039 休憩時間である


 お兄ちゃんの前世は猫である。私の名前は広瀬ララ。スマホは嫌い。


 母親がスマホを買ってくれたけど、珍しく私が物覚えが悪いので大苦戦。父親も参戦して教えてくれたけど、チンプンカンプン。このスマホがハイスペック過ぎるのでは?

 そのことを聞いたら、現行モデルで一番いい物を買って来たんだって。「やっぱり~」とドヤ顔してみたけど、操作方法は他とかわらないらしい……ドヤってすみません。


 両親のスマホ集中講座を受けておよそ1週間。なんとか支障がない程度に使いこなせるようになったので、母親が洗濯物を入れに行ったタイミングでスマホ検索。ジュマルは普通にそこにいる。

 ある動画を探して何度も見ていたら、時間も忘れてつい私も盛り上がっちゃった。


「あまぎぃぃ~ごぉえぇぇ~~~♪」


 コブシをきかせて右手を軽く上下しながら半回転してキメッ!


「ララちゃん……」


 だがしかし、後ろに母親が立っており、私と目が合った瞬間、洗濯カゴを落とした。さすがの私も演歌を歌っていたところを見られたからには、変な汗がダラダラ垂れてしまった。


「キ……」

「……キ??」

「キャーーー! かわいい~~~!! もっと歌って~~~!!」


 母親の悲鳴に一瞬焦ったけど、小1女児が演歌をコブシをきかせて歌っていたからの歓喜の悲鳴だった。


「あまぎぃぃ~ごぉえぇぇ~~~♪」

「キャーーー! ララちゃ~~~ん!!」


 なので、私は何度も歌わされたのであったとさ。



 翌日は、私と母親は喉がガラガラ。大事を取って小学校は休みになったけど、風邪気味って噓ついていいの? 喉を痛めているから、風邪気味は噓じゃないんですか。風邪の初期症状の可能性もあるのですか。便利な言葉ですね。

 それならばやぶさかではない。溜まっていた韓流ドラマを母親と一緒に見て、人生初サボリを楽しむ……ジュマルのせいでけっこうサボってるな。


「あ、そうだ。お兄ちゃんにも携帯電話買ってあげたの?」

「ジュマ君にはちょっと早いかな~? ママのスマホ、画面を爪で傷だらけにされて叩き割られたし……」

「う、うん。ご愁傷様です」


 たまたまジュマルのことを思い出して聞いてみたら、母親がスマホを壊されたことを根に持っていたと知った私。どうりでリビングに置いてるところを見たことがないと、ひとつ謎が解けた私であった。



 若い体のおかげで、喉は1日で復活。翌日からは平和に授業は無視して2年生の勉強をし、休み時間に教室で友達とお喋りしていたら、みんなの目が外に向いた。


「あの人って、いっつも1人で走ってるけどなんだろ?」

「ホント、謎よね~」

「謎というより、バカなんじゃない?」

「「「「「それそれ。バカよね~」」」」」


 小1女子、容赦ない。あっという間にジュマルはバカの一言で片付けられてしまった。でも、そんなふうに見えてたんだね……恥ずかしい!


「あの……アレは私のお兄ちゃんなんだけど……」

「「「「「ええ!? ララちゃんの!?」」」」」

「よく見たらカッコイイかも??」

「「「「「カッコイイね~」」」」」


 私に気を遣ってくれているようだけど、手の平返し早くない? この距離では顔も見えないよ! 小1女子の処世術、半端ないわ~。


 そこからはジュマルの話になって、できるだけ普通の出来事を話してあげたけど、会いたいと言い出したからには止めようがない。明日のお昼休憩に会うこととなった。

 そのことは帰り道でジュマルに伝え、「普通にして」と言ったら二つ返事でオッケー。そして翌日に友達に説明したら、全員忘れてた。てか、思い出させてしまった。失敗したな~。


 給食を食べ終えたら、友達全員連れて待ち合わせ場所に行ったけど、ジュマルは遠くを爆走中。こっちも忘れてやがるな!


「お兄ちゃ~~~ん!!」


 というわけで、大声でジュマルを召喚する私であった。



「兄のジュマルです。仲良くしてね」


 ジュマルはダッシュでやって来てくれたので紹介してあげたら、友達はずっとモジモジしてる。やはり、この顔と雰囲気に圧倒されてしまっているみたいだ。


「何も質問ないなら行かすけど、もういいの?」

「「「「「待って!!」」」」」


 なのでジュマルを逃がそうとしたけど、友達は目が怖い。気持ちがひとつになって、どうでもいいことを聞いていた。


「お兄ちゃんも、もっとちゃんと答えてくれない?」

「だって、しらんもんはしらんねんもん」

「「「「「カッコイイ~~~」」」」」


 ジュマルは全て「しらん」と答えているのに、友達はそれでいいらしい……だったら私もしらんがな。好きにして。


 こうして私は、ジュマルの我慢が持つまで友達に好きにさせるのであっ……


「「「「「あっ! 待って~~~」」」」」


 5分ほどしか我慢できなかったジュマルは、あっという間に走り去るのであったとさ。



 それから友達に呼び戻してくれと言われたけど、なんとなく拒否。友達をハーレムにされたくないもん。

 なので、友達はジュマルの名前を呼んでいたけど、一向に来る気配はない。私しか操れないから当然だ。


 ぜんぜん相手にされなくてヘコム友達には、そろそろ休み時間も終わるからと言ってなんとか教室に向かっていたら、質問が来た。


「ところでジュマル君って、なんであんなに走ってるの?」

「アレは……休み時間以外、走り回るなってママわたしが言ったからだよ」

「ふ~ん……でも、私は走ってる意味がわからないの」

「それは~……なんでだろ??」

「「「「「ララちゃんでもわからないことあるんだ~。へ~」」」」」


 猫の考えなんて人間の私がわかるわけがない。ジュマルのせいで、友達からの評価が初めて下がった私であったとさ。

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