068 謎の騒動である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。赤ちゃんはコウノトリが運んで来るんじゃないの? 言ってみただけ。


 ジュマルへの性教育は父親がどこまで教えたかわからないからできる範囲で情報を集めてみたけど、けっこう深いところまで話をしていたみたい。

 だから私にジュマルを見張るという指令が来たので、6年生の教室を訪ねることが増えた。結菜ゆいなちゃんは私と仲がいいからと、一緒に中にまで入って来てる。ちゃっかりしてるな。


 そこでハーレムメンバーを見たり話をしてみたが、ジュマルは手を出したことはないみたい。せいぜい両手に花をするぐらいだ。

 おそらくだが、女性の体には反応しないのかも? それはそれでどうかと思うけど、大人になるまではそのままでいてくれ~い! まさか猫の写真とか動画でそんなことしてないでしょうね?



 ジュマルはいちおう健全に暮らしているみたいなので、たまに覗きに行くだけにしていたら、夏休みに入った。

 今年もママ友スリー家族と遊んだり、自分の友達と遊んだりして過ごし、2学期が始まるとジュマルをチェックして、何事もないと私は平和に暮らしている。


 そうして「ジュマルも来年には中学生か~」と感慨深く思いながら教室の窓から遠い目で外を眺めていたら、騒音が聞こえて来た。


 パラリラパラリラ! ブンブン! パラリラパラリラ! ブンブンブン!


 暴走族だ。こんな小学校の近くでなんて迷惑なと私が考えていたら、暴走族はどんどん近付いて来て、何故か校門に集まった。

 その騒音にクラスメート、全校生は窓にへばりついて騒ぎになっていたら、暴走族は校門をこじ開けてグラウンドをバイクで走り出した。


「皆さん! 窓から離れてください! 着席! 着席してください!!」


 暴走族が学校に侵入したのだから、担任の三十代の男性教師、松井先生もどう対応していいかわからず。ひとまず着席させて、どう動くか上からの指示を待ちたいのだろうが、クラスメートは興奮してまったく話を聞いてないな。


「みんな~? 避難訓練するよ~? どうするか覚えてるよね? まずは落ち着こう。そして先生の指示を聞こう。ね? 大丈夫だから。先生、どうぞ」

「広瀬さん。ありがとう! 着席してください。避難経路はいま校長先生たちが話し合っていますから、その指示があるまで待機です!」


 私が避難訓練と言うことで、クラスメートは気持ちが少し落ち着いて、松井先生の指示通り動いてくれた。

 そしてクラスメートが全員着席した頃に、拡声器を使った怒鳴り声が耳をつんざく。


『おい、ジュマル! 出て来いや!! テストしてやんよ!! タイマンだ~~~!!』


 その怒声に、私はハテナ顔。松井先生とクラスメートは一斉に私を見た。


「広瀬さん。お兄さんのことを呼んでますけど……」

「ちょ、ちょっと待ってください。この学校に、ジュマルって人が他にいるとか……」

「生徒にも教師にもいません……」

「お、お兄ちゃんのところに行って来ます!!」


 何がなんだかわからない私はポシェットを握ったらダッシュで廊下を走り、ジュマルのクラスに駆け込んだ。


「お兄ちゃん!?」

「ジュマルさんは寝てます……」

「なんで!?」


 グラウンドからは「ジュマル出て来い」の怒声が響いているのに、ジュマルは頬杖ついて熟睡中。ジュマルの担任に戻った池田先生も呆れているみたいだ。


「お兄ちゃ~ん。起きて~」

「ん、んん……ララ? 給食の時間か?」

「まだよ!」


 ゆっさゆっさ揺らして起こせるのなんて、私だけ。他の人がやったら引っ搔かれるから、アンタッチャブルになっているらしい……


「てか、あいつらなに?」

「あいつら?? 俺の縄張りでうるさいヤツらやな。しばいて来たらええんか?」

「しばくな! 知り合いか聞いてるのよ」

「しらんな~。なんで俺が知り合いなん?」

「だよね? じゃあ、どうしてお兄ちゃんの名前を呼んでるんだろ……」

「ララがしらんなら俺もしらん」


 謎が謎を呼んでいるが、私たちの結論が出たところで池田先生が話し掛けて来た。


「2人とも知らないのですね?」

「はい。身に覚えがありません」

「学校以外の場所で、暴走族と揉めたりしてませんよね? 例えば、ジュマルさんが勝手に外に出ているとか……」

「いえ。お兄ちゃんが私の許可なく外に出るなんてありえません」

「ララさんは保護者なの? いや、飼い主なの??」

「どちらとも言えます……」


 こんな深刻な場面に冗談をぶっ込むとは、池田先生も緊張感がないな。ウンウン頷いているってことは、私の答えに納得してくれたんだね。


 しかしながらこんなバカ話をしている場合でもないので、ジュマルと一緒に暴走族を見ていたら、急にエンジンを吹かして一目散に校門から出て行った。

 皆で「なんだったんだろうね~?」と話をしていたら、パトカーのサイレンが近付いて来たからそういうことだろう。


「逃げたみたいですね……」

「そりゃそうなるよ」


 池田先生の言う通り、白昼堂々と小学校に乗り込んだのだから、すぐに通報されるに決まってる。パトカーも暴走族を追っているのか、学校を通り過ぎるパトカーが大多数だ。


「ふぁ~あ。ララ、もう寝ていいか?」

「うん。またあとで来るからね」

「いやいやいやいや。授業中だし、渦中の人がなに言ってんの??」


 騒動が収束したのだから、ジュマルが授業を邪魔しないように許可して私もクラスに戻ろうとしたら、丁寧な言葉遣いを初めて忘れた池田先生に肩を掴まれてしまった。


「だって私もわからないんですも~~~ん」


 事実を言っているのに、池田先生は離してくれない。そうこう揉めていたら他の先生も集まって来てしまい、私とジュマルは職員室に連行されるのであったとさ。

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