040 噓と体育である
お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。猫の考えなんてわかりません。
いちおうジュマルには、なんでいつも走っているのかは聞いてみたけど、本人もなんとなくだって。それでは私も納得できないので辛抱強く聞いてみたら、気晴らしということになった。
「なった」と言う理由は、ジュマルが言葉を持ち合わせていなかったから。ずっと座っているからストレスは溜まっているような感じだったので、私が当て嵌めただけだ。
そんなジュマルが体育の授業で外に出ていたので、私はなんとなく窓から見ながら「ジャスティスローリングサンダーの佐藤君も卒業したから平和だな~」とか考えていたら、ここでも走り回っていた……
「先生! トイレ!!」
「え? あ、はい。でも、トイレは休み時間に行ってくださいね」
「すいません!!」
私が凄い勢いで手を上げてあまりにも強い圧でトイレと言ったからには、安達先生もたじたじ。クラスメートはなんか笑っていたけど、私はダッシュで教室を出てグラウンドへ。
外に出るとジュマルがちょうど近付いて来ていたので、手招きして呼び寄せた。
「おお~。ララやないか。どないしたん?」
「『どないしたん?』じゃないよ! なんで授業も受けずに走り回ってるの!?」
「外に出たからやな」
「いやいやいやいや。それで納得しないよ? 先生は何も言わないの??」
「あいつ? あいつは……最初は追いかけて来てたけど、なんかようわからん」
ジュマルの説明ではようわからんけど、私の予想では最初は追いかけていたけど追いつけないから諦めたんだろうね。それで授業にならないからアンタッチャブルになったとか?
そういえば、通知表も体育は普通ぐらいだったかも? どうしてジュマルの運動神経があってあの程度なのかと不思議に思っていたけど、謎が解けた~~~!
「お兄ちゃん。先生のところに行くよ」
「えぇ~」
「えぇ~じゃない! ついて来る!!」
「はい……」
私は面倒くさそうなジュマルの手を引いて若い女教師、池田先生の元へと連れて行った。
「広瀬ララです。兄がご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「うん。知ってますけど……ララさんって1年生ですよね? 授業中にこんなところで何をしているのですか?」
「その件は、あとで安達先生に謝罪しますのでお構いなく。これから兄が体育の授業を受けられるように尽力しますので、何卒、いまはご容赦ください」
「えっと……そこまで言われるなら……」
私があまりにも丁寧に話すものだから、池田先生もわけがわからなくなって許可してくれた。やったね!
「では、授業を始めてください」
「はあ……」
とりあえず授業が始まると、逃げ出そうとするジュマルにタックルして「先生の言う通りにやれ」と何度も命令する。
これでいちおうは授業になったけど、チャイムの音が鳴り響いた。
「ヤバッ! 先生、私、戻りますね!!」
「はい! ありがと~~~う!!」
池田先生の感謝の言葉をあとにして私は急いで教室に戻ったけど、安達先生が仁王立ちで待ち構えていた。
「あの……その……職員室でお話しましょっか?」
「ええ……」
どうやら教室からは、私がグラウンドにいたのは丸見えだったみたいなので、クラスメートが「ズルーイ」と騒いだのだろう。疲れたような怒っているような顔の安達先生に連れられて、私はトボトボと歩くのであった。
職員室に入ったら、私は安達先生にめっちゃ怒られた。トイレに行くと言って帰って来なかったどころかグラウンドにいたのでは仕方がない。
しかし、池田先生が私を擁護してくれた。それは今まで体育に参加させられなかったジュマルが、初めて参加したと涙ながらに……
この件はけっこうな問題になり、校長先生を交えて放課後に話すことになった。私は母親も呼び出すべきかとスマホを握ったが、やらかしたのは私だ。責任を取る。
しかし、今までの功績とジュマルを授業に参加させたことで、お
校長先生公認といっても、私は小1女子の身。やりたくても母親に確認を取らなくてはならない。ひとまず母親に電話して、私が説明してから校長先生に代わると許可が下りた。私はこんな時のためにこの学校に通っているもんね。
これで私は割とあっさり釈放。ジュマルと一緒に家路に就くのであった。
「ララちゃ~ん。面倒かけてゴメンね~。先生に怒られなかった?」
「ううん。ちょっとだけ」
家に帰ると今日の報告。母親は申し訳なさそうに抱きついて来たけど、喋りにくいよ。
「ところでお兄ちゃん体育の成績って、どうなってたっけ?」
「私もアレから全部見直してみたら、体育は全部平均点だったの。たぶんだけど、授業に参加してないの隠していたのかも?」
「そりゃ気付けないよ~」
「本当に……あいつらどうしてやろっか??」
「お兄ちゃんが悪いってのもあるからね??」
「だよね~……はぁ~~~」
隠蔽は悪いことだけど、前提が悪いことも忘れてはならない。母親は暴走しかけたが、そのことを思い出してため息が尽きないのであった……
その日の職員会議……
「広瀬ララさん……ジュマルさんもさることながら、あの子はいったい何者なのでしょう?」
先生たちは、広瀬兄妹の話題で話が尽きなかったらしい……
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