082 部活である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。閃いた!


 その日、小学校を早退した私は制服に着替えてタクシーに乗り、中学校にやって来た。そしてジュマルを捕まえて体操服に着替えさせ、野球部のグラウンドにカチコミだ。


「たのも~!」


 謎の美少女が大声で道場破りに来たのだから、男子は私に釘付け。大翔ひろと君だけ「何してるの!?」ってあわあわしてる。


「えっと……君は……君たちは何か用なのかな?」


 野球部男子は女子に免疫がないらしく、4、5人で「ワーワー」やってから「キャプテン行けよ~」と背中を物理的に押されて、キャプテンが顔を赤くしながら私たちの前までやって来た。


「この広瀬ジュマルを、野球部のエースで四番にしてください!」

「はい??」


 そこでジュマルの背中を持ってすかさず無理なお願いをしてみたら、頭がついて来てないな。


「このジュマルがいたら、優勝なんて楽勝ですよ? どうですか??」

「いや……ポジションとか打順を決めるのは監督だし……」

「じゃあ、監督が来るの待ちます。呼んで来てください」

「う、うん……」


 キャプテンは私の圧に押されたのか渋々走って行ったので、私はジュマルとウォーミングアップ。すると、大翔君が走って来た。


「ララさん。何してるの??」

「聞いてたでしょ? お兄ちゃんを野球部に入れたいのよ」

「それなら入部届を出したらいいだけじゃ……」

「それじゃあ時間が掛かるじゃない? 私は1年生からエースで四番で活躍させたいの」

「そんなの先輩方が許してくれないよ~」

「だから殴り込みに来たの」


 常識人の大翔君から説得されても、私は頑なにこの計画を曲げない。そうして揉めていたら、男子が徐々に距離を詰めていたけど、監督が先にやって来たのであった。



「広瀬さんは置いておいて、君って……」

「ジュマルのマネージャーです」

「いや……」

「マネージャーです!」

「う、うん。まぁいいや」


 監督は私の顔を知っていたのでその先は言わせねぇ。ゴリ押ししてやった。


「1年生をエースで四番と言われてもだね。実力も知らない者をやらせるわけにはいかないんだよ」

「ですから、これからテストをしてください。さすれば、エースで四番以外ありえないと思う結果になりますから!」

「こっちにも予定があってだね。もしも広瀬さんにポジションを取られたら、3年生がかわいそうだろ?」

「そうですか? 全国大会に出場できるから、いい思い出になると思うんですけどね~。監督も一回ぐらい行ってみたいと思いません??」

「そんなに自信があるのか……それなら、ちょっとだけ見てやろう」

「ありがとうございます!」


 監督からの許可が出たので、まずはピッチングから。私にいいところを見せたい男子がバッターボックスに入ったけど、ご愁傷様。


「キャッチャーは危ないんで、どいてくださ~い!」

「はい? 12歳のボール如き、3年生が捕れないわけないでしょ。あ、ノーコンなのか?」

「プロのキャッチャーお墨付きなんで。150キロは出てるみたいですけど、捕れますか?」

「150!? 嘘だろ??」

「怪我しても知りませんよ? ちなみに、これがその時の動画です」

「藤川やん!?」


 実を言うと、ジュマルに野球をさせるのは私も心配だったので、両親にお願いして元プロ野球選手の個人レッスンを先にやらせてみたのだ。

 ピッチャーとキャッチャーを雇い、残りは草野球の人を連れて来てもらってジュマルに野球を教えてもらったので、ある程度のことはできるのだ。結果は、全員へこんで帰って行ったとだけは言っておこう。


 とりあえずキャッチャーは無しにしてもらい、ジュマルが1球投げたら、バッターは尻餅ついた。


「どうですか? うちのジュマル……買いでしょ??」

「あんな球、誰も捕れないって!!」

「なんで~~~??」

「プロとやった時、ボールは何を使ってたんだ!?」


 どうやら中学校では軟球を使うらしい。だからジュマルの投げたボールは速すぎて、柔らかいボールではブレまくっていたから、バッターも当たると思って尻餅ついたらしい……

 だって、ボールの種類が違うなんて知らなかったんだもん。甲子園目指していると私が言ったから、プロも硬球を持って来たっぽいね。


「ま、まぁ、手加減したらいいだけってことですね。次、バッターやってみましょう!」


 気を取り直して、私にいいところを見せたい男子をピッチャーマウンドに向かわせ、ジュマルには持参した木製バッドでバッターボックスに入らせたら、プレイボール。


「あれ? ファールばっかり……」

「スイングスピードが速すぎるんだ。硬球じゃないから、たぶんミートの瞬間にボールは潰れてるぞ」

「で、でも、ホームラン性の飛距離ですよね? ね!?」

「う、うむ……」

「じゃあ、手加減すれば四番も確実ってことで。あとはフィールディングと走塁とかも見ておきます?」

「まぁついでだし……」


 監督もこの才能の塊に興味を持ってくれたのでイロイロやらせてみたら、プロ顔負けのジュマルに釘付け。どんな球でもコロコロ転がって捕ってるもんね。

 ベースランなんて、プロなんて目じゃない。ギネス記録が出たかもしれないんだって。


 ラストは盗塁。監督の簡単なサインを教えてもらい、ピッチャーの目を盗んで走り出……


「ん? ぜんぜん走らないぞ??」

「あ……ヤバイ……」

「ヤバイって??」

「お兄ちゃんって、バカなの……」

「え? それはサインを覚えられないってことか??」

「はい……」

「ここまで期待させてそれはないだろ~~~」


 残念無念。監督も期待に胸を躍らせていたのに、ジュマルがサインを覚えられないと知って超ガッカリするのであったとさ。

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