンサーが興奮しながらUFO着陸までを見たまんま実況していたら、UFOの一部が開いてレッドカーペットを敷いた階段が出て来た。

 

 その光景にテレビの中は騒がしくなっていたけど、降りて来たモノの全身が映し出されると無音になった。


「なんか猫みたいな宇宙人やな」


 そう。ジュマルの言う通り、紋付き袴を着た白猫がUFOから歩いて降りて来たのだ。


「ブハッ! アハハハハハハ。ヒィヒィ。アハハハハハハ」


 いや、平行世界に旅立った元夫が戻って来たのだ。これが、猫の動画が飛んでいたことの真相。神様は私を笑わそうとUFOのことを隠していたのだ。

 そのせいで、私は死ぬほど笑ってテレビも見れない。アナウンサーが次々と降りて来る変わった見た目の者を紹介しているが、頭に入って来ないよ。


 さすがに死にそうなぐらい笑い転げていては、ジュマルも心配そうだ。


「俺以外でそんなに笑うのは珍しいな」

「ゼェーゼェー。そ、そりゃ、あの人が帰って来たんだもん。そ、それも、プッ、や、約束通り、ね、猫のままで……アハハハハハ」

「あの人? 約束? なんのことや??」

「アハハハハハ、ハハハ、おかえブッ! アハハハハハ」


 私が元夫に「おかえり」すら言えないまま笑い転げていたら、ジュマルもわけもわからずテレビに目を移す。

 そんな私は、希望に満ち溢れた顔で笑っていた。


(そうだ。あの人に相談してみよう。あの人なら、きっとお兄ちゃんをいい方向に導いてくれるはずよ)


 私は期待を込めて、涙を流しながら元夫を見詰めるのであっ……


(あと、生身でモフろう。夢の中でも気持ちよかったしね。それとララちゃんネルに出して視聴者を取り戻そう。エマもスランプ脱出するかもしれないし。なんなら、お兄ちゃんと戦わせる動画もいいかもね)


 それとよからぬことも考えていたのであったとさ。


 まさか突然訪ねて来た猫を見て、笑い死にするとは知らずに……



              おしまい



 ……というか、この回は『アイムキャット!』の最終回とリンクして、『アイムキャット!!!』の16日目にこの続きは出て来ます。

 そして『猫王様の千年股旅』にもその後は書かれていますので、大人になったジュマルとララが何をしているか確認してください。

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