066 将来の夢である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。ダンスは続けてるよ?


 ダンス教室は人が集まり過ぎたので家庭教師を雇うことになり、余っている空き部屋の一室を私の縄張りにして汗を流す。ジュマルは飽きたのか時々参加している程度なので、授業料がもったいない。

 ちなみにダンス教室は私たちが辞めたせいで、てんやわんや。そのせいで個別教室を頼んだショウ先生も離れられなくなり、弟子というおばちゃんダンサーのランラン先生が家庭教師をしてくれている。


 しばらくしたら大量に入った生徒は激減して、ちょうどいい感じに生徒が増えたと嬉しそうにショウ先生がやって来た。私たちは広告塔か!

 そのおかげで、大会に出たいとか集団で踊りたい時は無料で来てもいいと言われたけど、広告塔に使うつもりでしょ? 「バレた? てへ」じゃないのよ!


 まぁタダなら行ってもいいかもと考えながらダンスの練習に精を出していたら、両親がランラン先生が来た日の夜は「モエ~!」とかうるさい。練習する場所にはカメラを設置して、私のダンス映像をさかなに酒を飲んでいるからだ。

 てっきり私がダンスの復習するために撮っていると思っていたよ。でも、マジで私、かわいいな……



 そんな感じでランラン先生にダンスを教えてもらっていたら、休憩の時に質問が来た。


「ララちゃんって、何を目的にダンスしてるの?」

「へ??」

「あるでしょ? アイドルになりたいとかダンサーになりたいとか」

「友達の誘いを断る口実なんですけど……」

「目的無しで、こんなに高いお金払ってるの!?」

「あ、健康のためとか?」

「ないわ~。セレブな奥様みたいなこと言ってるわ~。夢の欠片もないわ~」

「すいません……」


 話を聞いたところ、このランラン先生はなかなか凄い先生らしい。それはもう、若い頃には世界大会に出たり、本気の若者を世界に羽ばたかせたり、たまにセレブ奥様で小銭を稼いだり……


「お兄ちゃんなら世界を狙えるとは思うんですけど……」

「身体能力だけならね。アレはダンスじゃない。体操やらせたほうがいいんじゃない?」

「決められた動きができるなら、体操やらせてますよ~」

「だよね~」


 ランラン先生とはけっこう話が合う私であったとさ。



 ダンスの家庭教師は目標なく続けていたら、時を同じくして「将来の夢」とかいう作文の宿題を出された。しかも、これは授業参観で発表すると聞いたからには私も頭が痛い。


「ママと一緒に弁護士するよね~?」

「パパと一緒にゲーム作ろう。楽しいぞ~?」


 その情報を知った両親が私の取り合いをしているからだ。


「お兄ちゃんの時は、なんて書いてたの?」

「ララちゃんも知ってるでしょ……」

「アレは恥ずかしかった……」


 なので、ジュマルを出したらへこんだ。だってジュマル、作文なのに一言しか書かなかったんだもん。

 だから私たちで添削というか足しまくって捏造したのに、それを読まずに「魚食べたい!」と言って着席したんだって。その場にいなくてよかった~。


 今回は優等生の私だから、両親は期待に胸を膨らませるので、何度も書き直しをする私であったとさ。



「はい。素晴らしい夢でしたね。みんなも拍手~」


 ついに授業参観の日。次々と子供が作文を読んで、保護者は涙。もしくは笑い。分け隔てなく温かい拍手が送られていたら、私の順番が来てしまった。


「将来の夢……」


 立ち上がって題を読む私に、両親の並々ならぬ視線が突き刺さるから緊張だ。


「私の夢の前に、両親の仕事を少し説明します。父の仕事は、ゲーム会社の社長です。正直、子供には難しいゲームですが、大人からは愛されているので、素晴らしいゲームを作っているのだと私は思います」


 この発言で、父親の涙腺は破裂したらしい。


「母の仕事は、皆さんご存知の弁護士です。法律を元に、強い人から弱い人を守る母はカッコイイです。立派な仕事をしていると思います」


 母親も我慢できずに涙を流したが、父親に勝ったとも思ったそうだ……


「そんな両親を持った私は幸せ者です。誇りに思います。おそらく私は、父の言う通り勉強すれば、ゲーム会社の跡を継げるでしょう。母の言う通り勉強すれば、弁護士の道は確実でしょう。でも、そんな楽な道を決めるには、私は若すぎます」


 ちょっと嫌味な言い方をして否定すると、後ろの保護者はザワザワとし出した。


「私はまだ8歳です。可能性の塊です。未来にはいくつもの道が伸びています。いまは多くを学び、力を蓄えている最中です。いまはまだ未来を決め兼ねていますが、自分で夢を見付け、自分の力で叶えたい。

 だから両親には、温かく見守り、時には厳しく私を導いてくれたらと思います。不出来な娘ですが、これからもよろしくお願いします。広瀬ララ」


 最後の一文は後ろに振り返り、読み終わると同時に私は頭を下げた。すると、万雷の拍手。皆からの感動の涙が私に送られたのであった。


 そしてこの作文は審査員の心を打って全国で金賞に輝き、両親は涙ながらに祝福してくれたのであった……


(えぇ~……どっちの仕事も難しそうだし夫婦喧嘩になりそうだったから、2人のオファーを先送りにしただけなんだけど~~~?)


 もちろん私は、引きった顔でトロフィーを受け取ったのであったとさ。

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