042 競技の助言である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。まさか四つ足で走るとは……


 小2のジュマルが四つ足で走ってオリンピック金メダリストより速かったことには驚かされたが、この記録を残していいものか私にはわからない。とりあえず隠蔽した。

 そして二足歩行で50メートルを走らせてみたら、7秒台前半……また私は池田先生に呼び出されたよ。


「これ、小6の記録を大きく上回ってますけど、どうします?」

「もうそれでいいです~~~」

「先生が噓ついてると言われるじゃないですか~~~」


 その記録は、私は面倒くさくなって、池田先生は保身に走る。どうしてもと言うのなら「2秒ぐらい足しておけば?」とか、コソコソと話し合う私たちであった。



 結局池田先生は、ありのままのタイムを提出したらしいけど、生徒間では噂になっていなかったから職員室内で話は収めたっぽい。生徒に知られると暴動が起きると思ったのだろう。

 それからも私はジュマルのクラスの体育に参加しては、池田先生から助言を求められていた。


「ジュマルさんだけ鉄棒の記録がないので、頼めます?」

「鉄棒ですか……」

「どうかしましたか?」


 私が握っていたジュマルのシャツを離すと、ジュマルは自由にする。


「お兄ちゃんの鉄棒する姿をみんなが見たら危ない気が……言ってるそばから鉄棒の上を走らない!」

「しかしですね。前回りも逆上がりも……」

「お兄ちゃんなら、たぶん余裕で出来ますよ……大車輪はやめて!」

「そのようですね……」

「コバチするな! ムーンサルト宙返り~~~!!」

「鉄棒は全部できるとしておきますね」


 私たちが喋っている横では、体操選手ばりの鉄棒をジュマルがするので、逆上がりとかはやらずに最高評価をつける池田先生であったとさ。



「ドッジボールですか……」


 次の議題は、球技。それもドッジボールだから私としてはやらせたくない。


「まずは壁当てしてみましょうか?」


 池田先生も私の顔色を見て危険を察したらしく安全策を提示していたので、私たちは壁のある場所へ移動した。


「こうやって投げるの」

「こうか??」


 まずは私が見本を見せてみたけど、へなちょこ投げ。ジュマルの球は、シュビーンッと飛んでドコーンッと壁に当たった。


「ララさんよりジュマルさんのほうが様になってますね」

「そうですね……」


 先生……わかってますよ! 私、小1の女子よ? ボールだって重たいんだから! 球技が苦手ってわけじゃないよ~?


 心の中でちょっと文句と言い訳をしていたら、ジュマルのドッジボール参加は禁止。池田先生もあの剛速球を取る自信はないらしい……凄い音が鳴ってたもん。

 しかしながら、ドッジボールのルールぐらいは教えておかないといけないので、私たちは生徒が「キャッキャッ」と楽しんでいる場所へと戻った。


「お兄ちゃん!?」


 私がルール説明していたら、ジュマルはいきなり走り出して、結菜ゆいなちゃんに当たりそうになったボールを横っ飛びでキャッチした。


「あ、ありがとう……ジュマル君が私を守ってくれた~~~!」


 すると、結菜ちゃんはめっちゃ喜んでる。周りの女子が睨んでるよ? とか言ってる場合じゃないので私はジュマルを呼び戻そうとしているのに、結菜ちゃんはジュマルと何かをやってる。


「そのボールをがく君に当ててほしいな~? ちょこまか逃げ回ってぜんぜん当たらないの」

「これを?」

「うん。そしたら、うちの勝ちなの。やってくれる?」

「まぁええで」


 私は2人の会話が聞こえてないし、ジュマルが投球ホームに入っていたので必死に大声で止めようと頑張った。


「ア、アニキが投げるんでっか!? 死んでまう~~~!!」


 岳君は岳君で命の危機を察したが、もう遅い。


「ダメ~~~!!」


 私の叫び声が響くなか、無情にもボールはジュマルの手を離れた。


 ポンポンポンポン……


「「あれ??」」


 だが、その球は勢いもなく、何度もバウンドして岳君の手の中に収まった。


「なんかようわかりまへんけど、チャンスですわ~~~!!」


 そこからは、岳君が反撃で投げたり、外野を使ってジュマル以外の生徒を狙っていたけど、全てジュマルがキャッチ。そしてその全ては、ジュマルはバウンドさせて岳君に返していた。


(あぁ~。なるほど。仲間が攻撃されたから守って、仲間には攻撃できないから軽く投げてるのか……)


 その行為は、私は納得。しかし生徒は別だ。


「アニキ! もうひと思いにやってくらはりませ~!!」

「ジュマル君。これじゃあ終わらないよ~」


 ジュマルがどちらも守るから、ドッジボールは永遠と続くんだもの。


 私は折を見て、ジュマルを引っ張ってコートから排除するのであったとさ。



 それからも私はジュマルの体育に付き合い、プールでは顔を絶対に浸けないジュマルにサジを投げ、なんとか体育の授業がなんたるか、先生の指示に従うように教え込み、掛かった期間は丸々1学期。


「つ、疲れた……」


 体育を2倍のコマで受けた私は疲労困憊。ソファーに倒れ込み、ぐで~んとなってしまった。


「ララちゃんありがと~。ララちゃんのおかげで、ジュマ君の体育の成績が5になったよ~」


 母親は成績アップに嬉しそうに私をチヤホヤしてくれるけど、気になることもある。


「他は??」

「その他は……いつも通り、心臓が止まりかけの心電図みたいよ」

「だろうね~」


 ジュマルの通信簿は、ほとんど1でたまに2。


「ララちゃん……心電図って知ってるの??」

「ち、ちらない……」


 そのせいで私は母親の誘導尋問に引っ掛かって、無駄に言い訳させられて疲れ果てたのであった……

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