118 将来の夢、決定である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。ララちゃんネルの主役は私じゃなかったっけ?


 両親の私たちへのドッキリが止まらないので質問してみたら、姉妹の反応がかわいすぎてやめられなかったんだとか……エマは娘じゃないだろ。どっちが姉だ?

 現実を突き付けたら母親はガッカリしていたから、本気で娘だと思っていたみたい。エマのスッピン見たらその気持ちはなくなると思うよ? あと、あの胸は広瀬家のDNAではな……悲しくなるから言わんとこ。


 父親もガッカリしていたから様子を見ていたら、舌打ちしてた。これはギャルへの復讐じゃね? だから裏方のはずのエマをイジってたのか!?

 父親には「これ以上やったら口をきかない」と脅してなんとか主導権を奪い返し、編集の仕方を習う私たちであった。



 それからひと月が過ぎた頃には、ララちゃんネルはやや面白みに欠ける内容になってはいたが、すでに五十万人以上の固定客は付いているので私たちだけでも切り盛りできるようになっている。

 なのでエマとだべりながら楽しく動画を作っていたけど、エマは私に言いたいことがあるらしい。


「ララはもう少しキャラ付けしたほうがよくないか?」

「キャラ付けって??」

「な~んかJKぽくないんだよな~……落ち着いてるって言うか……この料理動画でも、主婦ってコメントだらけだろ?」


 確かに私は人生二度目だから、大人びているとよく言われる。大人びているどころか「本当に子供か?」って、ツッコまれることが多かったね。


「もうちょっとかしましくしろってこと?」

「かしましくって……それがJKっぽくねぇんだよ。キャピキャピしろよ」

「あ、それそれ~。てへ……なんだっけ??」

「ぺろだ。それも古いけどな!」


 てへぺろすらできないJKでごめんなさい。それすら古いなんて、女子高生の流行りの流れが早すぎるわ~。

 エマは四苦八苦しながら私に今の流行りをインプットして、動画を撮影。そして母親にコンプラチェックをしてもらったら、鼻血吹いた。いいのダメなの、どっち!?


 母親は親指を立てて「グッ!」としていたから、動画はアップだ!


「は~い。美人すぎるJKチューバー、ララだお。ララちゃんネル始まったよ~。パチパチパチパチ~」


 ツカミをかわいいポーズと口足らずにするだけで、コメント爆発。この「ピアノを弾いてみた」ってぬるい動画だけで、一気に10万人も登録者が増えたよ!


「うお~! キャラ付け作戦、大成功だな!!」


 なのでエマも大興奮だ。


「う、うん……ちょっと恥ずかしいけど……」

「いいじゃんいいじゃん。アイドルだって演技してんだから。それを乗り越えてのアイドルだ」

「それは夢も希望もないような……」

「ララだってノリノリで演技してたじゃん。てか、演技か……それいいな。次は、有名なドラマのシーンを撮ってみようぜ」

「あっ、今までにないパターンだね。面白そう!」


 というわけで、ドラマ好きの私も乗って撮影してみたら、けっこう評判がいいのでシリーズ化となった。まぁ服とか両親が用意してくれたから、クオリティもよかったしね。


「やっぱりララって、演技の才能もあるんじゃね?」

「そ、そう??」


 こうもベタ褒めされると私も照れちゃう。生まれた頃から赤ちゃんの演技を頑張って来た甲斐があるってものだ。


「女優も夢じゃないぞ」

「女優か~……そうよね。昔からドラマ好きだから、その道もアリよね……あっ! 宝塚音楽学校、入り忘れてた!!」

「プッ……おっそ。でも、女優だったら今からでも遅くないだろ。ちょっと調べてみよう」


 今まで将来の夢にかすみが掛かっていた私が女優に興味を示したら、エマは嬉しそうにスマホで調べ始めた。私も気になるので、自分のスマホで検索だ。


「オーディションってのが普通みたいだね。そうだ! 友達が知らないうちに書類を出したっての、やってみたいな~?」

「ウチに出せって言ってるのか??」

「うん!」

「出してもいいけど、ララなら普通に合格するんじゃね? けっこう有名人だし……」

「普通は面白くない!!」


 よくよく考えたら私は芸能界からのオファーが何度かあったから、書類なんて事務所に出したら「待ってました!」と一発合格してしまう。酷い場合は出来レースとか言われそうだ。


「もっとこう、下積みなんかも経験してトップに登り詰めたいのよね~」

「変なこだわりだな。ララらしいっちゃララらしいけど……じゃあ、この人は? 読モから雑誌の専属モデル、そして女優になって、いまでは人気ナンバー1女優だ」

「ドクモって……なに??」

「マジで??」


 初めて聞く単語だったので質問してみたら、エマに残念な目で見られた。


「簡単に言ったらモデルだな」

「あ~。パリコレか~。それもいいな~。ライバルを蹴落とすようなイジメとかあるんだよね~」

「それはスーパーモデルだ。なに目指してんだ??」

「女優だけど……」


 元お婆ちゃんでは読者モデルもスーパーモデルも違いがわからないので、エマから説教に似た説明を受ける私であった。


「わかった。わかったから。でも、女優もいいけど、キャンパスライフも楽しみたいのよね~。それからでも遅くないよね?」

「ワガママか! 幼い頃から必死こいてモデルや女優になった人に謝れ!!」

「えぇ~。遅咲きでもよくな~い??」

「もうしらねぇ!!」

「あっ! エマ、カムバ~~~ック」


 せっかく夢が決まったのに先送りにするものだから、エマは呆れて離れて行き、私は女優気分で映画の名ゼリフを言うのであった……


「ララが追って来いよ!!」

「えへへ~。てへぺろ」


 その名演技が気になって戻って来てくれた優しいエマであったとさ。

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