114 お兄ちゃんと一緒リターンである


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。酔っ払いの相手は面倒くさい。


 酔っ払った両親に絡み付かれたので寝ていたジュマルに助けを求めたら、父親を投げ飛ばした。やりすぎだけど、明日には記憶がないだろうからまぁいいや。

 とりあえずジュマルにも協力してもらって、両親を布団に寝かせる私たちであった。ここだけの話、ちょっとだけお酒飲んじゃった。指に付いたの舐めた程度だよ?


 家族旅行の帰りは、両親は二日酔いでグロッキー状態。私も寝坊して、新幹線の時間に遅れてしまった! 私はお酒のせいじゃないよ? 両親に付き合っていたから寝るのが遅くなっただけ。ジュマルは役立たずだし。

 というわけで、帰りは飛行機。ジュマルには噓をついて飛行場に連れて言ったら「にゃ~にゃ~」言ってる。喋れよ。


 私がめちゃくちゃお願いすることでなんとか飛行機に乗ってくれたけど、イスに座った瞬間、コテンと眠った。寝るなら今までの苦労はなんだったんだ?

 ジュマルの初フライトは無事終了して、本人も「ぜんぜん怖ないやん」とか言っていたから、次回からは飛行機移動ができるようになったのであった。



 学校生活に戻った私は、授業は真面目に1年先の勉強をして、休み時間は机に突っ伏す毎日。


「いい加減、ジュマル無しの生活に慣れろよ」


 それを見兼ねてエマがつついて来たけど、私はそんなことを考えていたわけではない。


「もう、暇で暇で……バイトでもしよっかな?」

「手に余る金を持ってるのに、バイト? ケンカ売ってんのか??」

「なんでそうなる??」


 確かにスマホの中には使いきれないお金を両親が入れてくれてるし、銀行口座には見たくもない大金が入ってるけど、お金持ちがバイトしてはいけない法律なんてないはずだ。


「ウチなんて、少ないこずかいとお年玉でやりくりしてんだぞ。頭悪いから、勉強もおろそかにできねぇからバイトもできねぇし」

「エマはそんなに頭は悪くないじゃない? なんだったら、上から数えたほうが早いよ??」

「努力の結果だ。下がったら、服装のこといちいち言われそうだから勉強しねぇといけねぇの。あ~あ。短時間で大金稼げるバイトとかないもんかね~」


 ギャルにも悩みがあるのかと、私もなんとかしてあげたいのでスマホで調べたら、めっちゃ割のいいバイトがあった。


「これなんてどう? 荷物運ぶだけで10万円も貰えるよ??」

「バッ!? それは闇バイトだ! 犯罪だから絶対にやるなよ!!」

「そうなの!?」


 普通の求人サイトを見ていたと思っていたら、いつの間にか変なサイトに飛んでたから私も恐怖する。こうやって若者は犯罪に誘導されるのね。

 このたった一回の失敗で、エマは私のことを常識知らずとレッテルを張ってイロイロ教えてくれたけど、なんでそんなに詳しいんだろ……あ、お金欲しくて調べまくったのですか。


「まぁネットの高額バイトってのは、だいたい犯罪絡みだから気を付けるように」

「は~い。エマ先生、わかりました~」

「あと、儲かるセミナーとかも手を出すなよ。そいつが儲かったのは、たまたまの奇跡だ。そのやり方を売って小金を稼いでるだけなんだからな」

「は~い。わかりました~」

「それと、動画配信もやめとけ。素人がやっても、家族と友達しか見てくれないんだから…な……ん~~~??」


 ここまで饒舌じょうぜつに語っていたエマは、急に止まったと思ったら私に顔を近付けて来た。


「なに? 私の顔に何かついてる??」

「いや……『お兄ちゃんと一緒』……」

「へ?? エマも見てたの!?」

「ララ先生! ウチにバズり方を教えてください!!」

「さっきまでネットにいい儲け話はないって言ってたでしょ~」


 先生はいきなり交代。でも、私はジュマルを売り込むためにやっていただけなので、たいして勉強したわけでもないから何も教えられないないのであったとさ。



「たぶん、お兄ちゃんの力と、パパの編集が上手いから人が集まったみたいな?」


 あの頃の私はよくわからずにやっていたので予想を言ってみたけど、エマは腑に落ちないみたい。


「アレって、『妹ちゃん頑張れ』ってコメントばかりじゃなかったか?」

「あ~……あったね。パパが私に変な音を付けたり輝かせたりばっかりするから、意図とは違う方向に行ってしまったの」

「この映像とか超笑った。プッ……転げ回ってる。この子がララか~。アハハハ」

「私の顔を見て笑うな~~~!!」


 ジュマル目線のパルクールでギャーギャー言ってる過去の私といまの私を交互に見て大笑いするなんて、エマは失礼すぎる。

 てか、まだ見てる人いたんだな……再生回数があの頃の倍になってる!? 自分の口座を見るのが怖いわ~。


 エマへの怒りより銀行口座の恐怖が勝ったから冷静になったので、ゲラゲラ笑っているエマに素朴な質問。


「ところでエマの動画って、何やってるの?」


 するとエマの笑いはピタリと止まり、ギギギッと首を回して私を見た。


「ウチは……いいんだ。たいしたことしてないし……」

「アドバイスしろって言ったのエマでしょ。見せてよ~」

「……ぜったい笑うなよ??」


 私のことは死ぬほど笑っていたクセにとは思ったけど、顔には出さない。いま顔に出すと見せてくれないからね。見てから死ぬほど笑ってやる!!


「えっと……メイクしてるだけ?」

「うん……ギャルメイクのテクニックをな……」

「おもんなっ!!」

「笑うよりひでぇ!?」


 エマの動画は動きがないし口調も硬い。ほぼワンカットで黙々とメイクをしてるだけでは、視聴者が二桁を超えるわけがないので、笑うこともできない私であったとさ。

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